研究課題/領域番号 |
22K18293
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50783594)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 酸化物材料 / 磁気抵抗効果 / フレキシブル素子 / スピントロニクス / 金属・絶縁体転移 / 剥離法 / ハーフメタリック / 分子線エピタキシー成長法 / 蒸着法 / 2次元キャリアガス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では私たちが酸化物SrTiO3(STO)基板上にFe, Al, Euなど、様々な金属元素を蒸着して高移動度伝導領域や強磁性体/スピン軌道相互作用を持つ電子ガス接合など、機能材料とデバイス構造を実現する。ダイオードやトランジスタをはじめとする酸化物にベースした電子デバイス、強磁性体/酸化物界面を利用したスピンデバイスの低コスト、大面積化可能な作製方法を開発することを目指す。また、柔らかい基板上に載せた酸化物超薄膜を剥離法で作製し、同じ金属蒸着手法を用いてフレキシブル化可能な電子デバイスも実現し、未来の情報社会を支える酸化物エレクトロニクス分野を開発・革新することを目的とする。
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研究実績の概要 |
SrTiO3(STO)基板上に強磁性酸化物LaSrMnO3(LSMO)(La:Sr比=0.67:0.33、膜厚~10 nm)の高品質ヘテロ接合を分子線エピタキシー装置(MBE)で結晶成長した。LSMOはキュリー温度が室温以上(~370K)で、フェルミレベルでスピン偏極率100%(ハーフメタリック状態)になることが知られており、スピントロニクスに非常に有望な酸化物材料である。我々が電子線描画装置を用いてLSMO薄膜を覆ったレジスト上にナノメートルの窓を開け、Arイオンを照射することによりLSMOを部分的に金属・絶縁体転移を起こす新しい方法を開発した。これによってLSMO薄膜面内に強磁性金属/トンネルバリア/強磁性金属構造を自由自在に作製することに成功した。特に金属LSMO電極2枚の磁化が平行・反平行に制御すると140%も大きいトンネル磁気抵抗効果を観測した(観測温度:2K)。本結果はプレナー型スピンバルブ効果の中で世界最大の磁気抵抗効果を実現したと言え、Si上の同じデバイス構造における磁気抵抗(~0.1%)を遥かに超えた。このトンネル磁気抵抗効果は温度が上昇すると共に減少しながら150Kまで観測できた。さらに、STO基板上に犠牲バッファー層であるSr3Al2O6(SAO)をMBEで結晶成長にも成功した。STO/SAO材料構造の上に真空一貫で強磁性LSMO薄膜を成膜し、水中でSAOが溶けることを利用して超薄膜LSMO(サイズ~10μm^2)を剥離法で作製することにも成功した。剥離されたLSMO膜は界面の磁気特性がより丈夫になることが期待でき、フレキシブル素子の実現に有望と共に、前半のLSMOによるプレナー型磁気トンネル接合構造を作製すればより高い動作温度が実現できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SrTiO3(STO)基板上にハーフメタリック強磁性体LaSrMnO3(LSMO)を作製し、Arイオン照射によりプレナー型磁気トンネル接合の作製方法及び大きな磁気抵抗効果の実現は当初予期しなかった驚いた成果である。本成果の今後の発展性と応用性が大きく、酸化物ベースエレクトロニクスの実現に大きな進展と言える。一方、STO基板上の犠牲バッファー層Sr2Al3O6(SAO)の作製は当初計画した内容であり、概ね予定通りに進んでいる。このSTO/SAO構造上に当初予定していたSTOだけでなく、LSMOや磁気トンネル構造のようなより複雑な機能材料構造を剥離法で作製できるという初期的なデータが得られているため、今後の様々な予想以上の発展に期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2年度以降では、次の内容を目指す。 (1)SrTiO3(STO)基板上のLaSrMnO3(LSMO)のプレナー型磁気トンネル接合構造の大きな磁気抵抗効果の物理機構をさらに解明し、ゲート電圧で伝導特性および磁気抵抗効果を制御し、代表的な不揮発性論理デバイスのスピントランジスタ動作を実証する。 (2)STO基板/Sr2Al3O6(SAO)/LSMO構造において、SAOの成膜条件、剥離及びLSMOの転写技術を開発してより大面積(mm程度)のLSMO超薄膜の作製、そしてそれに基づくフレキシブル素子に整合する磁気トンネル構造とデバイスを実現する。また、開発した成膜と剥離技術でLSMOに限らずSTOや他の酸化物超薄膜の作製、物性制御とデバイス応用を行う。 (3)強磁性絶縁体/酸化物界面の作製と磁気伝導現象の評価:STO基板平面上にEuあるいはEuSの超薄膜を蒸着すれば、STO界面においてEuによる酸素欠損が発生し2次元キャリアガスが形成される。この2次元キャリアガスは高い移動度、強いRashbaスピン軌道相互作用を有するため、隣り合う強磁性絶縁体(EuOあるいはEuS)の磁気近接効果の影響を受ければ非相反磁気伝導現象、奇関数磁気抵抗効果といった新規の現象が期待できる。本研究ではこれらの実現を目指す。 (4)低コスト高機能酸化物エレクトロニクス:酸化物平面上のPN接合構造に基づいて、代表的な電子デイバスであるダイオード、トランジスタを作製できることを原理的に実証する。また、応募者の先行研究ではP型とN型STOの両方が強い熱電効果を示すことが分かった (ゼーベック係数が~150 μV/K)。STO基板の表面上のPN接合を用いる熱電変換素子を作製して性能を評価する。これらの結果から低コスト高機能酸化物エレクトロニクスへの道が開くと考えられる。
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