研究課題/領域番号 |
22K19013
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 空間選択的化学反応 / 機能性ナノ物質 / 強結合相互作用 / 光特性制御 |
研究開始時の研究の概要 |
ナノ物質は,その特異な化学的,光学的な特徴から,触媒や電子デバイスなど,さまざまな先進的な応用が期待されている。本研究では,電子線誘起化学反応を用いて,空間選択的に多様な機能性ナノ物質を合成する手法を構築する。これにより,複数の物質をナノメートルの精度で配置すること,また新しい光機能の創成とその制御が可能となる。本研究では,機能性ナノ物質の創成とその光特性制御に新しい方法論を構築することを目的にする。
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研究実績の概要 |
化学合成法や気相成長法などにより,さまざまなナノ物質が合成され,それらの基礎および応用研究が進展している。ナノ物質は,その特異な化学的,光学的な特徴から,触媒や電子デバイスなど,さまざまな先進的な応用が期待されている。本研究では,電子線誘起反応を用いて機能性ナノ物質を空間選択的に合成する手法を確立することを目的とする。また,ナノ物質の二次元ナノ配列体を作製し,ナノ物質間の強結合相互作用と配列体の構造共鳴により,光特性制御を実現することを目的とする。本年度は,基板上に有機結晶を成膜し,これに電子線や紫外レーザーを照射して化学反応を誘起し,あらたな物質を合成することを計画した。多環芳香族化合物を研究対象として電子線を照射すると,2量体や3量体が生成すること,この多量化反応は複数の多環芳香族化合物において起こることが明らかとなった。また,同様の反応は,紫外線を用いても誘起することが可能である。紫外線を用いる場合,粉末試料を対象とすることが可能で,昇華精製により,反応物を分離可能であることが明らかとなった。分離後の化合物は,単量体に比べ,長波長域において吸収や発光を示す。この結果は,多量化により化合物の共役長が拡張することを示す。次に,集束した紫外レーザー光に対して,試料をピエゾステージにより走査することで,二次元的なパターンを作製した。描画部分において,強い発光が観測されること,光照射量により発光強度を調整することができることを明らかにした。描画パターンを溶媒で洗浄した結果,描画部においてのみ発光種が残ることが明らかとなった。さらに,描画部分の質量分析を行った結果,より高次の多量体が生成していることが明らかとなった。この結果は,難溶性の化合物を直接基板上に合成できることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機化合物に高エネルギーの電子線を照射すると,化合物は電子的に励起され,イオン化,ラジカル生成などを経て,最終的に分解・重合・多環化が起こる。電子線の照射条件を制御することで,反応物の多量体の生成が可能であると考えられる。本研究では,高分子や有機化合物などを反応前駆体として用いて機能性ナノ物質を空間選択的に調製し,さらにそれらを二次元的に配列化させることにより新しい光機能の創成とその光特性制御を目指している。2022年度は,電子線や紫外線を用いて,あらたな特性を示す機能性ナノ物質の調製法の開発を計画した。これまでに,多環芳香族化合物に電子線や紫外線を照射することにより,多環芳香族化合物の多量化が実現すること,紫外線照射では分光分析が可能な量の試料を合成することができることを明らかにしている。これらは,本研究提案の実現性を示す重要な成果である。以上に加えて,ピエゾステージを用いて試料を二次元的に走査することで,多量体の描画パターンを作製可能であることを明らかにしている。多量体種は,描画時間によりある程度制御することが可能である。また,描画パターン内では,より高次の多量体が生成し,これがガラス基板上に固定化していることが明らかとなっている。このことは,難溶性の化合物を所望の位置に生成可能であることを示しており,本研究における重要な成果の一つである。これまでに生成物を同定するには至っていないものの,反応前駆体とは異なる光物性を示す物質を空間選択的に合成することを実現していることから,研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに多環芳香族化合物の多量化を質量分析で確認しているが,その化合物の同定には至っていない。今後,多量体の生成量をさらに増やし,NMRや赤外分光法,ラマン分光計測により,反応物の同定を進める。また,必要に応じて理論化学計算などを併用することも検討している。電子線を用いることで数百nmの描画精度が達成されることから,これを精緻な二次元パターンに拡張し,二次元配列体の光学特性の評価と制御を行う予定である。試料としてはこれまで実績のある多環芳香族化合物のマイクロ結晶を用いる。光学特性の評価には,顕微分光計測と電磁気学シミュレーションを用いる計画である。顕微分光計測では,試料の蛍光,ラマン散乱,非線形発光計測を計画している。これにより,反応前後の試料の光物性評価を行う。一方,シミュレーションでは,あらかじめ光物性制御に適切な二次元パターンの条件検討を行う。周期構造では,構造共鳴が起こると期待される。機能性ナノ物質を空間選択的に合成し,構造共鳴を活用した強結合相互作用により新物質・新物性を実現する手法の構築を目指す。さらに,描画した二次元パターンと金属ナノ構造とを組み合わせ,あらたな光物性制御が実現するかを検討する。金属ナノ構造では,プラズモン共鳴が励起されると考えられ,プラズモンと分子の相互作用により発光やラマン散乱が増強されることが期待される。以上により,ナノ物質間の強結合相互作用と配列体の構造共鳴により,光特性制御の実現を目指す。
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