研究課題/領域番号 |
22K18867
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分25:社会システム工学、安全工学、防災工学およびその関連分野
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
渡部 直喜 新潟大学, 災害・復興科学研究所, 准教授 (60282977)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 巨大地すべり / 高塩分濃度地下水 / CSMT法電磁探査 / 異常高圧貯留層 / 水文地質構造 / 異常間隙水圧 |
研究開始時の研究の概要 |
東北~北陸地方の日本海側には,移動体の体積が1億立方メートルを超える巨大地すべりが散在する。巨大地すべりは,油・ガス田と分布が重なり,石油・ガス付随水に類似する化石海水起源の高塩分濃度地下水(塩水)の出現で特徴づけられる。塩水は発生機構を解く鍵と考えられるので,それらの分布・流動経路を明らかにする必要がある。塩水の比抵抗値は極めて低いため,CSMT法電磁探査が有効である。よって,新潟県内の2箇所で探査を実施する計画である。同電磁探査を巨大地すべり研究に導入することで,地下深所の異常高圧貯留層より湧昇し,地すべり土塊に注入する塩水を可視化できる。これにより巨大地すべり研究の新機軸を提示する。
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研究実績の概要 |
初年度の研究は、新潟県上越市牧区の沖見地すべり地周辺における地質・水文状況、とくに地下に賦存する化石海水と考えられる超低比抵抗体の分布状況の把握を目的とした。そのため、既往文献・資料の調査、空中写真・数値地図による地形調査、現地における地質踏査を行い、探査測線を決定した上で、CSMT法による電磁探査を実施した。 本地すべりは、幅約500 m、長さ約1500 m、面積約70 haの規模を有する。本地すべり地を構成する主な地質は、新第三紀中新世に堆積した須川層(椎谷層相当)および樽田層(寺泊層相当)の泥質岩である。本地すべり地の浅部には須川層、深部には樽田層が分布すると想定される。地層の走向はN30~50°Eで、北西側へ20°前後で傾斜する。本地すべり地周辺には、北東-南西方向に軸をもつ真光寺背斜および大月向斜が伸長しており、背斜の南西延長は断層に移行すると考えられる。また、既往研究によると、本地すべり冠頂部の地下水観測井では、高濃度NaCl型地下水が確認されている。 CSMT探査は、人工的に発生させた数 Hz~数 kHzの電磁波を用いた探査法で、地下数10~2000 m付近までの地下深部の比抵抗値(電気抵抗値)測定できる。地下深部の比抵抗値を用いると、地盤の中の地質状況(割れ目・断層の有無、岩相の差異など)、さらに地下水の分布状況を推定できる。本地すべりを通過し、かつ地質構造に直交する測線を設定した(A測線)。A測線では、8箇所の測定点が概ね1列かつ等間隔に並ぶよう、測点A1~A8を配置した。 探査の結果、測点A2からA3の地下30~330 m付近に、2 Ω・m以下の連続した超低比抵抗領域が認められ、その周辺部(測点A1~A2およびA3~A5)にも厚さ50 m前後で連続的に分布する。高濃度NaCl型地下水(化石海水)の帯水層を検出したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新潟県を含む東北~北陸地方の日本海側には、移動土塊の体積が1億立方メートルを超える巨大地すべりが散在する。新潟県の大規模~巨大地すべりでは、地球化学的に地下深部の化石海水起源とされる高濃度NaCl型地下水(塩水)の存在が数多く報告されている。塩水が出現する調査ボーリング孔では、自噴現象もしばしば確認されており、石油探査で知られている地下深部の異常高圧貯留層からの塩水の上昇が巨大地すべり発生要因の鍵になると考えた。 これまで定説のなかった巨大地すべりの発生メカニズムおよび巨大地すべり特有の水理・水文地質構造を解明するため、本研究では、1)CSMT法電磁探査による高濃度NaCl型地下水の分布状況を可視化し、2)地下深部(1.000 m以深)から地すべり土塊に侵入する塩水の湧昇経路を識別することを目的とした。 初年度は、まず新潟県上越市牧区の沖見地すべりを研究対象として、①地形・地質調査により、②電磁探査の側線決定し、③探査地点の地権者の了解を得た上で、④CSMT法電磁探査を実施することとした。探査データの解析にあたっては、⑤斜面の形状に応じた解析手法の改良を行い、⑥良好な解析結果を得ることができた。これにより、探査測線に沿う断面の地下1,000 m付近までの超低比抵抗体の分布形状を明らかにできた。さらに、地すべり冠頂部付近で確認されている高濃度NaCl型地下水の湧昇経路も推定できた。 このことから、初年度の研究計画はほぼ達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者らの先行研究によると、新潟県上越市牧区の宇津俣地すべり地や同市板倉区の釜塚・段子差大規模地すべり地に出現する高濃度NaCl型地下水(塩水)は石油・天然ガス付随水(化石海水)起源であり、背斜軸部に形成された断層等を通じて深部から湧昇している。ところが、令和4年度の本研究によると、沖見地すべり地では向斜軸付近に塩水が賦存しており、宇津俣地すべりや釜塚・段子差地すべりとは異なる湧昇モデルが示唆された。これは従前の研究では例のない新知見である。現段階では、応力方向に引張亀裂が発達し、その亀裂帯(または脆弱部)に塩水が貯留していると考えているが、三次元の分布・性状を把握するためには、令和4年度に実施したA測線と直交したB測線でのCSMT法電磁探査が必要不可欠である。 当初の計画では、令和5年度は新潟県十日町市松之山地区の水梨地すべりにおいて沖見地すべりと同様の調査研究を実施する予定であった。しかし、本研究の重要な目的の1つは、巨大地すべり直下に湧昇する塩水の三次元分布の可視化である。沖見地すべりで新たな知見が得られたため、和5年度は、当初の研究計画を一部変更し、令和4年度に続いて、沖見地すべり地において調査研究を行う。上述したB測線でのCSMT法電磁探査も実施して、向斜軸付近における塩水の三次元的な賦存状況を解明する。加えて、既往の各種調査・研究(地形・地質、地下水・水質、同位体地球化学、物理探査)を総括することで、塩水の出現を共通の特徴とする大規模~巨大地すべりに特有の水理・水文地質構造の解明という本研究の目的を達成したい。
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