研究課題/領域番号 |
22K18359
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 貴之 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (20423155)
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研究分担者 |
松本 篤幸 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (00753906)
宮ノ入 洋平 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (80547521)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2024年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / NMR / ハイブリッド構造解析 / 融合構造解析 / 電子顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
クライオ電子顕微鏡による全体構造から徐々に高分解能な情報を得ることができる。一方NMRは原子間情報を基にその立体構造を解析する。つまり両者の構造解析の方向性は真逆になっている。両者が優位に得られる情報を互いに補完し融合できれば、大きな分子の溶液中での構造を完全な形で解析することができる。そのため、本研究ではクライオ電子顕微鏡によって主鎖構造を、NMRによって原子間距離情報を得て、それを融合し高分解能構造解析が可能な手法を開発する。
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研究実績の概要 |
近年クライオ電子顕微鏡による構造解析の分解能は飛躍的に改善し、構造生物学において欠かすことのできない手法に成長した。特に大きな複合体や柔軟な構造を持つような分子には第一選択的に用いられ、創薬にも用いられるようになった。しかし、部分分解能に関しては必ずしも高くなく、溶媒に面している領域では側鎖まで可視化できることはそれほど多くない。一方NMRは構造解析の手法としては溶液中の運動性を評価で利点を持っているが、大きな分子には構造解析できないことや同位体ラベルする必要性があることなど欠点を持つ。 しかしこの2つの技術は互いに補うことが可能であり、クライオ電子顕微鏡で主鎖構造を、NMRで側鎖の相対的な位置を解析できれば、運動性を含んだ高分解能な構造解析が可能である。 昨年、NMRの試料調製の困難さ、煩雑さを避ける目的で、同位体ラベルをせずにHのみのシグナルから原子間の距離情報を取得する方法を模索した。同位体ラベルなしの場合、クライオ電子顕微鏡での観察試料をそのままNMR測定に持ち込むことができるため、利便性が高く汎用性を求めるためには必須である。Hは蛋白質を構成する分子としては最も多く、シグナルが非常に多く観察される上に互いに重なりあうことで、そこから構造解析に重要な距離情報を取得することは不可能である。しかし、フェニルアラニンやトリプトファンなど芳香族アミノ酸に由来するHのシグナルは他のアミノ酸由来のHのシグナルとは異なる化学シフトを持つため、分離が可能で、そこを基軸に他のアミノ酸との距離情報取得の所得の可能性が見出された。そこで、NMRのミキシングタイムを様々に変える事によって芳香族アミノ酸からの一定距離に存在するアミノ酸からのシグナルを取り出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クライオ電子顕微鏡による構造解析は現在ルーチン化しており、試料さえ安定に精製できれば構造解析は比較的容易である。特に主鎖構造に関しては原子分解能を要求されないため、かなりハードルは低い。 その一方で、NMRはそれ単体で構造解析するにはさまざまな工夫と労力が必要となる。そのため特にNMRでは可能な限り簡便に、必要な情報だけを効率よく取り出す工夫が必要となる。同位体ラベルをしない試料はクライオ電子顕微鏡で観察した試料をそのまま使えるためにNMRでの構造解析に必要な労力を極力減らすことができる。そのため、Hからのシグナルだけで距離情報を得る手法を模索した。芳香族アミノ酸からのシグナルは他のアミノ酸からのシグナルとは別の範囲に存在するため、芳香族アミノ酸を中心として、特定の距離にあるシグナルを取り出すことに成功したものの、Hのシグナルが非常に多く互いに重なり合っていることから、シグナルの同定は極めて困難になっている。機械学習による同定についても検討したが、運動性の高いアミノ酸のシグナルが問題をより複雑にしており、Hからのシグナルを使った構造情報の取得は極めて困難であると結論付けた。
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今後の研究の推進方策 |
この研究では特にNMRの情報をいかにうまく使うかが1番の鍵となる。すでにクライオ電子顕微鏡によって構造解析された主鎖構造を制約条件にすることで、側鎖の情報だけをNMRで取得することで十分に高分解能な解析が可能となる。Hからのみのシグナルでは情報量が多く、1つの解を導くことは極めて困難であることが解ったため、本年度は選択ラベルを積極的に利用し、シグナルの重複を避けながら構造情報を取得する。NMRでの解析の場合、そのシグナルがどのアミノ酸由来かを知るための帰属が必須になるが、それをクライオ電子顕微鏡の構造を使って制限しながら帰属しつつ、距離情報を所得し、構造のリファインを同時に行う強化学習アルゴリズムを開発する。
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