研究課題/領域番号 |
22K18363
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
廣島 通夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (20392087)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2024年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2023年度: 13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2022年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | 細胞状態の多様性 / 大規模1分子計測 / 細胞の多様性 |
研究開始時の研究の概要 |
蛍光1分子イメージングの大規模計測が実現したことから、分子現象の時空間ダイナミクスに関する広範な情報が読み取れるようになった。細胞で生じる分子イベントの平均的描像だけでなく、その多様性についても知見が得られる。そこで本研究では、シグナル伝達に関わる動的な分子状態に着目し、今までと異なる観点から細胞の多様性のメカニズムを探ることを目的とする。細胞現象を司る新しい分子メカニズムを明らかにすることで、大規模1分子計測から細胞の特性や応答の予測が可能となる。さらに得られた結果を基に、従来法より情報が多く分子状態の多様性を考慮した新規薬剤スクリーニング法として、薬理学分野での展開に挑む。
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研究実績の概要 |
本研究では細胞応答の多様性の起源を明らかにするため、シグナル伝達経路で機能している分子個々の状態とその分布を解析することで明らかにする。さらに、分子の状態解析から細胞の応答を予測する新しい研究領域の開拓につなげる。この従来にないアプローチを実現するため、蛍光1分子イメージングの大規模計測から広範な情報を読み取る手法を確立する。また、同一細胞で1分子レベルでの動態計測とオミックス解析が可能な系を開発し、分子状態に現れる多様性と発現遺伝子との関連を見いだす。一方、現在実証中の1分子動態に基づく新規薬剤スクリーニングに、上記の解析を基に決定した分子の多様性を評価する指標を取り入れ、細胞の多様性も考慮した治療薬が選択される手法に発展させる。また、治療薬の効果に影響を与える細胞老化に着目し、分子状態の多様性がどのように変化しているか、老化を誘導した細胞で明らかにする。 2022年度は、全自動細胞内1分子イメージングシステム(AiSIS)による大規模計測から得られた上皮成長因子受容体(EGFR)のデータから分子状態を推定するプログラムを改変し、従来運動のみだった解析を多量体サイズの推定にまで拡張した。その結果、EGFR分子の運動に反映される分子構造と細胞膜環境の情報に加え、多量体形成に反映される下流のシグナル伝達効率に関する情報をも取得できるようになった。以前は分子運動の距離や1分子蛍光輝点の輝度を基に作成したヒートマップデータをクラスタリングして細胞状態を決定していたため、状態と実際の現象との対応が明確でなく、データサイズも大きくなるという欠点があったが、この手法の拡張により細胞状態を規定する要素の理解も容易となり、解析の効率も大幅に改善することができた。また、細胞を人為的に老化させる手法にセルソーターを導入し、確実に変化した細胞が得られるよう最適化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、大規模1分子イメージングによって得られる分子の位置と蛍光輝点強度のデータから、隠れマルコフモデル(HMM)と機械学習を組み合わせた手法により分子の運動状態と多量体サイズを推定し、細胞状態を規定する。大規模データを取り扱うため、解析の効率化と自動化は必須である。2022年度は、運動状態の推定のみ実装されていた解析プログラムを拡張し、多量体サイズの同定も可能となった。また、本研究のテーマである細胞に見られる多様性は、細胞の状態やその変化の影響も受ける。そこで実際にEGFRのリガンド添加前後に同じ細胞で1分子計測したデータに上記解析を行い、分子イベントと定量的に紐づいた指標で細胞状態の同定を行った。また、リガンド結合のほかに細胞状態を変化させる現象として細胞老化がある。これは疾病に対する薬剤の効果に影響を与える重要な細胞現象であるが、本研究ではDoxorubicinを用いて人為的に老化を誘導する。老化細胞は増殖しないため、計測に用いる細胞試料を効率良く作成することが必須となる。そこでDoxorubicin処理した細胞群をプローブで染色した後、セルソーターを用いて老化が誘導された細胞のみ選別する手法を用いることとした。2022年度はこの手法の最適化を行い、実際に老化した細胞のみが計測試料として培養されていることを確認した。そのほか、大規模1分子計測と組み合わせる1細胞ピックアップ装置の機種選定のため、デモを行って候補機種を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は1細胞ピックアップ装置を導入・実装し、細胞の採取を試みる。並行して、これら一連の動作を自動化するため一括制御が可能なプログラムの開発をピックアップ装置のメーカーおよびAiSISの制御プログラムを作成している企業と共同で行う予定である。また、ピックアップした細胞で今後定量解析の対象となる遺伝子発現について、RNAシークエンシング(RNA-seq)による解析を行う。これらは2024年度から本格化する1分子イメージングを行った細胞をピックアップし、遺伝子解析まで行う実験の予行となる。一方、昨年度に解析プログラムの拡張によって分子の状態マップが作成できるようになり、実際にリガンド刺激前後で数百個の同一細胞から取得した1分子データについて細胞毎にマップを作成し各フラクションの分布を得ることが可能となった。ただし現時点では分布が複雑となっているため、さらにクラスタリングなどの手法を用いて分子状態から適切な細胞状態を同定するプロセスのブラッシュアップを図る。2023年度はこれらの解析手法により、まず別個の細胞群から得られる細胞状態と遺伝子解析それぞれについて細胞間の平均を導出し比較を行うことで、分子の状態や機能と遺伝子発現レベルの間に介在しているメカニズムを明らかにする。
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