研究課題/領域番号 |
22K18150
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分90020:図書館情報学および人文社会情報学関連
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
中分 遥 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 助教 (10934169)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 民間伝承 / 道徳 / 文化進化 / 伝達バイアス / 物語 / 心理学 / 文化情報学 |
研究開始時の研究の概要 |
物語は人類普遍的に見られる文化形態の一つである。物語には様々な機能があり、その一つとして道徳規範を人々に伝達する機能があることが議論されてきた。ただし、物語は単に伝達される静的なものではなく伝承される過程で人々の持つ道徳規範に沿うよう動的に変化していることが指摘されている。本研究では、仮想的に物語を伝達する心理学実験と、データベースを用いて計量的に物語を分析する人文情報学的手法を組み合わせることによって物語が人々の持つ道徳規範に沿って変化していくのか実証的に明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、物語は人類が生存するのに有利となる情報を伝達する機能を持つという仮説に基づき、特に「集団を結束させるような道徳規範・社会規範」に着目するものであり、研究の目的は物語が「道徳的・規範的」な内容を持つように変化したという仮説を実証的に検討するものである。 方法として(1)実際の人々に対して仮想的に物語を伝達するような状況を設定し、その行動を分析する「実験心理学的手法」、(2)実際に伝達されてきた物語(民間伝承)を計量的に解析することによって、道徳的ないしは規範的なメッセージが含まれる検討する「文化情報学的手法」の2つの観点を用いた。 (1)実験心理学的研究に関しては、Stubbersfield (2022)の理論をもとに物語の伝達に関して、(a)物語の受信、(b)物語の記憶、(c)物語の伝達の3段階に着目した実験を実施した。その結果、(a)物語の受信(c)物語の伝達において、規範的な情報がより伝達されやすいことが判明した。この結果は、現在論文として報告されている。 (2)物語を計量的に分析するために、島根県を中心とした物語記録の文字起こし作業を行なった。内容に関しては、20件程度、文字起こしを行ったが、テープの劣化等の問題で当初計画していた、統計分析を行える十分な件数を確保することができなかった。よって、データベース化されている、「怪異・妖怪伝承データベース」(日本国際文化研究センターによって公開)について計量的な分析を行なった。この中で、「タタリ伝承」に絞って分析したところ、これらの伝承には「過度な自然開発に対して継承を鳴らす」役割がある可能性があることが見出された。この結果は、「じんもんこん2022論文集」にて報告した。 また、心理学における道徳研究をより詳細に理解するため、短い物語によって道徳的態度を測定する道徳基盤ビネットを和訳し、その妥当性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験心理学的研究:初年度に計画した物語の伝達を模した、心理学実験に関しては実験が完了した。実験は、新型コロナウイルスの蔓延のため、対面ではなくオンラインで実施した。実験の内容は、現在査読付きの英文雑誌に投稿中である。また、日本語版道徳基盤ビネットの妥当性に関する論文も、現在査読付きの和文誌に投稿中であり、プレプリントがJxiv(https://doi.org/10.51094/jxiv.250)にて公開されている。実験を実施し、その成果が論文としてまとめられていることから、実験心理学的研究は、当初の予定通り順調に進展していると判断する。
文化情報学的研究:民間伝承の文字起こしの作業が問題が生じたため(e.g., テープの劣化)、すでにデータベース化されているタタリ伝承を計量的に分析した。分析の結果はについては「じんもんこん2022論文集」にて発表されている(http://id.nii.ac.jp/1001/00223172/)。この点から、文化情報学研究は、当初の予定から一部変更は見られるが、着実に研究成果は得られている。また、成果がすでに論文として公表されていることから、順調に進展していると判断する。
上記のように、実験心理学的研究・文化情報学的研究のどちらに関しても着実に研究成果が得られており、結果が公開されている。これらの点から「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に続き、実験心理学的研究・文化情報学的研究の両方を検討する。 実験心理学的研究:当初の研究計画では、すでに実施した「物語の伝達に伴う非意図的な変化(記憶などによる改変・物語の選択バイアス)」のみならず「物語の伝達に伴う意図的な変化」についての実験を計画していた。この後者は、例えば親や教育者が物語の一部を改変したり、為政者や思想家がより自らの思想に沿うように物語を改変したりするような場合が含まれる。今後の方針として、実験参加者に物語を意図的に変化させる実験を実施する。 文化情報学的研究:前年度はタタリ伝承に関して、機械的にテキストを処理する計量的な手法を用いることで、その背後にある内容を明らかにした。今後は、テキストを研究協力者がコーディングすることで、前年度に得られた成果と一致する結果が得られるのか検討する。さらに、民話や民間伝承の地理的分布や内容を計量的に分析することで、道徳的な民話の文化進化についてより詳細に検討する。
また、物語研究について、「実験心理学的研究」と「文化情報学的研究」の両方を合わせて用いることの利点について考察し、学会発表や論文などで報告することを目標とする。
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