研究課題/領域番号 |
22K18082
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
林 愛美 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 学振特別研究員CPD (80837633)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | リプロダクション(性と生殖) / 女性器切除 / FGM/C廃絶 / ジェンダー開発 / 家族 / ケニア / マサイ / FGM廃絶 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ケニアに暮らす牧畜民マサイ(Maasai)のリプロダクション(生命の再生産)の全体像を記述し、グローバルな女性器切除(Female Genital Mutilation:FGM)廃絶言説の根底にある「なぜ彼女たちはFGMを行うのか」という問いに取り組む。マサイの妊娠・出産文化については、民族誌に断片的な記述が見られるのみで、全体像は明らかになっていない。本研究は、「性と生殖」および「家族」という課題を設定し、人類学のリプロダクション研究を援用しつつ、現地調査を通じてリプロダクションの基礎研究に取り組み、グローバル時代におけるマサイのセクシュアリティと生に迫る。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、ケニアに暮らす牧畜民マサイのリプロダクション(生命の再生産)の全体像を記述し、グローバルな女性器切除(Female Genital Mutilation: FGM)廃絶言説の根底にある「なぜ彼女たちはFGMを行うのか」という問いに取り組むことを目的としている。 博士論文ではケニア・マサイのFGM実践とその廃絶運動に関する研究を行い、科研費・特別研究員奨励費においても同じテーマを継続してきた。一方、生命の再生産は人間活動の根幹を成すものであり、とりわけ出産の秩序と深いかかわりを持つFGMについて研究する上で欠かせない視点であるものの、体系的な先行研究は見られない。従って初年度は日本とイギリスにてリプロダクション研究に関する史料、基礎文献および最新の文献の収集を行った。 2023年1月からは人新世の国際共同研究に招かれ、フランス国立科学研究センター・政治人類学研究室(Laboratoire d’Anthropologie Politique: LAP)に客員博士研究員として3か月間滞在した。研究代表者はAA研共同利用・共同研究課題「負債の動態に関する比較民族誌的研究(2)」の共同研究員でもあったため、LAPの研究会にて日本で行われている人類学的負債(debt)研究の紹介を求められた。口頭発表において、現在日本ではリプロダクションに着目した負債研究はほとんど行われていないこと、負債研究を通じて市場経済に回収されない「人間経済」の考察に至ろうとする場合、人間経済の典型例である花嫁代償や通過儀礼の研究は欠かせないという考えを発表し、フランスの人類学者らと議論を交わした。その後、AA研の研究会においてもフランスで得た議論の内容を紹介し、同共同研究課題におけるリプロダクション(生命の再生産)研究の可能性について提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において、研究初年度(2022年度)はCOVID-19の感染症状況およびケニアの大統領選挙に伴う治安悪化が懸念されるため、マサイ研究および人類学のリプロダクション研究を国内で十分にレビューし、次年度以降の調査項目を精査することを目的としていた。そのため、日本とイギリスにてリプロダクションに関する文献収集を集中的に行った。また、リプロダクション研究に関する研究会やシンポジウムへの参加を通じて同テーマへの理解を深めることに注力した。したがって、進捗状況を「おおむね順調」と評価した。 文献研究と並行してAA研共同利用・共同研究課題「負債の動態に関する比較民族誌的研究(2)」およびフランスでの人新世に関する国際共同研究を精力的に行った。日本とフランスの研究会では、生命の再生産について研究するためには人間の誕生、結婚、生殖、子育てといった研究代表者がこれまで想定していた場面だけでなく、死の場面をも視野に入れた研究が必要であることが指摘された。また、研究計画の段階では、調査の対象としてマサイの地域における月経、出産、家族、子育てといったリプロダクションの活動が具体的に観察されやすい場面のみを想定していたが、負債の動態に関する共同研究において人間経済との接合を考える中で、人びとはこれらの活動を常に自然とそこに偏在する神との関係において実践しているのではないかという仮説を着想するに至り、AA研・研究会にて報告した。次年度はまず、狭義のリプロダクションとされる「生と生殖」、広義のリプロダクションとされる「家族」についてのデータを研究計画に従って収集する予定であるが、ケニアでの長期のフィールドワークが実現した暁には、人新世および負債の動態に関する共同研究を通じて得られた視点も取り入れた発展的なリプロダクション研究を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、研究実施計画に沿ってケニアでのフィールドワークを主軸に研究を進める。フィールドワークを通じて狭義のリプロダクションとされる「性と生殖」および広義のリプロダクションとされる「家族」という2点の課題に取り組む。 2023年度には、ケニア西南部のマサイの集落に滞在し、「性と生殖」に関する調査を行う。同調査ではFGMと出産の関係について考察するため、月経時の規範についての調査を行う。あわせて妊娠と不妊の規範について明らかにするため、妊娠時の食事や行動に関する決まり、不妊女性の社会的地位、出産・助産の方法、そして出産とその医療化についての調査を行う。 2024年度には、前年と同じマサイの集落に滞在し、「家族」に関する調査を行う。「家族」というテーマについては、過去の調査で一夫多妻家庭の減少や花嫁代償の現金化といった変化が観察されている。したがって本研究では、結婚と婚資の変化について様々な世代の男女を対象とした聞き取り調査をおこない、その実態を明らかにする。また、家庭内でマサイの女性が担ってきた家事や育児については、先行研究においてほとんど注意が向けられることはなかった。本研究では、家事や育児といった女性たちが担っている活動を(再生産)労働ととらえ、参与観察および聞き取り調査を通じて家内労働の内実を明らかにする。 最終年度には、マサイの「性と生殖」および「家族」に関するこれまでの調査データを整理、分析し、リプロダクションの全体像を描き出すことを目指す。追加調査の必要が生じた場合には、ケニアで最終のフィールドワークを実施する。以上の文献調査、「性と生殖」に関する調査、そして「家族」に関する調査を実施し、その成果を随時国内外の学会にて口頭および論文の形で発表する。これらの作業を通じてマサイのリプロダクションの全体像を記述し、FGMとリプロダクションの秩序との関係性について考察する。
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