研究課題/領域番号 |
22K18273
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251602)
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研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
2022年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
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キーワード | パリティ対称性の破れ / アナポールモーメント / 光格子 |
研究開始時の研究の概要 |
量子多体系における弱い相互作用の伝搬機構を探り、原子核のようなマクロな系でのパリ ティ対称性破れの発現を実証する。特に、原子核におけるパリティ非保存効果が質量数の2/3乗に比例して増幅されることに着目し、原子量最大のアルカリ原子・フランシウム(Fr)を用いて、量子多体系における中性カレント(Zボゾンの伝搬)の高感度検出の技術を確立する。光格子にトラップされたFrにレーザー光を照射し、弱い相互作用により誘起されるエネルギーシフトの効果を量子増幅する顕微鏡を開発する。原子核におけるパリティ対称性の破れを調べ、素粒子・標準理論の検証とともに、生体分子のホモカイラリティの起源にも関連する知見を得る。
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研究実績の概要 |
原子核媒質中での弱い相互作用の伝搬機構を探るために、量子多体系における空間反転対称性の破れの検出を目指す。特に、原子核におけるパリティ対称性を破る観測量であるアナポールモーメント(AM)は、質量数の2/3乗に比例して増幅されることに着目して、原子量最大のアルカリ原子・重元素・フランシウム(Fr)のAMの高精度測定手法の開発を行う。 本年度は、2種類のFrの同位体のうち、Fr-221のgeneratorとなるAc-225の高強度線源の製作技術を確立し、同時に、Ac-225から放出されるFr-221の高強度低速中性原子ビームの生成を確認した。Thから分離精製したAcを用いて、分子電着法により高強度Ac線源を実現し、このAc線源の表面にイットリウム(Y)を成膜することで、Acから崩壊・放出されるFr-221をY膜中で停止・加熱することで、Y表面からFr-221中性原子線としてMOTに供給する構造とした。 さらに、Frを捕獲するための磁気光学トラップ(MOT)は準備が整っており、この冷却Fr原子をさらに冷やして一原子づつトラップするための光格子(OL)用高強度のレーザー光の開発を完了した。本研究では、1064 nm のCWレーザー光を10 W 以上まで増幅するYb添加ファイバー増幅器 (YDFA) を開発し、所定の性能が発揮できていることを評価した。放射線環境下においてはYDFAを構成する半導体レーザー光源や光ファイバーが損傷を受けるリスクがありため、容易に入手可能な部品を組み合わせ、ファイバー融着技術を駆使して自作することで、放射線損傷による破損の際にも自前で復旧できる構造とした。これで、Frの冷却・トラップのための2種類の装置(MOT/OL)に必要な光源の準備は完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Frのアナポールモーメントの量子計測の心臓部に当たる2つの技術開発を完遂した。一つ目が、Fr-221の中性原子線であるが、これは、Ac線源にイットリウム(Y)を30umの厚さで成膜することで、α崩壊してAcから放出されるFr-221をY膜中で完全に停止させ、同時に加熱することで、表面中性化によりY表面から中性Fr原子線として放出させる構造である。この方法は、国際的にも初めての構成となっており、Y膜の厚さを変えながら、Frの透過・停止・放出の膜厚・温度依存性を測定することで、Fr-221の原子線強度が所定の収量となることを確認した。このプロセスは、①東北大・金属材料研究所・アルファ放射体実験室でのThからAcの分離精製、そして②Acを硝酸塩として液体で理研に移動し、ホットラボで分子電着による高強度・高純度Ac線源の製造、そして、③Y成膜と加熱によるFr原子線の実現と、MOTに至るまでの3段階の技術過程を確立したことは、大きな進捗と考える。 さらに、MOTの後段に設置するアナポールモーメントを測定するための光格子技術の確立を行なった。光格子は、対向するレーザー光による定在波で形成される格子状のポテンシャルに原子を一つづつトラップする技術であるが、このためには、高強度レーザーが必要となる。本研究では、高い放射線量の環境下で実験を行う必要があることから、レーザー光源に対しても放射線損傷に強い構成とする必要があった。そこで、容易に入手可能な部品を組み合わせ、ファイバー融着技術を駆使して自作することで、放射線損傷による破損の際にも自前で復旧できる構造として、放射線環境下で長期間、安定して運用できるレーザーを実現したことは、大きな進展と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度で、Frの同位体の生成方法として、加速器を用いた方法と放射化学的手法を用いた手法の2種類を確立し、さらに、生成Frのレーザー冷却・トラップに必要なMOT・光格子のレーザー光源の開発も完了した。そこで、今後は、このFr線源の収量の高強度化を図りながら、Frのトラップの制御パラメータの最適化を進めていく。来年度、冷却Frのトラップにおいて、必要数量の原子数を実現し、その後、アナポールモーメント測定に向けた光共振器の実験を進めていく。
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