研究課題/領域番号 |
22K18802
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
都甲 薫 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30611280)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 二次電池 / グラフェン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、軽くてやわらかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」を提案するとともに、その負極となるグラファイト膜(多層グラフェン)の低温合成技術を構築する。グラフェンの配向性を制御した「バーティカル・グラフェン構造」を検討し、リチウムイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトを飛躍的に増大させることで、低温合成膜でありながら優れた負極性能を得ることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、軽くて柔らかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」を提案し、実現のボトルネックとなる「負極」に関する革新構造の開発と新学理の構築を目的とする。グラファイトは二次電池の負極として豊富な実績をもつが、合成に必要な温度が高い。研究代表者は、炭素と金属の「層交換現象」を世界に先駆けて発見するとともに、プラスチック上に従来最高品質のグラファイト膜(多層グラフェン)を直接合成し、負極動作を初めて実証した。一方で、多層グラフェンが「基板に平行な膜」であることによる特有の課題が顕在化した。そこで本研究では、前人未到の「バーティカル・グラフェン構造」を創出する。Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトを飛躍的に増大させることで、負極性能を劇的に向上することを目指す。 昨年度において、コインセル用下地金属箔の材料をTaとした場合、バーティカル・グラフェン構造が自己組織的に層交換合成されることを発見した。当初計画の微細加工プロセスを駆使した形成法と比して非常に簡便であり、大きなアドバンテージがある。そこで今年度においては、本現象のメカニズム解明と制御に向けて研究を行った。その結果、ガラス基板上に製膜したTa薄膜上においてもバーティカル・グラフェン構造が形成されるなど、多層グラフェンの配向性は層交換における下地材料種に強く依存することが判明した。すなわち、バーティカル・グラフェンの発生には、下地材料種の選択が鍵であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、軽くて柔らかい次世代型二次電池「フレキシブル全固体薄膜電池」の実現に向け、Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトが電解質側に面した「バーティカル・グラフェン構造」をもつ炭素負極を開発することを目的としている。本年度は、昨年度において発見されたTa箔上におけるバーティカル・グラフェン構造の形成について知見を深めるべく、(1)多層グラフェン縦型配向のメカニズム解明、および(2)バーティカル・グラフェン構造の膜厚依存性調査を遂行した。 (1) 多層グラフェン縦型配向のメカニズム解明 コインセル用電極をTa箔とすることでバーティカル・グラフェン構造が得られたが、その原因として、グラフェン/下地金属界面エネルギーの変化、金属触媒(Ni)の状態変化、基板凹凸の変化などが挙げられる。これまでガラス基板やMo箔上においては水平方向に配向した多層グラフェンが得られてきた。これらの基板上にTa薄膜を成膜した上で層交換を試行した結果、X線回折法からバーティカル・グラフェン構造の形成が確認された。これは多層グラフェン配向性が、基板の凹凸ではなく下地材料との界面エネルギーまたはNiの状態変化の影響を受けることを示唆している。今後、Niの結晶性を詳細評価することにより、配向性制御の条件を特定していく。 (2) バーティカル・グラフェン構造の膜厚依存性調査 電池負極として十分な負極特性を得るためには、厚い炭素膜を合成する必要がある。一方、層交換はSiにおいてよく研究されてきたが、膜厚がSi薄膜の配向性に強い影響を与えることが分かっている。そこで今回、Ta箔上において炭素の厚みを変調した結果、いずれの膜厚においてもバーティカル・グラフェン構造の形成が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、金属触媒を用いて合成したグラフェンは基板と平行方向に配向することが常識であった。しかし、層交換を用いた場合、下地金属種の選択によって配向性が変化し、バーティカル・グラフェン構造が容易に得られることが判明した。最終年度においては本現象を深化するとともに、デバイス応用を検討する。具体的には、(1)多層グラフェン配向制御の指針構築、および(2)バーティカル・グラフェン構造のリチウムイオン電池負極特性を研究する。 (1) 多層グラフェン配向制御の指針構築 下地金属種をTaとすることにより、多層グラフェンの膜厚によらず、縦型配向制御が可能となることが見出されてきた。縦型配向の起源を解明するため、様々な金属薄膜を下地層として成膜するとともに、層交換の金属触媒の種類(Ni、Co、Fe、Pt等)や成膜条件を変調し、これらが多層グラフェンの配向性に与える影響を網羅的に調査する。これらの結果を基に、多層グラフェン配向制御の指針を構築する。 (2) バーティカル・グラフェン構造のリチウムイオン電池負極特性 バーティカル・グラフェン構造の多層グラフェンにおいては、従来の基板水平方向に配向した多層グラフェンと比して、Liイオンのインターカレーション(挿入・脱離)サイトが飛躍的に増大することが期待される。これら各構造についてリチウムイオン電池負極を試作し、その充放電特性や電流レート特性を比較することによって、多層グラフェンの配向性が負極特性に与える影響を明らかにする。
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