研究課題/領域番号 |
22K18769
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分19:流体工学、熱工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
巽 和也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90372854)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | マイクロ流路 / 確率論 / 決定論 / 流動特性 / 粒子充填 / 沸騰 / 数理モデル / 対流伝熱 / 確率連結 / 流路閉塞 |
研究開始時の研究の概要 |
流体デバイス,熱交換器,血管系等は分岐・合流する多数の流路から構成され,流路にて物質濃度と流体粘度の変化・閉塞・ホットスポット・沸騰のような確率的な現象が局所的に発生する.ランダムに発生するこれらの事象は流路全体の連結構造と対流により,相互干渉しながら時間発展し,流路全体の特性と性能に影響を及ぼす.本研究では,流路の決定論的性質と“ゆらぎ”の確率論的性質の複合的な現象に関して,確率微分方程式にパーコレーション理論やWeibull統計分布等を適用した新たな“Compact”数理モデルを開発し,実験的検証に基づく流動・伝熱特性の空間・時間的特性の評価法および新たな流路設計指針を提示する.
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研究実績の概要 |
マイクロ流路内の確率論の事象を伴う現象における局所と全体の特性評価と,その数理モデル開発として,確率連結を有するマイクロ流路内での粒子流れと沸騰現象の計測に向けた実験系の構築と測定を開始した.さらに現象を一元的に表すサーマルコンパクトモデルとしての数理モデルの検証を行うため,流動・伝熱・粒子運動を計算する数値解析プログラムの開発を行った.マイクロ流路では確率現象を簡略化し,可視化できるように周期的な構造を持つ格子状流路を製作した.格子状流路での粒子流れと粒子による流路閉塞,および壁面加熱による沸騰現象の可視化計測と圧力損失測定を行った.数値解析では流路の局所の閉塞および沸騰は確率論の事象として適用する一方,決定論的要素として流路閉塞による流れの変化を解き,それに基づく各箇所の粒子充填・沸騰の発生確率を変化させたモデルを開発した.これにより決定論と確率論に基づく現象の連成解析が可能となる.これらの実験と数値解析による結果は,従来の多孔質体や流路での粒子充填に基づく(ランダム事象に基づく)流動・圧力損失に関する数理モデルを用いて計算した場合と比較した.その結果,充填初期では両者の大きな違いは見られないが,時間の経過とともに充填領域の形状と拡大の特性が両者で大きく異なり,それに合わせて圧力損失の増加率で乖離が見られ,決定論を考慮した場合の方が流路閉塞に要する時間が短くなり,圧力損失の増加率が顕著に増大した.これは実験でも類似する傾向が見られ,決定論的特性を考慮した数理モデルの開発の必要性を明らかにした.これらの成果は国内会議で発表し,さらに2022年度では国際会議と国内会議で発表する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
格子状マイクロ流路製作は京都大学のナノハブ拠点および機械系のクリーンルーム設備を利用して高い精度で製作した.粒子流れにおける粒子充填と流路閉塞の実験では,粒子の選定と流路壁のコーティング等の各条件の調整および微小流量を制御できるポンプの開発,そして高速度・高感度カメラそれぞれで測定できる観察系の開発と整備を行った.数値解析では,粒子充填や沸騰などの局所の確率論的事象を確率関数で表現する一方,流路内の流動解析にこれらが周囲の流れ場に与える影響を適用することで,確率論と決定論の現象に関する連成解析を可能とした.流れの影響(決定論的要素)を考慮しない場合と比較して,連成解析では充填領域はより分散して発生することを示した.これは流動場が粒子充填により時間的に大きく変化するためであり,それにより圧力損失は増大した.さらに,粒子充填領域の拡大の特性も異なり,小さなクラスターを多く生成する一方,充填後期では急速に流路閉塞が進み,流路閉塞に至る時間(寿命)が短くなる.従来の多孔質体や粒子充填モデルでは,これらの特性を再現することはできず,新たなモデルの開発の必要性を示した.これは血栓による閉塞や,電流を伴う機器の破損での解析に通じる特性であり,本モデルと知見の各分野への展開の検討を考えている. 沸騰(気泡の発生・成長・連結・剥離)を伴う場合の実験では,流路下壁に透明電極(ITO・FTO)を適用し,通電加熱下での沸騰と流れへの・流れによる影響を顕微鏡を用いて可視化できる装置を製作した.気泡の発生と成長は気泡が小さい場合はランダム性が高いこと,気泡が成長すると成長の速度と方向や剥離特性が変化することを明らかにした.さらに,壁面温度と熱伝達率を気泡の可視化と同時に測定できるように装置の改良を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度は格子状マイクロ流路での確率論的事象として粒子充填と沸騰を発生させ,観測する装置を完成した.次に粒子充填の実験では確率統計の議論と数理データ検証が十分にできるデータを集める.また充填による粒子濃度の変化を数値解析プログラムに導入し,流路の流れ方向での充填と流路閉塞の特性も表現できるモデルの開発を行い,実験と比較することで妥当性と精度を実証する.沸騰の実験では壁面温度と熱伝達率および流体温度を計測する必要がある.壁面温度はサーモグラフィ(IR)カメラもしくは申請者らが開発したサーモリフレクタンスイメージング法を用いて測定する.このために赤外線を透過するマイクロ流体デバイス(流路)の製作,または加熱電極の材料と形状を選定する.さらに壁面の濡れ性や,壁の熱伝導や加熱方法も見直して普遍的な現象が得られるように調整する他,血管網や熱交換器の形を検討し,流路形状の設計を行う.数理モデルでは,局所の確率論の事象に各種影響を変数・定数として与える一方,全体の特性を一元化したサーマルコンパクトモデルとして表現できるよう,パーコレーション理論およびWeibull確率統計分布を用いて表し,その有効性を表現する予定である.
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