研究課題/領域番号 |
22K18335
|
研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2026年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2022年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
|
キーワード | 分極 / 多重集積 / 透明ポリマー / 屈折率 / 光学・誘電特性 |
研究開始時の研究の概要 |
透明有機材料の屈折率の限界を追求し,特に,芳香環や硫黄から成るソフトな分極場を多重集積する手法を確立するとともに,無定形状態を維持しつつソフト分極場を高分子に密度高く構築する原理を解明し,従来限界を凌駕する高屈折率・アッベ数や,低誘電損失を示す材料を創出する。 具体的には,分極性の高い芳香環や硫黄原子を豊富に含む非共役系高分子を,超分子相互作用などによって無定形かつ高密度に集積させることで,高屈折率・低誘電損失といった諸機能を発現させる。加えてマテリアルズ・インフォマティクスを援用した材料設計により,高分子鎖の構造と光学・誘電特性の相関を予測・解明することで,それらの設計指針を明確にする。
|
研究実績の概要 |
本研究は,屈折率 (nD) が2を超える高屈折率かつ透明な有機材料は存在するかといった命題に対し,「芳香族系高分子の結晶性や密度を決める分子間相互作用の制御により,無定型かつ高密度なバルク構造を形成すること」をその具体的な分子設計の考え方と位置付けて展開し,この方針に沿ってまったく斬新な高屈折率透明高分子の一群を開拓することを目的として推進している。分極性の,すなわちHSAB則でソフトな硫黄原子 (スルフィド部位) の2p電子と,芳香環上のπ電子との間で密度高い集積構造を形成させ,これを「ソフト分極場」と捉えて,高屈折率などの光学特性に加え,誘電性など電場応答性をも制御する方法論として展開するとともに,このソフト分極に基づく超高屈折率高分子材料,超低誘電正接材料として具体化することを目指している。 本年度に特に注力した内容は,これまで類例のない超高屈折率と耐熱性 (成型加工に適したガラス転移温度180℃ー220℃)・高い透明性 (結晶化度0%の完全非晶質) をすべて両立した新しい有機高分子の創出,および,従前の経験的限界として知られている屈折率とアッベ数の相関を突破した新規高分子材料の分子設計の基礎を構築することである。前年度の成果をもとに,分子間相互作用力に注目する考え方を一歩進め,ソフトな水素結合力などの超分子相互作用を新たに高分子鎖の間に組み込むことで,無定形状態が維持されたままの状態でバルク固体の鎖間凝集力を最大化できることを複数の実例で明らかにした。これにより,Kramers-Kronig相関から導かれるポリマーの屈折率の限界を凌駕した画期的な透明高分子の一群を創製することができた。実測値が従来法での上限 (n ~ 1.75-1.80) を明らかに超えた,まったく新しい高屈折率ポリマーの例を,芳香族ポリチオエーテルのほかチオウレアなどでも見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初のアイデアである高分子材料の超高屈折率化は,代表者らが独自に見いだしこれまで展開してきたビス(3,5-ジメチルフェニル)ジスルフィドの酸化重合により得られる誘導体が,3,5-位のメチル基により完全非晶質 (結晶化度0%),高耐熱性 (Tg = 約200 oC) を示したことによる,新たな光学材料への展開の可能性に基づくものである。これは,結晶質部位による散乱や可視部吸収帯がないことによる高い可視光透明性,高い硫黄含量に基づく高屈折率と高アッベ数などを光学特性の設計要素として含硫黄芳香族高分子で初めて着目したことによる。本年度は,この考え方を着実に進める一方で,光学特性と表裏の関係にある電気物性,具体的には誘電性について,極めて興味深い性質が発現することを着想し,これを具体的に確かめた。すなわち,ビス(3,5-ジメチルフェニル)ジスルフィドの酸化重合により得られる上記のポリマーが,超低誘電損失 (10 GHz にて0.001以下) を示すことを数十GHzの範囲の周波数帯で明らかにし,PPS鎖本来の特徴として期待されながら実証例の無かった斬新な物性を引き出すことができた。この電気特性も,光学特性と同様に,芳香環と硫黄原子の分極性高いソフトな性質が高分子主鎖に沿って無定形状態で多重集積した「場の効果」として一般化できると考えられる。このようなソフト分極場の概念を誘電特性制御に拡張することによって,超分子相互作用を含むネットワークを高周波下での分子振動抑制に利用することで,近く到来する6G通信を支える革新的な超低誘電損失材料を創出できることを明確にした。「ソフト分極」の概念拡張により,従前の光学特性から電気特性への新展開が可能となったことで,本研究が当初の研究計画以上に進展し,重要な成果が得られつつあるものと確信している。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に,「ソフト分極」の概念を光学特性 (超高屈折率高分子材料) から新たに電気物性 (具体的には,将来的な高速通信に必須となる高周波下での熱損失の少ない超誘電正接材料) へ展開できたことに基づき,今後はより一層この設計概念を深く掘り下げるとともに,革新的な機能材料創出の方法論として幅広く展開したい。これまで独自に見出したPPS誘導体を基本骨格とするソフト分極場の概念を,水素結合等の超分子相互作用が形成する無秩序な集積構造と効果的に結びつけ,ポリマー鎖間の凝集力がソフトな相互作用力で増大することにより,高密度かつ一様な無定形固体を与えることの実例を広く展開する。本研究で既に従来限界を突破した超高屈折率・高アッベ数・低誘電損失を実現しており,計画した方法論の有効性が着実に実証できているとの判断のもと,類例ない透明樹脂群の創出や,バルク状態での多重集積構造がもたらす興味深い分極場の効果をさらに顕在化させるための新しい分子設計を継続して追究する。 具体的な方法論としては,ソフト分極集積のための指針を (1) 散乱による不透明化につながる結晶化の抑止に基づく,高い可視光透明性を維持しながらの屈折率を最大化可能な構造の導出,(2) バルク状態での多様な超分子相互作用の導入と高分子鎖の高次構造・屈折率の相関の解明,(3) 高密度なソフト分極場の集積構造を達成しうる超分子相互作用の組み込み の観点から,新たな機能性高分子の創出に継続して取り組むことで,更なる超高屈折率化,超低誘電正接化が可能になるとの手応えを具体化する。また,代表者らが得意とする実験データに基づく実践的マテリアルズ・インフォマティクス (実践的MI) の方法論も援用することで,本研究が掲げるところの (4) 光・電場機能を統合的に制御できる革新的戦略の提案に繋げたい。
|