研究課題/領域番号 |
22K18585
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
土佐 幸子 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (40720959)
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研究分担者 |
笠 潤平 香川大学, 教育学部, 教授 (80452663)
後藤 顕一 東洋大学, 食環境科学部, 教授 (50549368)
今村 孝 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10422809)
石井 恭子 玉川大学, 教育学部, 教授 (50467130)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 高校理科授業 / アバター・ロールプレイ / アクティブ・ラーニング / 概念構築 / 指導方略 / 教員研修プログラム / 教員養成プログラム / 実践知 / 高校理科授業改善 |
研究開始時の研究の概要 |
先の見通せない現代社会において、広く科学リテラシーを育むために高校理科授業の重要性は高い。しかし、実際の授業は教師主導の一方的な情報伝達型が多く、教師のスキルと意識を高め、アクティブ・ラーニング型授業への変革が急務である。本研究ではAL型授業へ改善するため、①仮想の教室でアバター生徒に授業を行う教員研修プログラム「アバターに教えて」を開発、②プログラムを現職理科高校教員の研修で継続的に実践・効果検証、③全国的なオンライン研修会でネットワーク構築、④教員養成用にプログラム拡充、を行う。本研究の挑戦性は、アバターロールプレイを活用して教師の実践知を高め、授業改善に結び付けるところにある。
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研究実績の概要 |
本研究は,高校理科教員を教師主導の一方伝達型の指導法から脱却させ、アクティブ・ラーニング型授業を実現するために、アバターを用いた教員研修プログラムを通して実践知を高め、授業改善を図ることを目的としている。具体的な活動は、①プログラム開発(1・2年目)、②効果検証(2・3年目)、③全国的普及(2・3年目)、及び④教員養成プログラムへの拡張(3年目)の4点である。 前年度までに開発した物理分野と化学分野におけるアバター・ロールプレイのシナリオを用いた教員研修プログラムとデータ分析方法を活用して、R5年度の2年目研究では、プログラムのさらなる実践とデータ収集、及びデータ分析に積極的に取り組んだ。このプログラムでは、参加者がアバター生徒3名に対して10分間のオンライン授業を実践し、その後研究者と振り返りの協議を通して指導方略の改善点を見出し、授業改善を行うものである。7・8月に現職教員2名と教員志望学生8名を対象に化学分野の質量保存則のプログラムを実施してデータ収集を行った。また、生物分野の生態系のつりあいに関するシナリオを開発し、数回の修正を行った後、3月に4名の教員志望学生を対象に実践を行った。これで理科の3分野についてプログラム開発とデータ収集することができた。分析に関しては、物理分野のプログラムについて、これまでに収集した18名の授業展開を詳細に分析した。前年度までに明らかになった①概念構築を促す発問の難しさ、及び②教師主導の授業展開に陥りがちという課題について、その原因を探った。分析の結果、概念構築に至る場合とそうでない場合の分岐点を特定することができ、日本物理学会春季大会で研究発表を行った。アバター・ロールプレイの自前ソフトウエア開発に関しては、工学部の研究者を中心に模索を行ったが、仮想空間で自由に操作できるアバターの設定は難しく、進捗はあまり見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目の活動目標は「アバター・ロールプレイを用いた教員研修プログラムの実践と普及」である。実践については、すでに前年度から現職教員と教員志望学生を対象に取り組んできたが、R5年度は化学分野のプログラムのさらなる実践だけでなく、生物分野のシナリオ開発と実践を行うことができ、本プロジェクトの範囲を拡張することができた。化学分野のプログラム実践においては、前年度に行った「実践2回とその間の指導」という形態を再度取り入れた。その結果、実践を2回行うことにより「生徒に問う」や「生徒同士の話し合いを促す」などの表面的な指導スキルの獲得を促すことができることが分かった。しかし、概念構築を促す発問の仕方や生徒主体の教育観には変容は見られず、時間がかかることが推測された。そこで教員志望学生から熟達者までの18名のデータについて物理分野の授業の展開を追う分析を行い、概念構築の分岐点を特定できたのは1つの進展であった。概念構築の過程は分野及びトピックごとに異なるが、作用・反作用の授業の概念構築を促すプラスの要素とマイナスの要素を特定することができた。化学分野の質量保存則の授業について、同様の要素が特定できるのかどうか、分析が急がれる。さらに、生物分野のシナリオを開発して実践できたのも大きな成果である。このように本研究は今まで十分明らかにされてこなかった概念構築の過程について、アバーター・ロールプレイによる10分間授業を同一条件で比較することにより、その具体的な姿を明らかにしようとしている。 本研究の成果について、日米教員養成協議会2023年大会(11月、米国西フロリダ大学)、及び日本物理学会2024年春季大会(3月、オンライン開催)において発表を行った。どちらの学会でも、アバター・ロールプレイを用いて概念構築の過程を明らかにするという新たな研究手法に、参加者から強い関心が寄せられた。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の最終年度には、研究成果の包括と発信を行うと同時に、次のステップに向けて研究発展の可能性を模索する。これまでに物理分野18名、化学分野10名、生物分野4名、計22名の参加によるデータ収集を行った。まず、9段階の評価指標による分析と授業展開を追う分析をすべてのデータについて完了させ、分野にかかわらず生徒の概念構築を促すプラス要素とマイナス要素の規則性がないどうかかを探る。学習指導要領において探究的な理科学習が重視されながら、学習者の思考を促す具体的な手法は個々の教員に委ねられている。効果的な発問の仕方に悩む教員が多い中、本研究の成果は大きな指針になるものと期待される。 残念ながら、これまで本研究に日本語でアバター・ロールプレイのサービスを提供してきたクインテグラル社が4月末でそのサービスを中止した。大元の米国企業を介してのサービスには約10倍の費用がかかることが判明し、今年度のアバター・ロールプレイの実施は難しい。幸いにも、前述のように3分野のデータが収集できているので、今年度の活動はデータ分析と成果発信に注力する。 現状のアバター・ロールプレイのようなソフトウエアを自前で開発することは技術的に難しく、今のところ可能性は見出せていない。次の研究に向けて、もっとシンプルな方法でアバター・ロールプレイと同等の活動ができないかどうかを探る。本研究に参加した教員志望学生の多くは、プログラムの効果を高く評価している。この手法が技術的・財政的な理由で終わってしまうのは損失だと考えられるので、何らかの形でアバターを使った教員育成プログラムの存続と発展を探りたい。
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