研究課題/領域番号 |
22K19009
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
|
キーワード | 微小敵的反応場 / 超原子クラスター / 超原子軌道 / 光電子イメージング / 微小液滴反応場 / 微小液滴内化学反応 / 超原子金属クラスター |
研究開始時の研究の概要 |
近年,微小液滴中において,バルクでは起こりにくい反応が進行するとの報告がなされている。Microdroplet chemistry(微小液滴内化学反応)と称される,この新たな反応場では,還元剤や電荷注入をすることなく,水溶媒だけでも溶質の還元反応が効率良く進むことが実証されている。本研究ではこの点に着目し,金属イオンを含む微小水液滴を利用した極めて簡便な超原子金属クラスターの気相合成に挑戦する。その後,研究代表者が発案した超高効率光電子イメージング法により,サブナノサイズの金属骨格中に漂う価電子の振る舞いを,固有エネルギーと軌道角運動量の両面から明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究計画は,Microdroplet chemistryを利用した超原子金属クラスターの気相合成法を開発し超高効率光電子イメージング法(Horio et al., Rev. Sci. Instrum. 93, 083302 (2022))へと応用するものである。後者の実験手法を高度化する過程において,2023年度に既存の金属クラスター連続発生装置により合成した銀超原子負イオンAg18-と等価電子系のAg15Sc-の光電子放出角度分布が極めて強い正の依存性を示すことを見出し,それが最外殻である超原子2S軌道からの光電子放出であることを突き止めた(Minamikawa & Nishizato et al., J. Phys. Chem. Lett. 14, 4011-4018)。本成果は異元素添加系で電子殻構造形成を実証(可視化)した世界初の例であることから,さらに当該分野を先導する結果を出すべく,今年度は金属クラスターで象徴的な13原子系に焦点を当て,Ag12M-(M = V, Nb, Ta)の光電子イメージングを行った。13原子系はIh, D5h, Oh, D3hなどの極めて高い対称性の骨格を形成できる。加えて同クラスターは余剰電荷も含め超原子1D軌道まで電子が収容されるいわゆる18電子系である。しかし局在傾向にあるd電子を含むため等価電子系になるかは懐疑的であった。ところが実際得られた光電子画像は驚くべきことに三種とも酷似しており,5重縮退した超原子1D軌道からの光電子放出を示す光電子リングが1本のみ観測された。超原子1D軌道が5重縮重となるのはIh構造のみであり,それが構造決定の切り札となった。同結果を直ちに取り纏め,2024年3月13日J. Phys. Chem. Lett.に投稿し,同年4月9日掲載が受理された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者が発案した超高効率光電子イメージング法により,異元素添加系における電子殻構造形成を実証し,さらに正二十面体(Ih)構造を有する極めて高い対称性の超原子金属クラスターの合成に成功した。当初の研究計画にはなかったものの,これらは疑いなく当該分野を先導する成果である。ゆえに当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた成果の重要性を踏まえ,当初の研究計画を変更し,まず13原子系超原子金属クラスターの光電子イメージングに注力する。既述の通り,Ag12M-(M = V, Nb, Ta)は全て正二十面体構造を有し,1Sに2個,1Pに6個,1Dに10個(余剰負電荷含む)の18電子系を形成することを見出した。遷移金属元素のd電子は局在性が強いと予想されるが,本結果はd電子も正二十面体骨格に非局在化することを示している。研究計画では,系を第6周期元素添加系Ag12M-(M = Cr, Mo, W)まで拡張する。同クラスターの総価電子数は19個であり,電子殻構造に従えば19番目の電子が最外殻の超原子2S軌道を占有する。超原子2S軌道は球対称性を有するため,もし電子殻構造を形成するのであればAg12M-(M = Cr, Mo, W)もAg12M-(M = V, Nb, Ta)と同じく正二十面体構造となるはずである(球対称性となる電子閉殻構造にさらに球対称性の軌道が加わるため)。しかし,予備的な実験結果ではあるものの,Ag12Cr-ではCr3d電子の非局在性は見出されず,量子化学計算による最安定構造もIhとはならなかった。この結果は,d電子の非局在化と正二十面体構造に相関があることを意味しており,量子サイズ効果を原子レベルで理解する上で重要な知見となり得る。加えて,当初計画に掲げたMicrodroplet chemistryを利用する超原子金属クラスター合成法に向けた設計指針を与えるものである。MoおよびWについても実験および量子化学計算を行い,銀原子数が異なる系(例:Ag11M-, Ag13M-など)についても,d電子の非局在化が起こるのか否かを精査する。以上の結果を取り纏め専門学術誌に投稿する。
|