研究課題/領域番号 |
22K18657
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分10:心理学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田中 雅史 早稲田大学, 文学学術院, 専任講師 (20835128)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
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キーワード | キンカチョウ / 文化 / 嗜好 / 社会学習 / 発達 |
研究開始時の研究の概要 |
優れた視覚と聴覚を持つヒトは、ある文化圏の中で特定の聴覚・視覚刺激に対する嗜好を形成し、音楽や装飾などの文化を発展させてきたが、嗜好形成の詳細なメカニズムは不明である。そこで本研究は、キンカチョウというスズメ亜目の鳥が、生後の社会的経験を通して、特定の音や色への嗜好を成熟させる珍しい動物であることを利用し、幼少期の鳥に人工的な聴覚・視覚刺激を呈示して社会的経験や刺激呈示頻度を操作することで、こうした聴覚・視覚刺激への文化的嗜好が形成されるメカニズムを明らかにすることを目的とする。本研究の成果は、我々がどのようにして身の回りの文化に嗜好を形成するのかを理解するのに役立つと考えられる。
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研究実績の概要 |
本研究は、キンカチョウというスズメ亜目の鳥が、特定の聴覚・視覚刺激への嗜好を形成するメカニズム解明を目的としている。初年度は、キンカチョウの聴覚・視覚刺激への嗜好を定量化するため、マイクロスイッチ・LEDを利用して刺激を再生するキーを作製し、これらのキーをキンカチョウが押す行動形成の最適化を行った。まず、メスのキンカチョウでは、育ての父親の歌に対する強い嗜好を形成し、他のオスの歌の歌が再生されるキーよりも、育ての父親のキーをより多く押す傾向が認められた。その一方で、メスのキンカチョウは育ての父親以外のオスの歌に対しても嗜好を形成でき、実験中に馴染みのないオスの歌が再生されるキーを押す回数が漸増する傾向も認められた。これに対し、オスのキンカチョウでは、育ての父親の歌が流れるキーを、他のオスの歌が流れるキーよりも多く押すという行動は認められず、全般的にメスに比べると歌への嗜好が高くないことが示唆された。しかし、人工的な電子音については、歌への嗜好とは逆に、メスよりもオスの方が電子音が流れるキーを多く押す傾向が認められた。オスのキンカチョウのみにおいて新奇な刺激である電子音に対する嗜好が存在することは、これらの嗜好形成に性差も関わっている可能性を示唆しており、来年度以降に生後の経験との関係を検討する予定である。また、これら行動実験と並行して、歌や電子音への嗜好を支える神経基盤を解明するため、中脳の水道周囲灰白質(PAG)や腹側被蓋野(VTA)などのドーパミン作動性神経細胞が形成する神経ネットワークの機能を探索しており、本年度は、鳥類ではあまり研究が進んでいない側坐核の神経回路の解明を進め、予備実験で、側坐核近傍の神経活動を抑制すると、キー押しなど多様な行動への動機づけが顕著に減少する傾向が見られたため、来年度はさらに限局した神経機能の操作によって嗜好との関連を探りたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実験では、キンカチョウの嗜好を調べる行動実験パラダイムの最適化を進め、オスとメスのキンカチョウにおいて、社会的経験によって歌への嗜好と新奇な電子音への嗜好が異なることを定量的に示すことができた。また、これら文化的刺激への嗜好を支える神経基盤として、いまだ鳥類では十分に明らかになっていない側坐核近傍の神経ネットワークの機能同定を進め、側坐核と自発行動への動機づけとの関連も明らかになりつつあり、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、オスとメスのキンカチョウにおいて、社会的経験に応じて、歌や新奇な電子音への聴覚的な嗜好が異なることが明らかになりつつあるが、いまだ視覚的な嗜好形成のメカニズムは十分に調べることができていない。来年度は、キンカチョウの視覚的な嗜好を調べるため、成鳥の映像とともに人工的な背景色を呈示し、こうした新奇な視覚刺激に対する嗜好が形成されるプロセスを調べる予定である。特にこれらの嗜好の形成に社会的学習がかかわっている可能性を検討するため、幼鳥の発達に応じた嗜好の変化を追跡し、社会的なシグナルによって文化的嗜好が形成されていくメカニズムの同定を目指したい。また、今年度までの研究によって、側坐核近傍の神経回路がキー押しなど多様な行動への動機づけと関与している可能性が明らかになってきたため、来年度は、側坐核へと密な投射を送る腹側被蓋野(VTA)などの中脳のドーパミン神経細胞のシグナル伝達を阻害することによって、文化的嗜好の神経基盤を探索したい。
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