研究課題
挑戦的研究(萌芽)
本研究では、意欲が低下している反復社会的敗北ストレス(cSDS)モデルマウスを用いて多数の脳領域における神経活動記録とカルシウムイメージングを長期間にわたり自由行動下にて行う。この脳活動記録データから、数理解析および機械学習を用いて、cSDSを負荷した動物に特有な潜在的脳情報ネットワークモデルを作製し、行動学的結果と合わせて意欲の強度が判別可能か検証する。また、「やる気」を生み出す脳活動や神経細胞群も特定する。
反復社会的敗北ストレスを経験したマウス(cSDS)では、雌雄選択試験において、異性に対する接触時間が、対照群マウスと比較して短くなっており、アンヘドニア(無快楽状態)となったと言える。そこで、このcSDSマウスにおける複数の脳領域における活動を自由行動下にて同時に記録するため、ラットで行われている広範囲多点脳活動同時記録を応用し、マウスで実施した。その結果、腹側被蓋野(VTA)、海馬、帯状回皮質における脳活動を同時に計測することに成功した。この脳活動計測は、電極を埋植したあと2週間程度まで実行できたものの、cSDSを負荷の際は1ヶ月程度の記録が必要であるため、長期的な脳活動計測が行える条件を設定中である。また、ノイズを軽減するために、マウスの頭上へ銅メッシュを固定する必要があるが、攻撃側マウスにより内部構造が破壊されたため、破壊ができない銅メッシュを開発している。次に、神経細胞の活動記録について、GCaMPを発現するマウスを用いて、GRINレンズを海馬ならびに側坐核へ埋植した後に、Miniscopeを用いて蛍光イメージングを行った結果、神経細胞(海馬)ならびにアストロサイト(側坐核)の活動を、自由行動下の動物から記録できた。アデノ随伴ウィルスベクター(AAV)を用いて、GCaMP6fを神経細胞へ発現させたところ、GRINレンズを用いたMiniscopeによる蛍光イメージングを実施することができ、神経活動を記録することができた。さらに、神経回路特異的な人為的機能調節についても、人工化合物により活性化されるデザイナー受容体を、特定の神経回路のみに発現させることを順行性AAVならびに逆行性AAVを用いて達成した。特に、視床背内側核から前帯状回皮質、前帯状回皮質から中帯状回皮質へ投射する神経回路特異的に興奮性および抑制性のデザイナー受容体を発言させることに成功した。
3: やや遅れている
大規模脳活動記録では、マウスでの記録が失敗に終わったものの、ラットを用いた記録が達成されており、その脳活動を用いて解析を行うことができた。一方、マウスを用いた脳活動計測では、ストレスを負荷されている最中も銅メッシュの内部が破壊されないように保護しなくてはならないため、より強固な保護方法を模索する必要がある。神経活動の蛍光イメージングについては、AAVを用いた遺伝子導入により、神経細胞特異的にカルシウム指示タンパク質であるGCaMPを発現させることに成功し、GRINレンズを埋植したあとにminiscopeを用いて脳深部の神経活動をイメージングすることに成功した。このことから、広範囲多点脳活動同時計測により、アンヘドニア状態の動物で脳活動に変化が認められた領域が同定されれば、その領域で活動が変化する神経細胞を同定することができる。さらに、神経回路特異的人為的機能調節についても、順行性AAVおよび逆行性AAVを用いることで、特定の神経回路に興奮性および抑制性のデザイナー受容体を発現させることに成功した。これも広範囲多点脳活動同時計測ならびにGRINレンズとminiscopeを組み合わせた脳深部の蛍光イメージングによりアンヘドニア状態で活動が変化している神経回路を同定できれば、その人為的介入をすぐに行える状態となっている。
次年度では、一番の懸念である広範囲多点脳活動同時計測を、現在の3脳領域から10脳領域まで増やし、cSDS負荷をされている最中も、頭部に埋植した電極類を破損しないような対策を行う必要がある。これが達成されれば、広範囲にわたる複数の脳活動を同時に計測することができ、各脳領域の局所電場電位(LFP)の周期的位相の変化や因果関係について機械学習を行うことができる。また、周期的脳活動が著しく変化している領域を同定することができるため、GRINレンズとMiniscpoeを用いたイメージングにタングステン電極を用いたマルチモード神経活動計測を行うことができる。さらに、アンヘドニアの際に周期的脳活動が変化している領域において、機能が変化している神経細胞を同定することができれば、デザイナー受容体を用いて人為的に細胞機能を興奮や抑制することで、原因となる神経細胞の種類も同定することができる。
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Neuron
巻: In press 号: 13 ページ: 1-11
10.1016/j.neuron.2023.04.013