研究課題/領域番号 |
22K19011
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
迫田 憲治 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 微小液滴 / 光共振器 / Purcell効果 / 蛍光測定 |
研究開始時の研究の概要 |
蛍光一分子測定は,生体高分子の構造変化を「その場」観測できる強力な手法であり,これまでにも生体高分子などの構造変化が蛍光励起エネルギー移動(FRET)を利用して調べられてきた。しかしながら,その時間分解能はマイクロ秒程度に留まっている。本課題では,我々が独自に開発を進めてきたイオントラップを利用することで,単一微小液滴を大気中で安定に空間捕捉する。この微小液滴に溶存した分子が示す蛍光放出速度の加速を利用することで高感度蛍光測定を実現し,FRETを含む蛍光測定の時間分解能の向上を目指す。これにより,生体高分子の構造変化や構造ゆらぎを高い時空間分解能で観測する。
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研究実績の概要 |
昨年度の研究で開発した断熱チャンバーを用いて,空間捕捉した微小液滴に溶存した色素分子の蛍光寿命を測定するための検出系の構築を行った.対物レンズを用いて捕集した蛍光を光電子増倍管で検出し,時間相関単一光子計数法を用いて蛍光減衰曲線を得た.ローダミンBが溶存したグリセリン微小液滴を断熱チャンバー内に設置したイオントラップで空間捕捉し,チャンバー内温度を21.0, 5.0, -1.5, -5.0, -8.0, -10.0 ℃に設定して蛍光寿命の測定を行った.その結果,蛍光寿命はチャンバー内温度が低くなるにつれて遅くなり,チャンバー内温度が-1.5℃以下になるとほぼ一定の値になることが分かった.また,蛍光寿命測定と同時に計測した蛍光スペクトルを解析することによって,寿命測定の間に液滴径がどの程度変化したかを追跡できるように装置を改良した.その結果,チャンバー内温度が-1.0℃よりも低くなると溶媒の蒸発が抑制され,液滴径がほぼ一定に保てることが分かった. 一方,我々が以前に行った実験から,室温で蛍光寿命測定を行っても,顕著なPurcell効果が観測できないことが明らかになっていた.そこで,チャンバー内を冷却して蛍光寿命を測定した結果を解析したところ,低温においても顕著なPurcell効果は観測できなかった.そこで,ローダミンBを表面に吸着させたポリスチレンビーズ(直径は3, 4, 6マイクロメートル)を用いて蛍光寿命の測定を行ったところ,直径3マイクロメートルのポリスチレンビーズの場合,顕著なPurcell効果を観測することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に開発した断熱チャンバーを用いて,液滴周囲の温度を変化させながら蛍光寿命の測定し,同時に蛍光スペクトルも取得する装置を開発できたため,技術開発面では順調に研究が進んだ.一方,実際に蛍光寿命を測定してみると,過去に報告されているようなPurcell効果は観測できず,温度を変化させても同様の結果であった.一方で,色素を吸着させたポリスチレンビーズではPurcell効果が明瞭に観測されている.このことは,液滴においてPurcell効果が観測されない理由が,我々が開発した装置に固有の問題ではないことを強く示唆している.いまのことろ,液滴でPurcell効果が観測されない理由についてはよくわかっておらず,更なる研究が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,顕著なPurcell効果を示したポリスチレンビーズを用いて研究を進める.色素標識したタンパク質をポリスチレンビーズに吸着させ,これを空間捕捉することによって,色素からの蛍光寿命を測定する.2023年度の研究から,この条件においては色素標識タンパク質がPurcell効果を示すことが期待できる.一方,同じ色素標識タンパク質を液滴に溶存させて蛍光寿命を測定する実験も同時に行う.この条件ではPurcell効果が観測できない可能性がある.過去に液滴のPurcell効果を報告している論文では,励起光と蛍光捕集方向が直交しており,我々の装置とは異なる(我々の装置は180°方向).装置を改良することによって,90°方向の蛍光を検出できるようにし,蛍光寿命の測定を試みる.
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