研究課題/領域番号 |
22K18321
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関口 康爾 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (00525579)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2022年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | マグノン / スピン波 / 物理リザバー / リザバー |
研究開始時の研究の概要 |
CPS/IoT社会が生み出す大量の信号を、既存CMOSデバイスで処理するには膨大な負荷がネットワークにかかる。本研究では、電流よりも圧倒的にロスが小さい非電荷キャリア(マグノン)を使った演算素子により、低エネルギーで動作するセンサ近傍での信号処理(エッジコンピューティング)技術に挑戦する。既存のマグノントランジスタ研究に対して、本研究では波動干渉を積極活用した多入力・無配線信号処理を研究し、演算部で電流ゼロを実現する革新的デバイス学術体系を打ち立てる。センサ信号の高精度分類化(高次元化)を処理できるマグノンリザバーを構築し、電流ゼロ・エッジコンピューティングに挑戦する。
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研究実績の概要 |
マグノントランジスタは情報キャリアとしてスピン波(マグノン)を活用し、消費電力が格段に小さいデバイスを希求する研究分野である。これまで、本研究では、マグノントランジスタを活用して電流ゼロコンピューティングを実現するために、物理リザバーと呼ばれる演算素子の実験的実証に挑戦してきた。巨大な情報空間の端末(エッジ)では、時系列信号のリアルアイム処理が求められ、半導体CMOSデバイスなど現行の最先端演算素子でも計算量が莫大になってしまうためである。スピン波を活用するマグノントランジスタでは強い非線形性を生み出すことができ、時系列信号の非線形変換により計算コストを大幅に削減できると考えられている。シミュレーション研究で示されているマグノントランジスタのポテンシャルを大きく進展させるため、1cmシリコンチップ上に微細構造試料プロトタイプを作製し物理リザバーとしての動作とその能力を初めて評価した。パーマロイ薄膜に周期的に溝を形成してホイヘンススリットを配置し信号の非線形変換能力を増強させた。パーマロイ薄膜において複雑なスピン波干渉が生じ、入力信号は特徴的な信号に変換される。入力信号として500ビットパルス列の電気信号を用い、これを微細加工アンテナによって高速リアルタイムオシロスコープで計測した。この結果、1/0入力信号ビット列の識別が可能であることを、パリティチェック、短時間記憶というベンチマークテストで実証した。また、マグノントランジスタにおけるノイズ評価を実施した。ノイズ特性はデバイスの安定動作に決定的な影響を与えるが、これまでにマグノントランジスタにおけるノイズ特性は解明されていなかった。従来の電子デバイスに比べ、マグノントランジスタにおけるノイズは極めて低いことが解明され、そのノイズ起源が磁性層の表面における特徴的な散乱に起因することをあきらかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度のマグノントランジスタのプロトタイプ作製、およびその短時間記憶やパリティチェック評価では、従来報告されている物理リザバーに比べて最高レベルの能力を持っていることを実験データで証明した。電流ゼロ演算すなわち物理リザバーへの応用研究は、実デバイスとしての能力を着実に向上させ、集積化を考案する段階になったといえる。現段階で1入力4ノード検出および8ノード検出が実現できており、実装面積は数十マイクロメートルスケールである。多入力多出力の実デバイスへの展開へは、電子線描画装置などの活用によって拓けると考えられる。一方、マグノントランジスタ間の連結を想定してマグノン信号の増幅を行う微細帰還リング構造を考案した。ブリルアン散乱分光法により微細帰還構造を通過するマグノン強度が増幅することを証明でき、マグノントランジスタのスケールアップに有用な結果を得ることに成功した。さらに、マグノントランジスタのノイズ特性はこれまで解明されていなかったが、今年度、スペクトラムアナライザーを用いた高精度実験により、従来の電子デバイスに比べてはるかにノイズが低いこと、信号強度に依存するノイズが磁性層表面での特徴的散乱に起因することをあきらかにすることができた。以上の理由により、電流ゼロコンピューティングの開拓は、順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で開拓したスピン波リザバーは、信号入出力間の配線を必要とせず波動性を用い、ホイヘンススリットによる非線形変換の増強が重要であった。現在1入力8出力の素子構造を実現できたが、多入力多出力を実現する集積化構造設計を研究し、その電気実験・光学実験を行う予定である。さらに、基礎リザバー能力として評価した短時間記憶だけでなく、非線形変換タスクなどより高度な情報処理機能の実証を着実に行っていく。電流ゼロかつ無配線で大規模演算処理を担えるマグノニックリザバー構築にむけ、局所的マグノン信号増幅素子などの開発に取り組む。信号増幅にはパラメトリック励起という技術を取り入れるが、この励起方法ではこれまで検出してきたマグノンノイズが増大する可能性もあり、その精密実験をおこなう予定である。これにより、スピン波リザバーがより応用性のある物理リザバーであることを証明する。
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