研究課題/領域番号 |
22K18678
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内田 努 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70356575)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 接着細胞 / 凍結保存 / トレハロース / ラマン測定 / 近赤外分光 / 誘電分光 / 凍結液物性 / 細胞凍結保存 / アクアポリン / ガラス化 / 分光測定 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞の凍結保存は半世紀以上前に開発され、産業利用もされている技術である。しかし神経細胞など高需要でも凍結保存できていない細胞種があるし、重要な作用機序とされている細胞内水のガラス化も実験的に証明されていない。そこで本研究は既存の凍結保存メカニズムを実験的に再検討するため、天然凍結保護剤を輸送するタンパク質を発現させた細胞と、透水性を向上させた細胞系を使って、凍結過程における細胞内水の状態を変えた実験を行う。そして細胞を顕微鏡観察しながら水の状態を分光測定で観測し、細胞からの脱水過程の評価と、細胞内水の結晶・ガラス化の評価とを行う。
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研究実績の概要 |
細胞の凍結保存は半世紀以上前に開発され、畜・水産業等で実用化されている技術である。そのメカニズムは「細胞外水の凍結による細胞からの脱水と細胞内水のガラス化」であるとされている。しかし神経細胞など高需要でも凍結保存できていない細胞種があり、細胞内水のガラス化も実験的に証明されていない。そこで本研究は凍結保存メカニズムを実験的に再検討するため、天然の凍結保護剤(CPA)であるトレハロースを用い、トレハロース輸送タンパク質を発現させた細胞と、透水性を向上させた細胞の2種類のユニークな細胞系を使って、凍結過程における細胞内水の状態を変えた実験を行う。そして細胞を顕微鏡観察しながら水の状態を3種類の分光(Raman、近赤外、誘電)測定で観測し、細胞からの脱水過程の評価と、細胞内水の状態評価とを行うことを目標としている。 令和4年度は、まず分光測定をする際に細胞内外の状態を区別して計測できるようにするため、接着状態の細胞を凍結保存する技術を開発した。実験で使用する2種類の細胞系について、トレハロースや既存のCPAであるDMSO等を使った実験を行い、緩慢凍結法で接着細胞の凍結保存が可能かを調べた。一方各分光学的手法に関して、細胞を含まない凍結液を3種の手法で測定し、各測定法の確認と細胞のバックグラウンドとなる凍結液の基盤スペクトル等を収集した。特にCPAとして用いたトレハロースと水溶液との相互作用について、各分光学的手法から得られる情報を集約した。 なお本年度は「顕微Raman分光測定用試料温調装置」を導入したが、半導体不足等による物資調達困難な状況が生じ、納期が予定より大幅に遅延した。そのため、上記分光学的測定は室温で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、凍結保存時の細胞内水の状態がガラス状態であるのか、また凍結保存時の脱水の効果がどれほど重要であるのかを実験的に明らかにすることを目的とした。そのため実験には、標準細胞(CHO-K1)の細胞膜機能を修飾したCHO-TRET1・CHO-AQP4細胞という2種類の細胞を用いる。そしてそれぞれの細胞を用い、凍結前・凍結中・凍結後の細胞の[A] 顕微鏡観察と[B] 3種類の分光測定から細胞の脱水効果と細胞内水の状態変化を調べ、定説となっている凍結保存メカニズムを検証する。 [A]接着細胞の凍結過程の観測と生存率の測定では、細胞の冷却・凍結に伴う脱水状態や結晶化の有無を観測するため、凍結・融解時の接着細胞の形状変化と生存率を観測する。令和4年度は、脱水に伴う細胞の体積変化を定量的に評価する方法を検討した。また接着細胞の凍結保存技術については、接着細胞の凍結条件を変えて生存率を観測し、接着状態の各細胞の凍結保存が可能となる条件を調べた。これらの研究課題については、それぞれ学会発表することができているため、予定通りの進捗状況である。 [B]凍結過程における細胞内水の分光測定では、Raman、近赤外、誘電の3種の分光学的測定を、接着細胞に対して実施する。令和4年度は計測系を確立するため、凍結実験に使用する水溶液を3種の分光装置でスペクトル測定し、基盤となるスペクトルの取得と各測定系のチューニングを行った。得られたデータについては解析中であるが、事業としては予定通りの進捗状況である。しかし本年度は「顕微Raman分光測定用試料温調装置」を導入したが、半導体不足等による物資調達困難な状況が生じ、納期が予定より大幅に遅延した。そのため、上記分光測定では温調ができず、上記区分と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、凍結保存時の細胞内水の状態がガラス状態であるのか、また凍結保存時の脱水の効果がどれほど重要であるのかを実験的に明らかにすることを目的としている。そのため実験には、標準細胞(CHO-K1)の細胞膜機能を修飾したCHO-TRET1・CHO-AQP4細胞という2種類の細胞を用いる。そしてそれぞれの細胞を用い、凍結前・凍結中・凍結後の細胞の[A] 顕微鏡観察と[B] 3種類の分光測定から細胞の脱水効果と細胞内水の状態変化を調べ、定説となっている凍結保存メカニズムを検証する。上記【現在までの進捗状況】を受けて、今後の研究の推進方策について項目毎に述べる。 [A]接着細胞の凍結過程の観測と生存率の測定では、細胞の冷却・凍結に伴う脱水状態や結晶化の有無を観測するため、凍結・融解時の接着細胞の形状変化と生存率を観測する。令和5年度以降は、4年度に明らかにした接着細胞の凍結保存条件を参考に凍結実験を行い、その時の細胞の観察を実施する。 [B]凍結過程における細胞内水の分光測定では、Raman、近赤外、誘電の3種の分光学的測定を、接着細胞に対して実施する。令和5年度以降は、未凍結接着細胞を用いて細胞内外の水の状態を計測する技術を確立する。そして凍結細胞、および解凍細胞をつかった計測へと進めていく。 最終年度までに、可視光~誘電緩和域の広波長領域での凍結細胞中の水の挙動をまとめ、凍結・解凍後の生存率と比較して、凍結保存可能な細胞内水の状態を把握する。さらに先行研究で得られたX線回折等の成果も統合し、これまでの定説を検証し新たな凍結保存メカニズムを構築して、凍結保存技術の改良に資する予定である。
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