研究課題/領域番号 |
22K18334
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 拓矢 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30525986)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,610千円 (直接経費: 19,700千円、間接経費: 5,910千円)
2025年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | 環状高分子 / PEG |
研究開始時の研究の概要 |
環状高分子は、対応する直鎖状高分子とは『かたち(トポロジー)』の違いから物性が異なること(トポロジー効果)が知られており、学術的関心から近年様々な研究が行われている。しかし、実際のところ、多少のトポロジー効果の発現は古くから知られているものの、これら僅かな違いを材料分野の応用として展開するのは難しいと考えられていた。本研究は、研究代表者の発見に基づき、環状高分子の「かたち(トポロジー)」に立脚した新奇現象を追究し、様々な官能基化された環状高分子の合成、およびそれらを複合化した機能材料の創出を行うものである。
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研究実績の概要 |
金ナノ粒子(AuNPs)は、そのサイズや形状の制御可能性、光学特性や低毒性から、ドラッグデリバリーキャリアやイメージング応用の面で注目を集めている。中でも、生体適合性が高く水溶性のポリエチレングリコール(PEG)によるAuNPsの表面修飾、すなわち「PEG化」は、生物学的関連分野への応用に用いられている。最近我々は、環状構造を持つPEG(c-PEG)がAuNPs表面に物理吸着して複合体(AuNPs/c-PEG)を形成し、生理的条件や加熱条件など様々な環境下で高い分散安定性を示すことを明らかにした。しかし、AuNPsとc-PEGの相互作用や吸着状態については、未だ不明な点が多い。本研究では、様々な官能基を有する低分子チオールをAuNPs/c-PEGに添加し、吸着したc-PEG分子の状態をDLS、ゼータ電位、NMR測定により評価し、c-PEGの吸着性能と金表面の官能基種との相関を調べた。さらに、あらかじめ様々な低分子チオールで表面修飾したAuNPsにc-PEGを添加し、添加順序の影響を調査した。その結果、各種低分子チオールのAuNPs表面に吸着したc-PEGの置換能が確かめられ、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)の添加によりAuNPs/c-PEGの粒径が減少し、分散安定性が維持されることが確認された。また、MPAにおいてその濃度依存性についても確かめられ、c-PEGの分子量依存性についても確認された。ゼータ電位、NMRの測定からMPAの添加によってAuNPs表面に吸着していたc-PEGの脱離が確認され、一定濃度以上のMPAの添加によって起こるAuNPs/c-PEGの粒径の減少もc-PEGの脱離によって引き起こされることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
c-PEGをあらかじめ吸着させたAuNPs複合体の水分散液に対しDLSによる粒子径の変化から、AuNPs表面のc-PEGに対する低分子量チオールの添加効果を評価した。その結果、(2-メルカプトエタノール(MCE)と3-メルカプトプロピオン酸(MPA)の添加により、複合体の粒子径は元のAuNPsと同じ程度まで減少し、AuNPs表面からc-PEGが脱離したことが示唆された。一方、2-メルカプトエチルアミン(MEA)を添加しても、大きなサイズ縮小は起こらず、システイン(Cys)の場合、一部のc-PEGのみが置換されたことが示唆された。 次に、MPAの濃度依存性を調べたところ、10e-4 M以上の領域でAuNPs/c-PEG複合体の著しいサイズ減少が観察され、5e-3 M以上では元のAuNPsと同等の粒子サイズとなった。さらに、MPAを添加したc-PEG/AuNPs複合体のNMR測定では、c-PEG由来のNMRシグナルが観測され、粒子径の減少がc-PEGの脱離によるものであることが確認された。また、MPA添加によるゼータ電位の低下もc-PEGの脱離を示していた。すなわち、適切な低分子チオールを用いることで、AuNPs表面との相互作用を制御することができ、c-PEGを脱離させることに成功した。 最後に、粒子径20 nmのAuNPs水分散液を、MCE、MEA、MPA、CysであらかじめAuNPs表面に修飾した。これらにc-PEGを加え粒子径を測定した。その結果、MCE、MPA、Cysで修飾したAuNPの粒子径はc-PEG添加後もほとんど変化しなかったことから、c-PEGは様々な表面官能基を持つAuNPに吸着しないことが示唆された。一方、MEAの添加はAuNPsの凝集を誘導した。以上の結果より、研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに多様な低分子チオールを検討し、c-PEGの吸着特性を精査する。また、分光分析、熱分析、中性子散乱・反射率測定による構造解析、および分子動力学シミュレーションを通して吸着原理を明らかにする。加えて、多環構造や開裂性の官能基を環の一部に導入することで、外部刺激がトリガーとなるナノ粒子の物性制御を目指す。さらに、金ナノロッド、銀ナノ粒子、酸化鉄粒子などの金属酸化物のナノ粒子や量子ドット、フラーレンやカーボンナノチューブ等の炭素系ナノ材料やタンパク質、および脂質ナノ粒子やPolyion ComplexのDDS材料への展開を試みる。
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