研究課題/領域番号 |
22K18417
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
眞溪 歩 広島大学, 脳・こころ・感性科学研究センター, 教授 (50273842)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2024年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2023年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2022年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
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キーワード | 神経結合 / シナプス結合 / 体積電流結合 / 経頭蓋細胞外インピーダンス制御 / 経皮的細胞外インピーダンス制御 |
研究開始時の研究の概要 |
脳機能は,神経細胞が電気信号をやりとりすることにより実装されているとされる.シナプスはこのための器官であり,シナプスを介した神経細胞間の結びつきをシナプス結合と呼ぶ.一方,頭表で測ることのできる脳波の実体は,神経細胞から漏れ出し頭内を3次元的に流れる体積電流である.本研究では,シナプス結合とは別に神経細胞間が体積電流を介して結びつく体積電流結合の存在を証明し,その機能を調べることを目的としている.このため,頭部を電気的に接続した二人に(二人間にシナプス結合なし),意味のある情報を通信させる実験を行なう.本研究は,体積電流制御による,将来的な人間拡張・電気治療への挑戦的な研究である.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は,ヒトの脳機能は「神経結合(NC)=シナプス結合(SC)+体積電流結合(VcC)」によって実装されるという仮説を実験的に証明し,その機能的役割を解明することである.ここで,VcCとはシナプスを介さない神経間直接の電気的結合のことで,研究代表者の造語である.頭部電解溶液中に浸水している脳神経においては,VcCは電気物理的に当然起こり得る現象であり,実際,数10μm間隔の1対数個の神経細胞間においてephaptic couplingという名称で存在している(ephaptic=touch).一方,神経細胞は数万個(誘発活動)から数100万個(自発活動)で時間的・ベクトル空間的に同期し活動するため,多対多の神経細胞間の電気的結合距離は2乗反比例則によって,数mmから数10mmに延伸されると予測される.この距離は,もはや脳領野,あるいは脳領野間の距離である.このような集団現象によって結合距離がephapticの範疇を越え延伸された電気的結合を,VcCと呼んでいる. 昨年度は,上記のNC=SC+VcCを証明するため,SC=0の状況下でのヒトの行動・生理計測実験を行なった.具体的には,二人の被験者の頭部を実質的に導線2本で接続し,互いの体積電流(Vc)が行き来できるようにした.二人の間にシナプス結合は存在し得ないためSC=0となるが,VcC≠0は成立し得る.この状況で,二人を感覚として遮断し,互いに独立した視覚の左右判別課題を与え,片方の被験者に左右の干渉効果を統計的有意に確認した.さらに,この実験中に同時計測した脳波には,他方の被験者に与えた刺激の左右に同期した脳波分布がもう片方の被験者に統計的有意に現れた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
22-23年度にまたがって,Vcの頭部内分布を制御する装置「経頭蓋細胞外インピーダンス制御(tEIC)」を,電子回路として安定化する改良を試みた.tEICは安定化できたものの,負性インピーダンスとして動作するインピーダンスの範囲が実効的に狭くなり,引き続き改良が必要であることがわかった. 次に,tEICを用いた二人の被験者の電気的頭部接続実験を行なった.tEICは研究代表者が登録特許を有する技術で,tEICによってVcは減衰することなく二人の脳を行き来できる.なお,二人は五感において隔離した.これは,本挑戦的研究(開拓)において中核の実験で,VcCの存在証明に直接資するものである.二人の間にはSCは存在しないため,電気的な通信による行動効果が認められれば,それはVcCが担ったことになる.被験者に与えた課題は,ランダムドットキネマトグラム(RDK)とした.RDKは,ブラウン運動するランダムドットの中に左右どちらかに同期して動くドットが含まれ(同期するドットの割合をコヒーレンスと呼ぶ),被験者には左右を強制選択回答させた.コヒーレンスは片方の被験者が20%で(高難度:60%程度の正解率),もう片方を80%とした(低難度:ほぼ100%の正解率).期待される効果(交互作用)として,課題の左右が一致した(一致しない)とき高難度の被験者が低難度の被験者の正答率を上げ(下げ)ることであり,実際,統計的優位に期待通りの効果であった.また,この実験中に同時計測した脳波には,高難度の被験者に与えた課題の左右に同期した脳波分布が,低難度の被験者の脳波に統計的有意に現れ,左右信号の被験者間伝達を裏付けた.さらに,このことが起こる合理的理由付けとして,数理モデルを構築した.現在,この結果については論文執筆中である.
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今後の研究の推進方策 |
VcCは電気的には混線であり,その意味では脳内の至る所で常に起こっていると考えられる.このため,tEIC接続のない一人の通常の状態においても,脳機能はVcCを前提として設計されているはずである.本年度は,VcCの機能的役割を,tEICとpercutaneous EIC (pEIC,身体に対する経皮的EIC)の2面から調べる. 一例として,運動学習について述べる.予備実験として,被験者に1/3Hzの正弦波が描かれていく様子を呈示し,非利き手の母・示指で挟み持ったピンチメータを調整し,正弦波をトレースする課題を行なった.休憩を挟んで100周期分を4セット行なうと,トレース誤差は実験の進行に従って減少した.このとき同時計測した脳波には,運動学習に伴うシータ波が頭頂・後頭に顕著に出現した.母・示指の筋電には,脳波でいうアルファ波帯域の成分が観察された.このことから数名の被験者に対しpEIC, tEICともに適用したが,運動学習に正の交互作用を与えたのはtEICのみであった.実験中,被験者には1/3Hzの課題遂行の様子が視覚的にフィードバックされる.また,正弦波がうまくトレースされている場合,体性感覚刺激が1/3Hzでフィードバックされるし,被験者によっては課題中の呼吸も1/3Hzにロックされる.これらは,被験者の予測と統合され運動学習が進むと考えられる.視覚,体性感覚,呼吸制御には固有の伝播遅延があり,当然ながら,予測学習に遅延は小さい方がよい.SCよりVcCの伝播遅延は圧倒的に小さいため,VcCの機能的役割のひとつは予測学習を分担することという作業仮設を立てている.この作業仮設のもと,予備実験で得た知見から実験を再設計し研究を継続する.
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