研究課題/領域番号 |
22K18314
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分27:化学工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
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研究分担者 |
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2024年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2023年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2022年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
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キーワード | イオン液体 / DDS / ワクチン / 経皮吸収 / タンパク質製剤 / 核酸医薬 / バイオ医薬品 / 界面活性剤 |
研究開始時の研究の概要 |
難溶解性薬物は、水やほとんどの有機溶媒へ溶解しない薬であり製剤化が難しく、体内への吸収が乏しく、本来の薬効が十分に発揮できないという問題がある。イオン液体の画期的な特徴として、難溶解性薬物の可溶化力が挙げられ、薬の送達方法の最適化を行うドラッグデリバリーという創薬分野への応用が今注目されている。 しかしながら、イオン液体は、そのポテンシャルは高いものの生体毒性が大きいため、その実利用は例がない。このような状況下、本研究では、イオン液体を用いた創薬(特にドラッグデリバリー)研究に“生体適合性イオン液体”というブレイクスルーを生み出し、イオン液体の世界に“薬物応用”という新しい研究分野を開拓する。
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研究実績の概要 |
本研究では、第3の液体と呼ばれているイオン液体を用いて、これまでの製剤技術の体系や方向性を大きく変革するような研究に挑戦している。具体的には、これまで溶解性の問題で、製剤開発が困難であった、難溶解性薬物とバイオ医薬品に注目した。これら難溶解性の薬物は、製剤化が難しく、大量の水で構成される体内への吸収性が悪く、本来の薬効が十分発揮できないという問題が指摘されていた。そこで本研究では、難溶解性薬物のモデルとしてアビガンを取り上げ、イオン液体を用いた溶解特性の解明と経皮製剤化を検討した。その結果、作成した経皮製剤アビガンは、長期の徐放性に優れた機能を示すことを明らかにした。また、小動物を用いた動物試験においても、高い血中濃度が得られた。 イオン液体の薬物利用に関しては、イオン液体の安全性が問題視されていた。本研究では、独自に脂質誘導体型のイオン液体を各種合成するとともにその毒性を評価した。その結果、DMPC脂質誘導体をカチオンに、またリノール酸をアニオン部に有するイオン液体が高い生体適合性を示すことを明らかにした。生体適合性のイオン液体としては、他にコリン、アミノ酸、脂肪酸及びリン脂質を用いて構成したイオン液体が毒性も小さく有効であることを確認した。また、これらのイオン液体は安定性も高く、皮膚刺激性も低いことを明らかにした。 さらに、DMPC脂質とリノール酸から構成される生体適合性イオン液体を用いることで、核酸医薬の経皮薬物送達が可能となった。イオン液体によってアンチセンスオリゴ核酸の皮膚深部への浸透が達成され、細胞への効率的送達を可能にすることができた。そこで、小動物を用いて、がんの抑制効果を検証した結果、経皮アンチセンス核酸の投与で、注射と匹敵する程度の高い抗腫瘍効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにイオン液体を調製可能な生体由来のカチオンは、コリンとアミノ酸及び脂肪酸に限定されており、現在までに“疎水性”の生体適合イオン液体は存在しなかった。そこで、本年度は、生体由来材料の中で高い疎水性を示す“リン脂質”をカチオンとした新規イオン液体の開発を試みた。 特に難溶解性薬物で代表的なアビガンは、COVID-19の治療薬として有効性が確認されているが、現状、血中移行性が乏しいため、大量の投与が必要となった。このように、アビガンの吸収改善が期待されており、BA(生体吸収率)も大きく向上したので、創薬分野に与えるインパクトは大きいと考えている。経皮デリバリーは薬が皮膚の角層という疎水性の高いバリアを通過する必要があるため、イオン液体による可溶化および長期に薬物徐放が可能な経皮製剤化は大変有効であると考え、疎水性の高い脂質誘導体を利用してイオン液体を構築した。その結果、中分子のインスリンをはじめ多くのバイオ医薬品へのイオン液体応用が可能となった。 マウスを用いてイオン液体アンチセンスオリゴ核酸製剤の抗腫瘍効果の検証を行った。がんの抑制効果は、がん腫瘍のサイズを2日おきに測定し、楕円体積を求める式を用いてがん腫瘍体積を算出し評価した。その結果、イオン液体グル―プでは、注射のグループと比べてもほぼ同程度の腫瘍成長抑制効果が確認され、イオン液体を用いた核酸医薬の経皮投与が効果的であることが示された。このように、予定通り研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果より、高効率な経皮薬物送達システムの創成には、以下の点が重要であることが明らかとなった。特に、開発において注意すべき点は、ペプチド薬は血中移行が求められる一方、核酸薬は、皮膚直下の顆粒層への浸透、その後の細胞への移行がポイントとなる。 本年度の研究によって、目標の高分子薬物の浸透促進に対して、分子量1,000から50,000程度のAPI(薬物原料)が角層を通過できることを示した。したがって次年度は、抗体などのさらに分子量が大きな薬物の経皮吸収改善ならびに新たなモダリティとして核酸医薬をターゲットとした高吸収技術を確立することを目標とする。 また、高浸透の目的達成のためには、疎水性のイオン液体の利用が有効であることが明らかとなった。そこで次年度は、疎水性の生体適合性のイオン液体を利用することで高浸透の目標達成を目指す(核酸医薬)。さらに、中分子薬に関しては、経皮浸透貼付剤の利用を試みる。なかでも、オレイルアルコール(OLA)などの高級アルコールが、経皮浸透促進に有効であると考えている。今後の研究の進め方に関しては、すでに皮膚透過が確認されているインスリンを中分子薬のモデル薬として選択し、長期徐放を可能とするインスリン経皮製剤プラットフォーム技術の確立を目指す。 本年度、新たなモダリティとして核酸医薬(アンチセンス)を封入した経皮製剤の開発に着手し、高効率で皮膚透過が可能なアンチセンス核酸のS/O製剤調製に成功した。そこで次年度は、これら核酸医薬品の皮膚浸透後の細胞移行性や機能発現に関する検討を行う。また、抗体医薬への拡張も視野に入れ、研究開発を行う。抗体医薬の経皮製剤は、未だ世にない未踏分野であるため、次年度は、まず抗体医薬の皮膚透過の可能性を模索したい。
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