研究課題/領域番号 |
22K18958
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分28:ナノマイクロ科学およびその関連分野
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
早澤 紀彦 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90392076)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
|
キーワード | グースヘンシェンシフト / 近接場光学 / 表面プラズモン / 近接場 / 単一分子計測 / 表面プラズモン共鳴 / センサー |
研究開始時の研究の概要 |
物質界面での屈折率変化に敏感なグースヘンシェンシフトによるビーム位置のシフトを散乱型近接場顕微鏡により1ナノメートル精度で検出し、単一分子感度計測手法を開発する。金薄膜表面での表面プラズモン共鳴によって誘起される角度グースヘンシェンシフトは、検出器までの距離を制御することでサブミリメートルオーダーに達する巨大シフト量を達成できる。このサブミリメートルオーダーのシフト量を近接場顕微鏡により1ナノメートル精度で計測し、単一分子の界面吸着に伴う微少な屈折率変化を角度グースヘンシェンシフトにより検出する。本手法は、近年需要の高まっているウイルス計測を含め、全く新規かつ汎用性の高い分析手法となる。
|
研究実績の概要 |
従来のセンサー感度は「ナノモル」や「ピコモル」等のモル濃度で議論されることが多い。ナノ・ピコ表記は高感度を示すよう聞こえるが、分子数で表記すると、10^11~10^14個という途方もない数であり、濃度表記が採用されているといえる。つまり分子数で議論するようなセンシングは不可能であるとも言える。本課題では、新規分析手法である角度グースヘンシェンシフト (Angular Goos-Hanchen Shift: A-GHS)に基づく屈折率センサーにおいて、近接場検出を世界で初めて融合させ、モル濃度で表現されていた感度を革新的に向上し、分子数レベルの感度表記を可能とすることを目的としている。究極的に1分子感度の達成を目指しており、本課題で開発する分析手法は、昨今のSARS-CoV-2といったウイルス検出需要に応えるだけでなく、あらゆる分子種に対して適応できる汎用性の高い手法となり得る。2022年度は、従来開発してきた常温大気圧中A-GHSシステムを、バイオセンサー応用を念頭に液中環境で測定可能になるよう装置設計を行い、液中環境用セルをA-GHSシステムに組みこんだ。また、従来のA-GHSでは、入射光を固定し、試料と検出器がそれぞれθ、2θ回転することで入射角度依存測定を行うが、検出側で近接場測定を行うためには、検出側を固定し、入射側と試料を回転する必要がある。そのため入射光を偏波保持光ファイバーで回転ステージに導入できるように設計開発を行った。 一方、近接場検出は、金属探針を用いた散乱型近接場顕微鏡技術を用いる。ラマン散乱や蛍光等の周波数変換を伴う検出光ではなく、入射光と近接場散乱光の周波数が同一であるため、非常に強い背景光から微弱な近接場散乱光を検出する必要がある。金属探針を試料面垂直方向に励振し、散乱光をロックイン検出することで近接場成分を高効率で検出する設計を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液中環境で測定可能なA-GHSの開発のため、高い化学安定性を有するダイフロン材により溶液を内包できる小型のセルを設計し、これをA-GHS用半球プリズム及び試料に密着させ、水中及びエタノール中でのA-GHS測定が可能であることを確認した。本測定では、入射光を固定し試料と検出器がそれぞれθ、2θ回転することで入射角度依存測定を行っていた従来の測定系を、試料を水平に固定し、入射光と検出器がθ、-θ回転するように設計し直した。これは、液中セルの設計上試料を回転できないためであるが、今後の近接場検出では、検出器側を固定する必要があるため、入射光と試料を回転させる必要があり、液中用セルも含めた再設計が必要となる。一方、入射光の回転に関しては、偏波保持ファイバーで入射ビーム回転用ステージに導入できるようになったため、この手法は近接場検出においても活用できる。 一方、近接場検出に用いる金属探針を用いた散乱型近接場顕微鏡技術では、金属探針の垂直方向励振のため、特にqPlusセンサー方式の非接触型AFMの開発を行った。qPlusセンサーで用いる金探針を、100um径金ワイヤの電解研磨エッチングにより行った。通常STM探針として用いる250um径のワイヤでは、探針重量が大きくなり、AFMにおける探針励振共鳴が得られず、100um径とした。250umと同等の条件でのエッチングによる先鋭化に成功した。作製した金探針を自作マニピュレータによりqPlusセンサー基板にマウントし、共振周波数~20kHz、Q値~700を確認した。ここで金探針無しのqPlusセンサーは~32kHzの共振周波数を有し、金探針重量により大きく共振周波数シフトしていることがわかった。今後、25um径についても検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
A-GHSに関しては、検出器側即ち近接場計測を行う側のステージを固定し、安定的にA-GHSした反射ビームの位置変化を近接場計測する必要がある。即ち、試料及び入射光をθ, 2θ回転するように設計を行う。この際入射光に関しては、現行システムと同様に偏波保持ファイバーで入射ビームを回転ステージに導入できる予定であるが、試料に関しては現状のセル設計では回転させることができない。そこで、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた新たな液中セル設計を行う。新たな設計では、液中セルサイズを可能な限り小さく設計し、即ち分析物が極微量で済むよう想定し、さらに分析物をシリンジ及びシリンジポンプを用いて定量的にセル内に注入及び排出できるように設計する。 一方、近接場検出に関しては、非常に強い背景光から微弱な近接場散乱光を検出する必要があるため、金属探針を試料面垂直方向に励振し、散乱光をロックイン検出することで近接場成分を高効率で検出する。特に赤外領域での散乱型近接場顕微鏡技術で実績のある、共振周波数の高次高調波でロックイン検出する手法をA-GHSの可視光域に応用する。 これら、A-GHSの回転機構と近接場検出の測定機構を統合し、金薄膜上に形成した自己組織化単分子膜(SAM)によるA-GHSの反射ビームの位置シフトを高感度で検出する。分子長の長いSAMから短いSAMに変化させつつ、A-GHSの近接場検出感度の評価を行う。
|