研究課題/領域番号 |
22K18435
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松元 慎吾 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (90741041)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2024年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2023年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 感染後遺障害 / パラ水素誘起偏極 / 分子イメージング / 超偏極13C MRI / 代謝 |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナ禍において、感染症寛解後も持続する嗅覚や味覚の消失、うつ病・不安障害、心筋炎など感染後遺障害が社会問題となっているが、後遺障害に特異的な生化学マーカーや画像所見は確立されていない。本課題では、1) 13C標識ピルビン酸を代謝トレーサーに用いるミトコンドリア代謝変容と、2) 13C標識フマル酸を用いる局所炎症に伴う細胞死を、超高感度13C MRIにより特異的に検出することで、感染症が寛解した後も組織に残る後遺障害を非侵襲的に可視化する分子イメージング技術を実現し、感染後遺障害の機序解明と治療加入の評価に繋げる。
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研究実績の概要 |
新型コロナ禍において、“持続する嗅覚・味覚障害、心筋炎、うつ病・不安障害”が社会問題となっているが、組織における感染後遺障害の診断法は確立されていない。本課題では、ミトコンドリア代謝変容と局所炎症に伴う細胞死を、超高感度13C 核磁気共鳴画像(MRI)により特異的に検出することで、組織に残る感染後遺障害を非侵襲的に可視化する分子イメージング技術の確立を目指し、研究を進めている。 第2年度である令和5年度は、まずパラ水素誘起偏極法による新規1H-13C分極移動方式による13C励起装置の開発成果を論文にまとめ、医用工学分野のQ1雑誌であるIEEE Trans Biomed Eng誌に採択された。擬感染症(免疫疲労)モデルにおいて、新たにミクログリアの活性化解析を行い、ミクログリアは全脳レベルで急性期にのみ活性化され、後遺症期では既に正常値に戻り、体重変化や血中の炎症性サイトカイン濃度とパラレルに変動していた。一方、初年度に立ち上げたマウスの自発行動量解析では、夜間の自発行動量は擬感染症モデルの急性期で顕著に低下した後、4週後においてもコントロールレベルまで戻らず、急性期以降も持続する自発運動量の低下がみられた。この擬感染症モデルの頭部において超偏極13Cピルビン酸によるMRI代謝イメージングを実施した。急性期にあたるpolyI:C投与開始3日後において、脳代謝の顕著な解糖系シフトがみられ、その脳代謝変容は4週掛けてゆっくりとコントロールレベルに戻り、その時系列は持続する夜間の自発運動量との関連性が示唆された。今後は陳述記憶や作業記憶などの海馬機能を評価する行動解析を追加し、持続する感染後遺障害と脳代謝変容の関連性の詳細な解析を進めていく。これらの研究成果の一部は、令和5年9月の国際学会で報告し、その後の研究進捗についても令和6年5月の国際学会磁気共鳴医学会にて発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2年度目では、まず基盤技術であるパラ水素誘起偏極法による新規1H-13C分極移動方式による13C励起装置の開発成果を論文にまとめ、医用工学分野のQ1雑誌であるIEEE Trans Biomed Eng誌に採択された。次に、初年度に実施した擬感染症(免疫疲労)モデルの全身臓器における代謝変容マーカーの発現解析から脳における代謝変容が強く示唆されたため、2年度目は脳に特化して代謝解析と神経シグナル評価を行い、脳機能障害の指標となる夜間の自発運動量との時系列相関を調査した。ミクログリアの活性化をIba1の免疫染色で評価し、ミクログリアは全脳レベルで急性期にのみ有意に活性化され、後遺症期である2週および4週目では既に正常値に戻り、体重変化や血中の炎症性サイトカイン濃度とパラレルに変動していた。一方、行動解析では、夜間の自発行動量は擬感染症モデルの急性期で顕著に低下した後、4週後においてもコントロールレベルまで戻らず、急性期以降も持続する自発運動量の低下がみられた。初年度に実施したドーパミン神経シグナルマーカーの発現も黒質や線状体において2週以降も持続して有意に低下していたことから、急性期のみに観測される指標と後遺障害期にも持続して変化する指標に大きく分かれた。この擬感染症モデルの頭部において、超偏極13Cピルビン酸によるMRI代謝イメージングを実施した。急性期にあたるpolyI:C投与開始3日後の全脳レベルにおいて、酸化的リン酸化の代謝フラックスの減少と解糖系の代謝フラックスの増加が同時に起きる顕著な解糖系シフトがみられ、その脳代謝変容は4週掛けてゆっくりとコントロールレベルに戻ったことから、脳代謝変容の時系列は急性期以降も持続する行動異常と関連している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
常温・低磁場核偏極型の13C励起装置においては、更なる性能向上を目指し、より安全かつ高い13C偏極率が得られる超偏極13Cピルビン酸前駆体の開発と、R5年度に制作した低磁場NMR装置を用いた1H-13C分極移動技術の適用を進める。超偏極13C MRI代謝イメージングの高感度&高分解能化では、昨年度開発したテンソル分解・低ランク近似によるノイズ除去と撮像中の超偏極信号の減衰を補正するk空間フィルタを組みあせた複合画像処理を、実際のマウスの脳代謝計測に適用することで1mmを切る空間分解能での代謝フラックスマッピングを実現する。これにより擬感染症モデルにおいて脳代謝変化を従来の全脳レベルでの解析から、脳内のどの領域でどのような代謝変容パターンが起きるかを加味した多変量的な解析への拡張を図る。 感染後遺障害モデルにおいて自発行動量解析から示唆された急性期以降も持続する脳機能障害を処理詳細に把握するため、陳述記憶の指標であるモリス水迷路試験、作業記憶の指標となるY字迷路試験、抑うつの指標であるテースサスペンション試験などを追加した行動解析バッテリーを用意し、超偏極13C MRIから得られる脳代謝変容のパターンと変化が見られる脳内領域が、どの行動異常と相関するのか、神経シグナルや代謝変容マーカーの発現変化も加味して統合的に解析を進める。また、解糖系代謝の阻害剤や抗酸化物質を腹腔内もしくは脳室内に局所投与することで、後遺障害期における代謝変容および行動異常に介入できるかを検証する。並行して、昨年までの研究成果を令和6年度の7月を目処に投稿予定であり、今年度の研究成果を加えて、最終的に2報の論文にまとめることと、令和6年9月の国際分子イメージング学会WMICでの発表を計画している。
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