研究課題/領域番号 |
22K18426
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 潤一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10435836)
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研究分担者 |
諸野 祐樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 上席研究員 (30421845)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 地下生命圏 / tipping point / ハイエイタス / 生痕化石 / 火山灰層 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,古環境学と微生物学の融合を通して,過去の地球環境の転換点(tipping point)に応答して変化する海底堆積物の岩相が,同時に現在の海底下生命圏の分布や群集組成を規定するという仮説を検証する.この仮説はこれまで浅部海底下研究で示唆されている.本研究では,さらに深堀りするため,過去の地球環境の転換点で形成された多様な地質学的境界(ハイエイタスや明暗色互層など)に伴う微生物群集の構造変化と分布を調査する.
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研究実績の概要 |
本研究は,過去の地球の気候変動や,火山噴火などのイベントが原因で起こる海底堆積物の岩相変化が,現在の海底下生命圏の分布にどう影響を与えているのか,つまり,過去の地球が現在の生命圏を規定しているか,という命題に取り組む.ターゲットの岩相変化として,1)長期間の無堆積の結果できるハイエイタス,2)酸化還元条件の変動の結果形成される明暗職互層,3)泥層中の火山灰層,4)生痕化石の中と外,に注目する.上記4つの岩相境界を得るためのフィールドとして,火山灰層を伴う沖縄トラフの堆積物,日本海の明暗色互層,太平洋海台のハイエイタス,を挙げ,ピストンコアでの採泥と地球微生物学的研究を進める. 2022年に白鳳丸KH-22-3次研究航海で沖縄トラフの採泥が実施され,広域テフラ(鬼界カルデラ7 ka, 桜島13 ka)を含む海底堆積物が採取された.また,2023年度には新青丸KS-23-5次研究航海で日本海秋田沖で採泥が実施され,明暗色互層と火山灰層(大山草谷原21 ka)の回収に成功した(現在までの進捗).2024年度には,白鳳丸の船舶共同利用に採択され,太平洋シャツキー海台にて白鳳丸KH-24-1次航海で大規模ハイエイタスの回収に挑む(今後の推進方策). 日本海の堆積物にみられる明暗色互層に注目し,その明暗色互層が現在の海底下生命圏の分布や群集組成をどのように規定しているか,その分布や群集組成がどのような生命科学的,生物地球化学的意義を持つのかという科学的疑問の解明に挑戦する.すでに明暗色互層の堆積が報告されている堆積物を再採泥し,それを速やかに冷凍保存して微生物研究(細胞カウントやDNA解析など)を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年に白鳳丸KH-22-3次研究航海で沖縄トラフの採泥が実施され,広域テフラ(鬼界カルデラ7 ka, 桜島13 ka)を含む海底堆積物が採取された.また,2023年度には新青丸KS-23-5次研究航海で日本海秋田沖で採泥が実施され,明暗色互層と火山灰層(大山草谷原21 ka)の回収に成功した. 日本海は,太平洋や東シナ海といった外海とをつなぐ海峡(対馬など)の水深が全て浅く,その地形的特徴が地質学的時間スケールでの日本海の酸化還元変動に大きな影響を与えてきた.氷期には,地球規模で海水準が低下し外洋と日本海との海水の交換が途絶え,鉛直混合が停滞して中~深層が貧酸素になり,硫化物に富むラミナ状暗色層が堆積した.一方,完新世に代表される間氷期の高海水準期には東シナ海などから海水が流入して深層循環が活発になり,中~深層に酸素が供給されて酸化的条件となり明色層が堆積した.この氷期・間氷期の海水準変動に呼応した日本海中~深層の酸化還元変動は,明瞭な明暗色互層として海底堆積物に記録されている.本研究課題では,その明暗職互層に注目し,岩相変化が現在の海底下微生物生命圏をどのように規定しているかについての追及を進める予定であった. 今回,新たなコアを採取するため,新青丸でのピストン採泥を提案し,2023年度に採択され2023年4月に新青丸KS-23-5次航海が実施された.採泥地点 (39°32’N, 139°22’E, 水深813 m) において,2本のピストンコア (PC01, PC02)と2本のマルチプルコア (MC01, MC02)の採取を行った.2本のピストンコア採泥では,いずれも約6.4 m の堆積物を回収できた.さらに,その中に大山草谷原由来の火山灰が含まれていることが判明した.これにより,火山灰に伴う微生物群集の変動を負うことも可能となり,予想よりも大きな収穫を得た.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に採取したKH-22-3次航海の試料(沖縄トラフ)および2023年度に採取したKS-23-5次航海の試料(日本海秋田沖)について,試料の処理を進める.これまで,年代層序学的検討を進め,前者には広域テフラをもとに7 ka (鬼界カルデラ)と13 ka (桜島)の年代を抑えることができた.一方,後者は21 ka(大山草谷原)の年代を入れることができている.いずれも,放射性炭素年代や有孔虫酸素同位体年代を入れ,年代層序を完成させる.また,すべてのコアはすでに高知大学海洋コア国際研究所にて記載,物性測定(帯磁率・密度)を行っている.これらのデータをもとに,適切な層準から微生物サンプリングを行う.この点が新しいもので,従来は岩相や年代をほとんど無視して微生物サンプリングを行っていたが,本研究は目的に対して適切な層位から試料を採取する.微生物分析用の試料は冷凍保管しており,冷凍状態でサンプリングを行う手法を並行して開発する.
さらに,2024年度は,白鳳丸KH-24-1次航海が実施され,シャツキー海台でピストンコアラーによる堆積物の採取が予定されている.シャツキー海台は,大小さまざまな規模のハイエイタスが発達することが知られており,今回,南西部の斜面で採取するピストンコアでもハイエイタスを含む堆積物が採取されれば,本課題の大きなテーマの一つであるハイエイタスを挟んだ微生物群集の変化を追跡することが可能となり,本研究課題が大きく前進する.
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