研究課題/領域番号 |
22K18889
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 雄一郎 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (10322174)
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研究分担者 |
尾方 成信 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (20273584)
奥川 将行 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (70847160)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 4Dプリント / 第一原理計算 / 付加製造 / メタマテリアル / Additive Manufacturing / 相転移 / 弾性異方性 / セル格子構造 |
研究開始時の研究の概要 |
材料の構造と特性の関係は新材料創成の基礎となる。3Dプリンタは広いスケールでの構造制御を可能とした。本研究は,材料科学が解明した原子レベル以下の構造と特性の関係から格子を設計し、物質が本来有さない特性を付与できると期待される。本研究では電子分布と弾性率の関係を元に材料の密度分布の制御で弾性率を制御する。さらに、応力誘起相転移する格子に、バイメタル梁を組み込むことで熱誘起相転移を発現させ、形状記憶を発現させる4Dメタマテリアルを提案する。これは、特定元素でしか発現し得えない特性を他の元素で発現の可能とし、持続可能な社会の構築に資する新技術の学術的基盤の構築に挑戦する。
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研究実績の概要 |
構造と特性の関係の理解とそれに基づく構造の制御は、新材料創成の基礎である一方で、3Dプリンタにてサブミリレベルの構造を自在制御が可能となったことに着目し、3Dプリンタと物質科学で得られてきた原子レベルの構造と特性の関係の知見を融合した格子構造設計により、新規力学的メタマテリアル創成を目指して研究を実施した。特に結晶性材料の特性は原子配列と電子状態により決定されることから、電子構造と弾性異方性の関係と、格子構造と弾性特性の関係を比較することで電子構造からメタマテリアル設計指針を得ることから着手した。具体的には、3D-CADにより面心立方(FCC)型格子ならびに体心立方(BCC)型格子のBall&Stick型構造体を設計した。その構造体を粉末床溶融結合型樹脂用付加製造装置と熱可塑性ポリウレタン粉末を用いて造形した。造形体の圧縮試験とせん断試験により、縦弾性率E、横弾性率G、ポアソン比νを評価し、弾性異方性の指標としてZener ratio AZ = 2G(1+ν)/Eを求めた。一方、Materials Projectの第一原理計算データから0 Kでの金属元素の弾性異方性を評価し、電子密度分布及びフェルミ面の形状と比較し、電子構造と弾性異方性の関係を検討した。 FCC型格子構造体のAZ は1近傍で比較的低く、等方的なのに対し、BCC型格子構造体は大きなAZ を示し異方性は高かった。一方、金属のAZは元素により大きく異なるが、FCC金属で高く、BCC金属で低い傾向があり、格子構造体とは逆の傾向を示した。さらに、FCC金属のフェルミ面が<111>方向に突き出しあるいは接続しているものが多く、BCC金属のフェルミ面が<110>方向に連結しているものが多い。これが格子構造体と金属結晶で、弾性異方性の傾向が逆転していることと関係している可能性があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子構造と力学特性の関係と、3Dプリントで製造する格子構造の特性の関係からメタマテリアルを設計するという全く新しい挑戦的な研究を進めることができた。特に結晶性材料の特性は原子配列と電子状態により決定されることから、電子構造と弾性異方性の関係と、格子構造と弾性特性の関係を比較することで電子構造からメタマテリアル設計指針を得ることから着手した。具体的には、3D-CADにより面心立方(FCC)型格子、体心立方(BCC)型格子のBall&Stick型構造体をBallの半径、梁の太さをパラメータとして設計し、粉末床溶融結合型樹脂用付加製造装置にて、熱可塑性ポリウレタン粉末を用いて造形できた。また、圧縮試験用とせん断試験専用の治具を作製して、材料試験機により造形体、縦弾性率E、横弾性率Gを評価し、さらにポアソン比νについては、画像解析により、試料表面につけたマーカーの相対位置変化から評価する手法も確立した。それらのデータにより弾性異方性の指標となるZener ratioを求めた。一方、金属結晶の電子構造については、当初は全て第一原理計算を実行予定であったが、第一原理計算データを集約したMaterials Projectデータベースを活用することにより効率的に進めることができた。当初、FCC金属の特性はFCC構造の造形体、BCC金属の特性はBCC構造の格子の構造に類似すると予想したが、実際に逆にFCC構造の造形体はBCC金属の弾性異方性に近いことなど、弾性異方性の傾向が逆転する傾向のあることを見出した。この理由として、現時点では不明だが、フェルミ面の形状が弾性異方性と関与している可能性を見出すなど、意外な結果が得られており当初の計画どおりではないものの、大きな成果につながると期待される発見が得られている。その点は当初の計画以上の進展であることから、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には上記のように、金属結晶の電子構造と弾性異方性の関係、セル格子構造体の構造と弾性異方性との間には、最近接原子間結合をBall&Stickモデルの梁で表す直感的モデリングでは模擬できない相関が存在することを見出した。2023年度には、その相関の背後にある物理を解明するとともに、対象の特性を弾性異方性の模倣からマルテンサイト相転移の模倣へと発展させ、形状記憶特性や超弾性を示す新しい4Dメタマテリアルの設計と3Dプリントによる実現へと展開する。 具体的には、電子構造を模倣したメタマテリアル設計においては、BCC構造格子状メタマテリアルとFCC金属の類似性、FCC構造格子状メタマテリアルとBCC金属の類似性を、フェルミ面の形状とセル格子構造体の類似性の観点に加えて、第一原理計算で得られる結晶のエネルギ-値と電子構造のデータから、電子の軌道同士の重なりの解析や、クラスター展開による、2体、3体での原子配列と弾性異方性の関係に注目した解析を行う。また、BCC構造とFCC構造以外の結晶構造を有する結晶性材料に展開し、電子構造を模倣したメタマテリアル設計の一般化を図る。 相転移を模倣した4Dマテリアルの設計においては、マルテンサイト転移すなわち、せん断型相転移における原子配列変化を模倣できるセル格子構造体を、相転移の前後のオーステナイト相とマルテンサイト相の構造だけでなく、中間状態のエネルギー変化を加味して設計する。そのように設計したメタマテリアルを3Dプリンタにて造形して、相転移による変形挙動を実測するとともにFEM解析によるシミュレーションを行い、物質科学で得られてきた原子レベルの構造と特性の関係の知見を融合した格子構造設計による新規力学的メタマテリアル創成の指針を確立する。
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