研究課題/領域番号 |
22K18770
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分19:流体工学、熱工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 徹郎 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00708670)
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研究分担者 |
田口 智清 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90448168)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 分子流体力学 / 運動論的方程式 / 特性線法 |
研究開始時の研究の概要 |
分子スケールの流体力学では気体の振舞いをBoltzmann方程式によって記述するが,これは運動論的方程式の代表例である.Boltzmann方程式の解析によって微小スケールの気体や希薄気体の振舞いがはじめて正確に記述できるようになるため,運動論的方程式の解析手法の開発はマイクロ工学や真空工学の発展において重要である.本研究では,運動論的方程式の数値解析において,特性線法を基にした汎用性の高い数値解析手法を提案し,ベンチマーク問題の解析を通してその優位性や適用範囲を調べる.続いて,応用問題としてより複雑な境界値問題を解析し,提案手法の汎用性を示すとともに,実験との比較を通して妥当性を検証する.
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研究実績の概要 |
【実施事項①】分子気体力学の運動論的方程式に対する特性線法の実装をおこなった.具体的には,支配方程式としてBoltzmann方程式のモデルであるBhatnagar-Gross-Krook(BGK)方程式,境界条件として拡散反射条件を採用し,空間3次元の軸対称問題を取り上げ,その解析を進めた.境界形状は厚さの無視できる薄い円板とし,また,無限遠方では一様流の条件を与えた.ただし,流れは分子の熱速度に比べて十分に遅く,支配方程式および境界条件の線形化が許されるとした.この問題設定では,代表的な2つの従来手法,すなわち差分法と特性線法のハイブリッドスキーム[e.g., H. Sugimoto and Y. Sone, Shinku 32, 214 (1989)]とDirect Simulation Monte Carlo(DSMC)法の適用が困難であり,精密な数値解析には本研究課題で提案する特性線法による解析が有用である. 【実施事項②】速度分布関数の不連続を捉える方法としては,本研究課題で提案している特性線法の他にも,速度分布関数の不連続を含む部分と含まない部分に速度分布関数を分解し,前者を解析的に,後者を数値的に扱う方法[e.g., S. Naris and D. Valougeorgis, Physics of Fluids 17, 097106 (2005)]が提案されている.この手法をスプリット法と呼ぶことにする.スプリット法はハイブリッドスキームより実装が簡便で,特性線法より計算コストが小さいため,一見すると有利な方法である.しかし,速度分布関数の導関数の不連続を取り除くことが出来ないという点を考慮すると,この方法は速度分布関数の特異性を完全に捉えることは出来ていないと考えられる.本研究では,このことを定量的に確認する数値計算をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【実施事項①に関する進捗】円板まわりの分子気体流れに対して特性線法を適用した結果として,境界条件に起因する速度分布関数の不連続構造を正確に捉えることに成功し,巨視的物理量(流速,温度,応力,熱流など)を精度良く求めることができた.とくに,円板尖端近傍の急峻な物理量の変化を捉えることができており,一様流が円板によりどのような摂動を受けるのか,円板には働く力が気体の希薄度にどのように依存するかなど,分子気体力学における基礎的な知見が得られたと言える. 【実施事項②に関する進捗】同軸二重円筒内の,円周方向の分子気体流れを例にとり,スプリット法による数値シミュレーションをおこなった.結果として,内円筒近傍の巨視的物理量の特異性(速度分布関数の特異性に起因)が,スプリット法では精確には捉えられていないことが分かった.速度分布関数レベルでその原因を究明したところ,当初のわれわれの予想のとおり,速度分布関数の導関数が不連続であることが精密に捉えられていないことが分かった.この計算により,特性線法で速度分布関数の特異性を正確に捉えることの重要性がより明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
【実施事項①に関する今後の推進方策】一様流の問題に引き続き取り組み,さまざまな希薄度について,気体の振舞いや円板に働く抗力を系統的にまとめる.また,円板の表裏に温度差があるラジオメータ効果の解析など,精密な数値解析をおこなうためには特性線法を必要とする種々の基礎問題を取り上げ,成果を展開していく. 【実施事項②に関する今後の推進方策】同じ問題をハイブリッドスキームや特性線法で解析し,計算速度や精度について定量的な比較をおこなう.特性線に沿った積分は計算コストが高く,特性線法のボトルネックとなっている.このコスト低減を狙って,特性線上における被積分関数の変動に追従する離散化手法を検討する.
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