研究課題/領域番号 |
22K18131
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大坂 泰斗 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 研究員 (70782887)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | XFEL / 時間診断 / XSVS / 分割遅延光学系 / ダイナミクス / 強度自己相関測定 / パルス幅計測 / パルス時間波形制御 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、液体やアモルファス材料において顕現する特異な物性の起源と考えられている、原子空間スケール、ピコ秒時間スケールの自発的な揺らぎの評価手法の確立を目的とする。本目的を達成するため、X線レーザーの時間構造の高感度かつ高能率な評価、結晶素子を利用した高精度かつ連続的なパルス幅制御を実現する。そして時間構造を制御したX線レーザーを利用したX-ray Speckle Visibility Spectroscopy法によって、温度や圧力、外部磁場等、あらゆる試料環境において揺らぎの緩和時間を評価できることを実証する。
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研究実績の概要 |
本研究では,パルス時間幅の規定および制御されたX線レーザーを利用した,X線レーザーの時間幅を実効的な露光時間とするX-ray Specle Visibility Spectroscopy (XSVS)法の実現を目指す.本研究の実現にあたり鍵となる研究項目は,(1)いかに正確にX線レーザーの時間幅を計測するか,そして(2)どのようにしてX線レーザーの時間幅を制御するか,という2点である.本研究課題では,(1)としてX線自己相関器を利用した強度自己相関法を,(2)として完全結晶によるブラッグ反射によるパルス時間整形および回転傾斜結晶を利用した連続的なパルス幅伸張を提案する. 2022年度では,単結晶ダイヤモンドを利用した第2高調波発生(SHG)を非線形信号とし,自己相関器からの複製パルス間にsub-mradの角度差を設けるだけで,個々の複製パルスからの非線形信号を抑制したバックグラウンドフリー測定が可能であることを実証し,S/Nの高い自己相関関数を計測することに成功した.また,本課題において設計した回転傾斜結晶により,わずか数fsのパルス時間幅をもったX線レーザーを,最大50 psにまでパルス伸張することに成功した. 2023年度では,バンド幅の異なる複数の完全結晶分光器を利用し,それぞれの自己相関関数を測定することで,パルス時間幅を結晶分光器によって制御することが可能であることを実証した.これは時間と周波数とのフーリエ変換関係に由来するものであり,非常にロバストなパルス時間整形法として有用だと考えられる.また,回転傾斜結晶によるパルス幅伸張現象のモデル式を一般化させ,光学系の最適化を可能とした.いずれの成果についても現在論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書記載の3つのマイルストーンである,(A) XFELのパルス幅を高感度かつ高能率に測定可能な手法の開発,(B) XFELのパルス幅を最大50 psまで制御可能であることの実証,(C) パルス幅制御XSVS法により,純水の第二近傍O原子間距離の揺らぎの評価のうち,(A)と(B)についてはほぼ完遂できている.特に(A)については期待以上の成果が得られており,提案当初,信号とバックグラウンドの比として10倍程度を想定していたが,1000倍以上の比が得られており,真の意味での「バックグラウンドフリー」測定が達成されている.さらにSHGの信号は位相整合条件を満たす狭い角度範囲に集中するため,信号が4πに飛ぶ二光子吸収と比べて圧倒的に高い測定効率が得られている.その結果,高いエネルギー分解能(狭いバンド幅)を有する結晶分光器を利用した(パルス強度はバンド幅に比例して弱くなった)際でも,非常に明瞭な自己相関関数を測定することができた.一方で(B)については,パルス幅の伸張は実証できたものの,非対称反射による分散の影響を強く受け,実効的な光源サイズが元々の数十倍まで拡張されてしまい,XSVS測定で必須となるマイクロメートルサイズへの集光が困難であった.分散の影響を打ち消すためには,構築した光学系と対になるような光学系をさらに1組組む必要があり,光学系がより煩雑となってしまう.また,予算の都合もあり,本研究課題の枠内で解決することは難しい.
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】で記載の通り,回転傾斜結晶を利用したパルス幅制御はまだXSVS法へ適用できる段階になく,本研究課題内でのマイルストーン(C)の実施は有効でないと判断する.このような状況を踏まえ,2024年度では(1)マイルストーン(A)のさらなる高精度化,および(2)マイルストーン(B)で構築した回転傾斜結晶を利用した符号化露光の実現可能性の検討を進める. (1)について,2023年度までに結晶分光器の種類を変えることで平均パルス幅を制御可能であることを実証した.しかし,目的である「時間構造制御」にまでは至っていない.これはもともとの光がもつスパイク上のスペクトル構造に起因すると考えており,結晶分光器の複素反射率で規定されるパルス時間波形への整形に求められる条件を明確にする.また,SHG信号の強度のみでなく,スペクトルの遅延時間依存性(スペクトログラム)も測定することで,パルス時間波形の位相をも計測し,真のパルス波形測定を実現する. (2)について,回転傾斜結晶を利用した光学系では空間と時間とがカップルされる.この特性をいかし,光学系の途中に空間的なマスクを組み込むことで,より複雑な時間構造整形が可能であると考えられる.具体的には,Hadamardマスク(もしくはフーリエマスク)を組み込むことでX線領域での符号化露光が実現可能である.これにより,回転傾斜結晶に触ることなく,時間方向の情報を一括して取得することが可能となる.2024年度において,空間マスクによる時間波形の符号化の実現可能性およびその有効性を解析的および数値シミュレーションにより検討する.
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