研究課題
挑戦的研究(萌芽)
SiとGeの半導体結晶の接合技術「常温SAB」を用いて,0.5-100keVの広帯域X線・ガンマ線と,0.3-1.8μmの可視光・近赤外線を一気に観測可能な「Si-Ge一体型撮像素子」を開発する.Geの検出部でX線・ガンマ線および可視光・近赤外線それぞれの波長で観測帯域が広げつつ,Si回路層で低雑音や小さいピクセルを実現する.本研究の初年度に単素子フォトダイオードを試作し,常温SABの条件出しを行う.2年目には,申請者が開発したX線SOIを薄化したSi回路層をGeに接合し,実際にSi-Ge一体型撮像素子を試作し撮像分光を実証する.
SiとGeの半導体結晶の接合技術「常温SAB」を用いて,0.5-100keVの広帯域X線・ガンマ線と,0.3-1.8μmの可視光・近赤外線を一気に観測可能な「Si-Ge一体型撮像素子」を提案する.検出部の厚いGe層と,読み出し部のSi回路層は半導体結晶として接合されている.X線・ガンマ線に対してGeはSiより1桁大きい質量吸収係数を持ち,光赤外線に対してGeのバンドギャップはSiの半分なので,それぞれ波長で観測帯域が広がる.読み出しはSi回路層で行うので,低雑音や小さいピクセルが可能である.いわば,GeとSiの「いいとこ取り」である.これを実現する鍵は常温SABである.本研究はこの常温SABを用いた「Si-Ge一体型撮像素子」を実現することが最終目的である.これに対し,今年度は下記を行った.(1) Si-Ge撮像素子のコンセプトの確認.(2) SABでのSi-Ge接合品質の改善,(3) Si-Ge ピクセルTEGチップ用のSi側ピクセルアレイの準備,(4) Si-Ge撮像素子の元となるSi側SOI撮像素子の試作.(1)(2)に関して,界面回復アニーリングとして試した3つのサンプルに対して,I-V特性の評価を行い,最もリーク電流が低く,PN接合の特性が得られた条件を,ベストプロセス条件と判断した.この素子に対して,逆バイアスでの光反応を評価した.Siは吸収しないIRレーザー光を照射したところ光電流が発生した.すなわちGe側で空乏層が形成されたことを確認した.以上から基本コンセプトの正しさを確認できた.(3)に関して,小型のSi-Ge TEGチップとして,研究代表者が行ってきた一連のX線SOIピクセルセンサ開発の資産であるPDD-TEG2を採用し,その準備を行った.またGeウェハの準備も進めた.すでに保持している2枚のGeウェハに対してイオン注入を実施した.
2: おおむね順調に進展している
2022年度の目標は優れたSi-Geの接合特性を持つ常温SABプロセスの確立である.Si-Ge撮像素子のコンセプトとSi-Ge接合品質の改善に関して,界面回復アニーリングのベストのプロセス条件の抽出した.IRレーザー光を用いた実験からGe側で空乏層が形成されたことの確認もできた.したがって,コンセプトの確認に成功した.2023年度に行う,ピクセルTEGチップ用のSi側ピクセルアレイの準備も行うことができた.従って2023年度の研究開始の準備も整えることができた.したがって,概ね順調に進展していると評価した.
今年度は光検出をする空乏層の形成状況とその改善を行う.そのため,(1) Si-Geピクセルアレイの試作と評価,(2) Si-Ge接合プロセスの改善を行う.(3) 本研究終了後に行うSi-Ge撮像素子試作の準備も行う予定である.(1)に関して,「Si-GeのSAB接合による広帯域撮像素子」という基本コンセプトの正しさを確認したので,次のステップとして撮像素子の最終構造に近いサンプルの試作と評価を行う.その際,各種の評価を可能とするSi側TEGが必要となる.そこで申請者がこれまでSOI素子を開発する上で様々な評価に利用した「PDD-TEG2」を使う.最終的なSi側撮像素子と同じデバイス構造をしているが,複数のピクセルを1つにまとめて外部に引き出すので,ソースメーター等で様々な電気試験が可能である.(2)に関して,2022年度に得た最適な界面回復アニーリングをもってしても,結果として暗電流の低減が不十分である可能性は残る.そこでさらなる低減を目指す.サンプルの接合面をTEMで観測するなどの方法から,界面回復アニーリングの最適化をすすめる.(3)に関して,本予算終了後になるが,撮像素子としてSi-Geチップをプロセスし,評価実験を行う予定である.これに必要なSi側のSOI撮像素子の製造には半年以上が必要である.そこで効率的に開発をするために,今年度のうちに準備を完了させる.
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