研究課題/領域番号 |
22K18795
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野田 啓 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30372569)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 有機半導体 / 電熱特性 / 薄膜デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
ダイオードやトランジスタなどの有機半導体デバイスにおいて、デバイス動作中の発熱挙動の理解および熱の散逸技術(サーマルマネージメント)の創出が必要とされている。この背景の下、本研究では、有機デバイスの電流電圧特性と動作温度との相関(電熱特性)や熱輸送特性を追跡するための実験的及び理論的研究を実施する。その成果を基に、有機デバイスの電熱特性や熱輸送の詳細を明らかにするとともに、自己加熱の影響を考慮したデバイス設計や高電流密度化への指針の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
まず、ペンタセンや銅フタロシアニンなどの低分子系の有機半導体薄膜から成るクロスバー構造のダイオードを真空蒸着法によって作製し、その電流電圧特性の評価を行った。ここでは真空下における、電流駆動かつ4端子測定での評価を実施した。その結果、ペンタセン及び銅フタロシアニンのいずれにおいても電流値の増大に伴って、負性微分抵抗(NDR)現象を観測するに至った。また、NDRが発生する電流値付近においてデバイス内部からの発熱が顕著になることをサーモカメラによって確認した。これより、今回観測されたNDR現象は有機半導体薄膜の自己加熱によって生じているものであると推測される。また、ホッピング伝導を基にした理論モデルに基づき、観測された電流電圧特性へのフィッティングを行うことで、NDR現象を特徴付ける熱抵抗や活性化エネルギーなどのパラメータの決定、並びにデバイスの動作温度の推測が可能となることが示唆された。 一方、高分子系半導体を対象にして、NDR現象の観測に向けた取り組みも並行して進めた。具体的には、高分子スタンプ法を採用した高分子半導体薄膜の微細パターニングや高分子多層膜の形成、およびそれらの技術を応用した有機ホモ接合薄膜トランジスタ作製を実証した。また、絶縁性ポリマーと分子ドープされたチオフェン系高分子半導体の二層膜試料を対象とし、3ω法による薄膜固有の熱伝導率と界面熱抵抗の分離評価を遂行した。その結果から、分子ドープされた高分子半導体の構造と熱輸送特性の相関を追跡するための新しいアプローチと、その有効性を提示するに至った。 以上のように、有機半導体薄膜における電流電圧特性と動作温度の相関(電熱特性)や熱輸送特性の理解と制御に向けて、有益な成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機半導体薄膜の電熱特性に関しては、ベンチマーク的な低分子材料であるペンタセンなどの複数の材料でNDR現象が観測されたことから、本現象が材料には依らない普遍的な性質であることを示すことができた。またサーモカメラを併用することで本NDR現象が薄膜の自己加熱と深く関わっていることも確認することができた。現在は、有機半導体薄膜ダイオードの素子構造、電熱特性、素子温度、環境温度との関係について体系的な調査を行っており、ダイオードにおけるNDR現象の理解に向けた知見の取得も進展している。これらは概ね研究計画に沿った成果であると言える。 上記と並行して、高分子半導体を用いた多層膜形成プロセスの技術開発も着実に進んでおり、次年度の電熱特性評価に向けたデバイス作製に活用できる見込みである。さらに、薄膜の熱輸送特性評価を通じて、高分子半導体薄膜内におけるドーパント分子の挙動についても新しい知見を得ることができ、その成果を基にした学術論文を執筆、投稿し、現在、査読中である。 以上の事由により、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に着手した研究項目を継続して行いつつ、下記の新たな項目に関する実験に着手する。 有機半導体薄膜における電熱特性に関しては、デバイス内部の温度の直接観測が可能となるよう、デバイス構造や温度評価系の最適化を進めながら、NDR現象観測時のデバイス温度の直接観測を実施する。その結果を基に、昨年度に採用したホッピング伝導を基にした理論モデルの妥当性を検証すると共に、電熱特性からのデバイス温度の推測をより確かなものとしたい。また、現時点でNDR現象は電流駆動による4端子測定でのみ観測できているが、デバイス中に存在する接触抵抗を極力低減することで、電圧駆動による2端子測定でのNDR現象の観測を目指す。さらに、昨年度は有機低分子材料を対象にNDR現象の追跡を行ってきたが、耐熱性に乏しく、自己加熱に伴う膜構造の不可逆な変化が生じやすい。そこで、より耐熱性の高い高分子系材料を対象にして、デバイス作製やNDR現象の観測を進めると共に、測定対象をダイオードだけでなく、トランジスタなどへの他の電子デバイスへと広げたい。これらの取り組みの成果を基にNDR現象に伴う電流スイッチングを能動的に制御、あるいは抑制する手法について、検討を進める。 また、理論計算によるアプローチも精力的に進めていく。デバイス動作中に生じるジュール熱を熱源とした、有機半導体薄膜デバイス中の電熱特性や熱輸送特性の数値解析を行う。理論計算結果と実験結果との比較を通じて電熱特性の定式化を進めるとともに、電熱特性の起源の解明につなげたい。
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