研究課題/領域番号 |
22K18447
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分1:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瓜生 大輔 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (40635562)
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研究分担者 |
金 セッピョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 特任助教 (00791310)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 遠隔葬儀参列・中継 / 葬儀事業者 / フィールドワーク / デザイン / 葬送墓制研究 / 調査 / 韓国 / テレプレゼンス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、遠隔葬儀中継に取り組む事業者および実際に中継を利用した遺族などへの調査と関連技術・デザイン的動向調査を通し、独自の遠隔葬儀支援システムをデザインし検証する。研究代表者は、2020年6月に葬儀の遠隔中継支援に携わった。そこで「葬儀社や遺族が自らネット中継を執り行う難しさ」を目の当たりにしたことから、これまで全く別の文脈で行われてきた葬送儀礼研究とネット中継技術開発研究の融合必要性を認識するに至った。このような背景から、葬儀中継現場の調査による課題発見と、実際に葬儀中継に特化したシステムデザインという2つの軸に取り組む挑戦的研究を遂行する。
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研究実績の概要 |
今年度の研究実績としては、国内の葬儀事業者2件(うち1件は電話での調査)、および国外1件への調査を実施した。同時並行し、遠隔葬儀サービスを提供する事業者リストを作成し、現在の動向把握と中期的な調査計画を作成した。 調査した国内事業者の1つは360度カメラを用いた中継設備をもつ葬儀ホールを運営する栃木県宇都宮市の葬儀社である。本プロジェクトで開発中の装着型中継システムを用いた遠隔葬儀中継のコンセプト映像の作成を協働で行うなど、密接にコミュニケーションを取りながら調査・研究を進めている。もう1社は東京都内の企業だが、新型コロナウイルス感染症の蔓延が収束に向かう中、サービスの縮小あるいは打ち切りを視野に入れているとの話だった。東京都内の大手葬祭関係企業のなかには、消費者への告知なく、すでに遠隔葬儀中継サービスそのものを打ち切ったと見られる業者も存在する。現時点では、ネット中継はコロナ禍において「やむを得ずを利用されていた一過性のサービス」であるとの解釈が可能だ。 一方、韓国ソウルの葬儀社への訪問調査でも、同様の見解が示された。今日の韓国の葬儀は日本よりも列席者が多く、親族以外の参列も多いことから、コロナ禍においては政府主導で参列者数の制限がかけられていた。その当時は、同社葬儀ホール内に備えられたインターネット中継接続設備が活用されていたが、2022年秋の訪問時にはすでに利用されていないとの話だった。 今年度の調査実績をふまえ、今後本研究は、現状の遠隔葬儀中継事業者をくまなく調査することよりも、特に先進的な試みに関する事例調査に主眼を置く。そして、近未来の葬儀のビジョンを示すデザイン提案を作成する。インターネット中継技術などの最新技術が広く普及した社会における今後の葬儀のあり方を議論するための研究活動にリソースを割く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査そのものは順調に進められており、初年度から1件海外調査を行えた点については当初の計画以上に進展を見せている。遠隔葬儀参列支援システムのデザイン・開発についても進捗した。 しかし、コロナ禍の終焉とともに、遠隔中継サービスそのものを打ち切る事業者が増えてきたことにより、当初の計画の一部分は修正を余儀なくされた。一方で、捉え方によっては、与えられた研究実施期間の間に、何が一過性の変化であり、何が今後の葬儀においても求められる本質的な事象なのかを検討できる状況となった。 現時点での遠隔葬儀中継のコンセプト映像を制作できた点は、遠隔葬儀支援システムのデザイン・開発における第1歩である。一方で、葬儀場でのシステム稼働・運用に関する様々な問題が浮き彫りになった他、技術・デザイン的にも多くの改善すべき点が認識された。 これらの進捗をふまえ、今後のデザイン成果物の方向性としては、単に現状のニーズに応えるプロトタイプを作り、検証するというよりは、近未来のビジョンを提示し、その受容可能性や実現可能性を議論するべきとの見解にいたった。近未来の葬儀のあり方を検討する上で重要な研究成果となるために、近視眼的に現状の消費者ニーズを満たすのではなく、ビジョン提示型のデザイン提案を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、コロナ禍を契機にサービスを開始した業者の多くはすでにサービスから撤退している一方で、文献調査を進めた結果、世界的にはコロナ禍以前から遠隔葬儀中継サービスを提供する業者が存在することを確認した。たとえば、ユダヤ教(死後24時間以内の埋葬が必須)の一部の教会では、早期から中継サービスを導入されていたと見られる。来年度以降、これらの事例に関する本格的な調査を進め、感染症蔓延にともなう時流的ニーズを超えた「これからの葬儀の意義」と、そこに求められる技術・デザインに対する要請事項の把握に努める。 初年度の調査では、複数の事業者へのヒアリングを実施できた一方で、故人の遺族など遠隔葬儀中継サービスの利用者たちへのヒアリングを行うには至らなかった。引き続き調査協力者を探し、遠隔葬儀参列がもたらす(求められる)経験の本質を探求する。 今年度の技術調査では、遠隔会議などに用いられる中継技術のみならず、今年度後半に爆発的な流行を見せた生成系AIや、メタバース・オンライン上での葬儀参列、あるいはヴァーチャル・リアリティ技術を用いた死者の再現といった先端技術の葬送儀礼への応用というトピックが出現した。今後の葬儀のあり方を検討するためには、葬儀中継技術という枠にとらわれずに、さまざまな先端技術を用いた葬儀デザインの可能性についても議論を進めていく。
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