研究課題/領域番号 |
22K18905
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土山 聡宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (40315106)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 結晶粒微細化 / ホールペッチの関係 / 粒界偏析 / 高強度 / 結晶粒微細化強化 / 組織制御 |
研究開始時の研究の概要 |
構造用金属材料の強度を高める手法として「結晶粒微細化強化」は有効な強化手法であるが、工業的に微細化が可能な結晶粒のサイズには限度があり、本手法によるさらなる材料の高強度化は困難となっている。そこで本研究では、結晶粒をより微細にしようとする従来の方針を転換し、結晶粒微細化強化の効率を高める技術の確立を目指す。具体的には、溶質元素を結晶粒界に濃化させ、多結晶組織内での変形の伝播を抑制する合金設計や熱処理を提案する。
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研究実績の概要 |
本年度は、まず理論的にFe中で粒界偏析を生じやすい元素の種類、多元系ではその組み合わせ、それらに及す熱処理温度の影響を明らかにするため、「粒界相モデル」を用いた熱力学計算を行なった。一方、実際にホールペッチ(HP)係数を実測するためにFe-C、Fe-Mn、Fe-Si、Fe-Mn-C、Fe-Si-C系合金について結晶粒径を変化させて引張試験およびHPプロットを行ない、理論偏析量とHP係数の関係を調査した。その結果、SiやMnなどの置換型元素が含まれないFe-C合金では、計算で得られた粒界偏析量とHP係数の実測値が非常に良く一致し、固溶化処理温度を変えて理論偏析量を変えた場合も、計算による平衡偏析炭素量の予測値とHPの実験値の変化が良く対応した。そこにMnが添加されたFe-Mn-C合金では、C単独添加によるHP係数増大効果とMn単独添加によるHP係数増大効果が単純に加算される傾向が認められた。ところがFe-Si-Cでは両者の効果を加算するよりも遙かに大きなHP係数の上昇が認められ、単に平衡偏析の計算だけではその大きなHP係数を予測することが困難であることが示された。SiやMnはFe中での拡散速度が遅いため、これらがほとんど拡散せず、一定のSiやMn濃度に対応してCのみが平衡偏析を生じるパラ粒界偏析も考案して実験データの整理を行なったが、それでもやはり十分良い対応は得られなかった。この結果は、単に粒界偏析した溶質濃度だけではなく、粒界内での原子間相互作用が粒界の強度(臨界粒界せん断応力)に影響している可能性があることを示唆している。いずれにしても、やはり現象を明らかにするには粒界での溶質濃度を実測する必要があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、2元系および3元系の合金に対し、理論と実験の両面からHP係数に及す溶質元素の粒界偏析の影響の調査が実施できている。そして実際に、通常の鋼よりも大きなHP係数を有する合金と熱処理が見出されており、「粒界偏析強化」の概念構築と「高HP係数合金」創製という目標に向けてポジティブな結果が得られつつある。理論通りに説明できない現象も現れているが、偏析元素濃度の実測が可能になれば、その現象も説明できると考えられる。また計算の結果、非常に強い粒界偏析を生じる可能性がある合金系も見出されており、次年度以降の研究の方向性も明確となっている。
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今後の研究の推進方策 |
置換型元素の粒界偏析そのものがHP係数に及す効果よりも、Cの粒界偏析量の増大がもたらすHP係数への影響の方が顕著であることから、Cの偏析を助長させる置換型元素の添加を目的とした合金設計を行なう予定である。具体的にはFe-Nb-C合金や、Fe-V-C合金が有効と考えられる。しかし、その場合NbCやVCなどの炭化物が析出してしまうと、逆にCの粒界偏析量を減少させてしまうと考えられるため、その添加量や熱処理条件を熱力学的観点から最適化していく必要があると思われる。
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