研究課題/領域番号 |
22K19017
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分33:有機化学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浦口 大輔 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (70426328)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 不斉合成 / 触媒的分子変換 / 金属錯体 / メタロセン / 触媒的不斉合成 |
研究開始時の研究の概要 |
キラルなメタロセン類は近年、構造化学・材料化学・触媒化学分野に加え創薬化学分野で重要性を増しつつある。一般にキラルメタロセン化合物は、アキラルなメタロセンの修飾によって合成されるが、当量以上のキラル源を必要とすることが多く、触媒量のキラル源を利用するものは少ない。本研究では、非対称置換シクロペンタジエニルイオンの触媒制御によるエナンチオ選択的な炭素-金属結合形成に挑戦し、キラルメタロセン類の単段階合成を実現する。
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研究実績の概要 |
本研究に着手する上で最初に問題となる点として、芳香族性をもち高度に非局在化したアニオンであるCpが金属イオン(M+)とどのように反応するかが明確でないことが考えられた。すなわち、η1型の有機金属種が生成した後にη5型に異性化する、最初からη5型の結合を形成する、求電子剤となる金属イオンがカチオンとして反応する、あるいはシクロペンタジエニルイオンとのアート錯体を形成した後に脱離基を失ってη5型錯体を生じるなどの、考えられる経路のいずれが優位であるかが明確でなかった。さらに、アキラルなメタロセンを合成する際には一般にCpのアルカリ金属塩を用いるが、この時、求電子剤となる金属塩のハライド等の脱離基とアルカリ金属イオンの間に相互作用がある協奏的な付加脱離機構であるか、非環状遷移状態を経る求核置換型であるかについての情報も不足しており、この戦略に基づく方法論の開発を決定的に難しくしていた。そこで本研究では、複数の戦略を並行して進めることにより、結合形成過程の理解と立体選択性の発現を念頭に開始した。研究の端緒としてまず、Cpへの金属イオンと配位可能な電子求引性基の導入による環状の遷移状態形成を誘導することを狙い、カルボニル基等を備えた基質の設計・合成に取り組んだ。初期検討の結果、単純なCp環の修飾では異性体混合物が得られ、その後の検討を複雑化することが判明したため、主にインデンを基本骨格とした配位子ライブラリの構築を推し進めた。一方、合成した配位子と金属塩との反応によるメタロセン合成は、適切な反応性を示す金属塩の探索に留まり、エナンチオ選択性の発現を確認するには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初期検討においてシクロペンタジエンへの置換基導入に取り組んだが、二重結合の位置異性体の混合物が得られ、その分離精製が困難であることが明らかとなった。一般に、強塩基を用いるCpイオンの発生においては、位置異性体の混合物であることは問題とならないことが知られているが、本研究では弱塩基の利用を想定しているために特定の異性体のみが利用可能である。すなわち、化合物のpKaを制御するために導入している電子求引性置換基と二重結合に挟まれた位置の炭素が酸性を示し得る異性体が必要となる。しかし、選択的合成および異性体分離が共に困難であり、単純なシクロペンタジエンを母核とする試みは保留することとなった。次に、位置異性体の関与を抑制するために、インデンを母核とする配位子の設計・合成に研究の方向をシフトした。インデンにおいては、環内炭素の酸性度が位置によらず一定以下となることが期待でき、置換シクロペンタジエンにおいて直面した問題を避けることができると考えられた。実際、合成した電子求引性基置換インデンは、比較的温和な条件下でアニオンを発生させ得る程度のpKaを備えていた。しかし、安定なアニオンであることは求核力が低いと言い換えることができ、メタロセンに変換するためには反応性の高い金属塩が必要であった。このため、触媒反応に展開するために適切な金属塩の探索に多大な検討が必要となり、研究の進捗が滞る原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
前々項でも述べた、本研究に着手する段階から想定していた問題点を考慮し、当初計画に従って以下に挙げる三つの戦略により、結合形成過程の理解と立体選択性の発現を実現する。なおこのとき、金属ハライドを求電子剤とすると生じる金属ハロゲン化物が塩基性をもたないために次のシクロペンタジエン誘導体からの脱プロトン化が進行せず、当量以上の外部塩基が必要となるため触媒的なシステムを構築し難い。ここでは、脱離能は低下するものの触媒的サイクルを形成することを優先し、求電子剤として金属アルコキシドを利用する。 i) 今年度に引き続き、環状遷移状態の誘導を念頭にCpに金属イオンと配位可能な電子求引性基を配向基として導入した配位子ライブラリを拡充する。特に、カルボニル基等を備えた基質の多様性を重点的に拡大することで、中間体の“エノラート”のカチオン部と求電子剤脱離基部との相互作用を鍵とする触媒反応への展開を促進する。 ii) アルカリ金属(m+)を対イオンとする場合、η1型の塩における単純な金属交換反応が進行している可能性を、古典的なキラル配位子、例えばスパルテインなどのジアミン、ビスオキサゾリン等の効果から検証する。ここでは、これまでこの形式の結合形成における立体選択性の発現が確認されていない点を鑑み、汎用される配位子では立体制御能が認められない可能性が高く、様々な配位子を検討する必要があると考えている。 iii) Cpと直接的な結合をもたないカチオンを用いてイオン対型中間体を経る経路を検討することで、直接η5型錯体が生じる可能性を探る。実際には、クラウンエーテル等により配位座を全て埋めた非配位型金属カチオンあるいは有機カチオン(Q+)を用いた反応を行う。
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