研究課題/領域番号 |
22K18736
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分17:地球惑星科学およびその関連分野
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
河野 義生 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (20452683)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | マグマ / 浮遊炉 / 高温 / ガラス |
研究開始時の研究の概要 |
ケイ酸塩マグマの物性・構造の理解は、現在の地球内部におけるマグマの状態・挙動や火山噴火過程、さらに初期地球において地球の大部分が溶融していたマグマオーシャンの状態・ダイナミクスなど、様々な地球惑星過程の解明に重要である。しかしながら、マグマオーシャンで想定されるかんらん岩組成のようなSiO2量の少ない組成やFeに富む組成のケイ酸塩マグマの実験は、高い融点の問題と、マグマと容器の反応の問題などにより、これまでほとんど行われていないのが現状である。本研究では、レーザー加熱浮遊炉実験技術を用いることにより、これまで実験が困難であった高融点・高反応組成マグマの実験研究を開拓することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究では、これまで主に材料科学分野で利用されてきたレーザー加熱浮遊炉実験技術を、地球科学のケイ酸塩マグマ研究に応用することにより、これまで実験が困難であった、かんらん岩組成のようなSiO2量が少なく、Feに富む、高融点・高反応組成マグマの実験研究を開拓することを目的として研究を行っている。2023年度においては、(1)国際宇宙ステーションの「きぼう」搭載の静電浮遊炉を用いたかんらん岩組成マグマの密度についてのデータ解析、結果のとりまとめ、(2)愛媛大学のレーザー加熱浮遊炉を用いた(Mg,Fe)SiO3メルトの実験を行った。 (1)については、2022年8月に実施した宇宙実験のうち、Ar環境下での密度データの解析と結果のとりまとめを中心に行った。宇宙実験で得られた鉄に富むかんらん岩メルトの密度は、過去の玄武岩メルトの密度モデルから外挿予測した値と大きく異なることが明らかとなった。そのため、本実験結果を基に、かんらん岩メルトの密度モデルを構築し、惑星内部におけるかんらん岩メルトの密度について議論を行った。 (2)については、主に(Mg,Fe)SiO3組成メルトについての研究を行った。Fe量を変化させた(Mg,Fe)SiO3メルトの急冷ガラス試料について、X線吸収端近傍構造測定とラマン測定により、Fe量の変化に伴うFe価数とガラス構造の変化について調べた。その結果、Fe量の変化に伴い、Fe価数の不連続な変化とガラスのネットワーク構造の関連性を発見した。 また、レーザー加熱浮遊炉実験のマグマ研究以外への応用展開として、浮遊炉合成ガラスを用いた多結晶試料合成を行った。浮遊炉により合成した均質な輝石組成ガラスを出発試料とした高圧高温合成を行うことにより、細粒かつ均質な輝石多結晶体の合成に成功し、さらにその輝石多結晶体についての高圧高温下弾性波速度測定も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、レーザー加熱浮遊炉を用いた高融点・高反応組成のケイ酸塩マグマ実験の開拓に向けて、(1)国際宇宙ステーションの「きぼう」搭載の静電浮遊炉を用いたケイ酸塩マグマの物性測定研究、(2)愛媛大学に新たに導入したレーザー加熱浮遊炉を用いたメルト実験と、難ガラス化ケイ酸塩組成の無容器法によるガラス合成手法の開発を行っている。 (1)の研究については、2022年8月に宇宙実験を実施し、一般的な電気炉実験では不可能な超高温下において、4種類のかんらん岩組成メルトの密度・粘性率・表面張力のデータを得ることに成功した。特に、密度データについては、2023年度中に密度結果のモデル化と議論を行い、2023年10月に開催された日本マイクログラビティ応用学会 JASMAC-35で口頭発表した。さらに現在論文を投稿中である。 また、(2)の研究については、愛媛大学のレーザー加熱浮遊炉により合成したMgSiO3ガラス、CaSiO3ガラスを用いた、高圧下におけるケイ酸塩ガラスの構造変化についての研究の論文が2023年度中にAmerican Mineralogist誌に受理された。さらに、(Mg,Fe)SiO3組成メルトについてのFe量変化に伴うFe価数とガラス構造の研究において新たな知見を発見しており、現在論文執筆を進めている。 加えて、愛媛大学のレーザー加熱浮遊炉を用いることにより、新しいマグマ実験の開拓だけでなく、無容器法による難ガラス化ガラスの合成手法の開発と合成したガラスを用いた鉱物多結晶体合成への応用展開も進めている。すでに、細粒・均質な鉱物多結晶体の合成に成功し、その試料を用いた高圧下弾性波速度測定を行うなど、その有用性を示している。無容器法合成ガラスを用いた多結晶試料合成手法は、マグマ研究のみでなく、鉱物物性研究などの他の地球科学研究にも大きく貢献すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)国際宇宙ステーションの「きぼう」搭載の静電浮遊炉を用いたマグマの物性測定研究については、現在論文投稿中の密度結果に加えて、粘性率・表面張力についても良い実験結果が得られている。2024年度は、これらの実験結果をとりまとめて研究成果発表をするとともに、論文を執筆する予定である。さらに、この宇宙実験を行った4種類のかんらん岩組成メルト試料については、SPring-8のBL04B2ビームラインにおいて、レーザー加熱浮遊炉を用いた高温下でのメルトの構造測定も行っており、高品質なX線構造因子S(Q)データの取得にも成功している。これら構造データについても解析を進めることにより、かんらん岩メルトの物性と構造についての議論を行うことを計画している。 (2)愛媛大学のレーザー加熱浮遊炉を用いた実験については、これまでの電気炉ではガラス化が困難であったSiO2-Al2O3ガラスやCaAl2O4ガラスについて、無容器法でのガラス合成と合成したガラス試料を用いた高圧下での構造測定・弾性波速度測定実験も行っている。これら研究結果のとりまとめを進め、特にアルミニウムを多く含むマグマの高圧下での構造変化と弾性波速度変化についての研究についての論文執筆を進める予定である。 さらに、2024年度は、レーザー加熱浮遊炉実験の応用展開である、無容器法合成ガラスを用いた多結晶試料合成やその物性測定への展開をより推進することを計画している。そのため、2024年度より愛媛大学のSteeve Greaux博士に研究分担者として参画していただいており、レーザー加熱浮遊炉による難ガラス化組成ガラスの合成とそれを用いた多結晶試料合成、物性測定など、マグマ研究以外の地球科学研究への応用を推進していくことを計画している。
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