研究課題/領域番号 |
22K18385
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分51:ブレインサイエンスおよびその関連分野
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
徳永 文稔 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00212069)
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研究分担者 |
澤崎 達也 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 教授 (50314969)
及川 大輔 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (20455330)
清水 康平 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 助教 (70727073)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2024年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | タンパク質 / ユビキチン / 酵素 / 神経変性疾患 / 筋萎縮性側索硬化症 / 疾患修飾薬 / 細胞質封入体 / 炎症 / 化合物探索 |
研究開始時の研究の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが変性することで筋力低下を引き起こす神経変性疾患で、現在のところ有効な治療法はないため、ALS発症に至る細胞機構の基礎解明を基盤とした創薬シーズ探索への挑戦は急務である。我々は、ALS患者神経細胞内封入体に多様な連結からなる複合型ユビキチン鎖が含まれていることを見出しており、これがALS発症の細胞機構に関わる可能性を着想している。そこで本研究では複合型ユビキチン鎖を生成するユビキチンリガーゼ(E3)を同定するとともに、E3を標的とした抑制剤を探索し、細胞やALSモデルマウスを用いて薬効を解析する。これによってALS発症機構の基礎医学的解明に貢献する。
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研究実績の概要 |
我々は、直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖)を生成するヒト唯一のユビキチンリガーゼ(E3)であるLUBACを同定し、炎症・免疫制御に重要なNF-κBシグナル活性化に不可欠であることを見出した(Nature Cell Biol., 2009; Nature, 2011)。さらに、ALSの原因遺伝子一つであるオプチニューリン(OPTN)が直鎖状ユビキチン鎖結合タンパク質であることを明らかにするとともに、ALS型変異OPTNはM1鎖結合能とNF-κB活性抑制能を喪失していること、OPTN変異ALS患者由来の神経細胞内封入体に直鎖状ユビキチン鎖が共局在することを見出した(Nature Commun., 2016)。その後、孤発性ALSやアルツハイマー病のtauタンパク質封入体においても、微細な封入体ではプロテアソーム分解に関わるK48ユビキチン鎖のみ検出されるが、太い線維ではK48、K63、M1鎖など多様なユビキチン鎖が混在することを突き止めた。これはM1鎖を含む多様なユビキチン鎖生成がALSなど神経変性疾患における封入体形成やタンパク質毒性(プロテイノパチー)に関与する可能性を示唆している。我々は、LUBAC特異的阻害剤(HOIPIN-8)を独創的に開発しており(Commun. Biol., 2021)、今回、HOIPIN-8によってM1鎖生成を抑制することでALSに特徴的なTDP-43の凝集体形成へ対する影響を細胞レベルで解析した。その結果、LUBACの欠損やHOIPIN-8によってTDP-43凝集体生成が抑制されることを明らかにした(Cells, 2022)。本研究からLUBAC活性抑制がALS進行を制御する可能性が示唆されたので、今後ALSモデルマウスを用いてin vivoでのHOIPIN-8薬効解析を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TDP-43は孤発性/家族性ALSのほぼ全例で凝集体に含まれるタンパク質で、我々は直鎖ユビキチン化されていることを明らかにした。本研究で我々は、TDP-43凝集体形成におけるLUBACの寄与についてマウス由来の神経細胞株であるNeuro2a細胞を用いて解析した。その結果、TDP-43のC末端はNLSを欠いており細胞質において容易に凝集体を形成するが、Hoipを欠失させた細胞では断片化TDP-43の凝集はほとんど認められなかった。また、HOIPIN-8存在下ではTDP-43の凝集体形成が抑制され、LUBACを介したNF-κB応答、およびI型IFN応答がTDP-43の発現により亢進することを見出した。この結果はLUBACがTDP-43とともに凝集体を形成することで、より強力な炎症応答シグナルのハブとして機能し、ALSの病態形成に関わっている可能性を示唆している。今回の研究によりLUBACの機能阻害がALSの発症を抑制する治療方法として応用可能であることが示唆された。これらの成果は、Cells(2022)に発表するとともに、Front. Mol. Biosci. (2023)に総説を発表した。また、神経変性疾患における複雑型ユビキチン鎖生成を抑制する新規阻害剤候補の探索を進めており、LUBACと協調するE3であるLAP1とのタンパク質相互作用阻害剤(PPI)の開拓によって新規ALS治療薬候補として検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として、まず「ALSにおける複合型ユビキチン鎖生成に関わるE3の探索」として、LUBACの活性中心サブユニットであるHOIPに結合する新規E3として同定したK48鎖生成E3のLAP1とK63鎖生成E3のLAP2に着目して、ALSモデルマウスにおける発現や複雑型ユビキチン鎖生成への寄与を解明する。 次に、「複合型ユビキチンコードを標的とした化合物探索」として、複雑型ユビキチン修飾を制御する目的で、LAP1とLUBACとのタンパク質相互作用阻害剤(PPI)の開拓を行う。すでに我々は、澤崎と協働して東京大学創薬機構の化合物ライブラリーから候補化合物の一次スクリーニングを行っており、濃度依存性や近縁体探索を進め、より薬効の高い化合物の同定を目指す。 また、「ALSモデルマウスを用いた複合型ユビキチン鎖の解析」として、ヒトALS関連TDP-43のAla315Thr変異体を高発現することでALS様運動障害を呈し、死に至るモデルマウス(TDP-43A315T-Tgマウス)を用いてHOIPIN-8の生存や運動機能(握力、ロータロッド、ワイヤーハング、インバーテッドスクリーン法にて検討)への影響をin vivoで解析するとともに、ユビキチン陽性凝集体形成を免疫組織化学的に解析する。これによってM1鎖生成阻害がALS治療標的になる可能性を解明する。
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