研究課題/領域番号 |
22K18948
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分28:ナノマイクロ科学およびその関連分野
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森垣 憲一 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 教授 (10358179)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 生体膜 / ナノ空間 / バイオマーカー / 疾患マーカー / 人工膜 / 1分子計測 |
研究開始時の研究の概要 |
1分子計測技術は、個別分子に関する詳細な情報をもたらすため、疾患関連分子の検出、同定に応用することで、従来にはない高感度・高精度な診断が可能になると期待される。本研究は、ガラス基板表面に形成した人工膜と、厚さ100nm以下のナノ空間を利用して疾患マーカーを1分子計測する技術を開発する。超高感度・高精度な1分子診断技術は将来、感染症や腫瘍を早期発見できる革新的診断技術に発展するものと期待される。
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研究実績の概要 |
本研究は、生体膜を模倣した人工膜と、厚さが数十ナノメートルのナノ空間を組み合わせて疾患関連生体分子(疾患マーカー)を1分子計測する技術を開発する。そのために2023年度は、パターン化人工膜とナノ空間の作製技術、パターン化人工膜への抗体の固定化および検出技術を開発した。 パターン化人工膜は、光重合性リン脂質を光リソグラフィー技術でパターン化重合したポリマー脂質膜に、生体由来の脂質膜(生体脂質膜)を組み込んで作製した。一方、ナノ空間は、ポリマー脂質膜と高分子エラストマー(PDMS)を厚さが均一な接着層(高分子被覆シリカ微粒子)により接着することで作製した。ナノ空間の形成は、脂質膜に結合した標的分子の側方拡散による選択的輸送により評価した。また、倒立顕微鏡の照明をキセノンランプからLEDに変更することで広いエリアでの均一照明を実現し、多くの区画での蛍光を同時観察することが可能になった。パターン化人工膜への抗体の固定化技術は、抗体分子を酵素反応および還元反応によって分解することで抗原認識部位 (Fab’)を取り出し、Fab’に含まれるシステイン基にマレイミド基を介してDibenzylcyclooctyne (DOCO)基を結合した。そして、生体脂質膜内に予め5mol%導入したアジド基含有脂質にFab’-DBCOを選択的に結合させることで、生体脂質膜に高効率で抗原認識部位を結合した。Fab’は脂質膜において2次元拡散することができた。さらに、脂質膜に固定されたFab’をナノ空間において1分子蛍光観察することに成功した。また、モデル疾患マーカー(PSA)を認識する別の抗体に蛍光標識を行い、膜表面でのサンドイッチ検出を行った。今後、生体脂質膜表面において疾患マーカーのサンドイッチ検出する技術を確立しナノ空間における高感度な検出を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、生体膜を模倣した人工膜と、厚さが数十ナノメートルのナノ空間を組み合わせて疾患関連生体分子(疾患マーカー)を1分子計測する技術を開発することを目的としている。2023度は、パターン化人工膜とナノ空間の作製技術、パターン化人工膜への抗体の固定化技術を開発した。 パターン化人工膜は、光重合性リン脂質を光リソグラフィー技術でパターン化重合したポリマー脂質膜に、生体由来の脂質膜(生体脂質膜)を組み込んで作製した。特に、光重合性脂質の重合効率、光リソグラフィー技術などを改良することで、均一かつ明確なパターンを持ったポリマー脂質膜を作製することができた。一方、ナノ空間は、ポリマー脂質膜と高分子エラストマー(PDMS)を厚さが均一な接着層(高分子被覆シリカ微粒子)により接着することで作製した。ポリマー脂質膜とPDMSとを接着するプロセスを改良することで、ナノ空間を再現性良く安定に形成することに成功した。また、倒立顕微鏡の照明をキセノンランプからLEDに変更することで広いエリアでの均一照明を実現し、多くの区画での蛍光を同時観察することが可能になった。パターン化人工膜への抗体の固定化技術として、抗体分子の抗原認識部位 (Fab’)と脂質分子をDibenzylcyclooctyne (DOCO)基とアジド基との選択的結合(クリック反応)により結合することに成功した。生体脂質膜に高密度で抗原認識部位を結合し、Fab’は脂質膜において2次元拡散することができた。さらに、脂質膜に固定されたFab’をナノ空間において1分子蛍光観察することに成功した。また、モデル疾患マーカー(PSA)を認識する別の抗体に蛍光標識を行い、膜表面でのサンドイッチ検出を行った。今後、生体脂質膜表面において疾患マーカーのサンドイッチ検出する技術を確立しナノ空間における高感度な検出を目指す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、生体膜を模倣した人工膜と、厚さが数十ナノメートルのナノ空間を組み合わせて疾患関連生体分子(疾患マーカー)を1分子計測する技術を開発することを目的としている。2023年度には、パターン化人工膜とナノ空間の作製技術、パターン化人工膜への抗体の固定化技術、検出技術を開発した。2024年度はこの実績にもとづいて生体脂質膜表面において疾患マーカーのサンドイッチ検出、ナノ空間において疾患マーカーの1分子検出技術を開発する。 モデル疾患マーカーとして前立腺ガンマーカー(PSA)を用い、PSAを認識する2種類の抗体に脂質または蛍光色素を結合した捕捉抗体と標識抗体を作製する。捕捉抗体は昨年度に開発したクリック反応を用いて生体脂質膜表面に固定する。PSA分子を生体脂質膜の表面に捕捉して複合体を形成する(サンドイッチ法)。複合体は膜分子の2次元拡散でナノ空間へ導入され、膜に結合できない夾雑分子の混入は抑制されると予想される。ナノ空間において膜表面を2次元拡散するPSA(非標識)を1分子蛍光観察で検出する。モデル夾雑分子(ヒト血清アルブミン)が高濃度に存在する条件でPSAの1分子計測を行い、検出下限、正確性、迅速性を評価する。ナノ空間は、厚さが極めて小さいため、夾雑分子混入と背景蛍光を最小限に抑制し、S/N比を飛躍的に向上できる。膜に結合した分子と膜に結合していない分子の拡散速度は大きく異なるため、2次元拡散する分子を追跡することで、特異的に結合した標的分子と、非特異的に混入した夾雑分子を区別できるものと期待される。
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