研究課題/領域番号 |
22K19018
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分33:有機化学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺田 眞浩 東北大学, 理学研究科, 教授 (50217428)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 有機分子触媒 / データ駆動 / デマンド・ドリブン / 量子化学計算 / 不斉反応場 |
研究開始時の研究の概要 |
有機分子触媒などの不斉触媒を用いた反応開発は多くの場合、研究者の経験と直観による試行錯誤によって高選択性を実現するための最適触媒の構造探索がなされて来た。本研究は最適触媒の合理的な探索法を開発することでこの状況を打開し、高活性かつ高選択的な触媒を理論的に設計することを目的とする。その実現に向け、遷移状態の安定性に関わる「立体歪」と「分子間相互作用」を量子化学計算によって解析し、置換基パラメータ「立体効果・電子効果」との相関を評価データとして最適触媒を探索する。これらの評価データに基づきベイズ最適化法を駆使したデマンド・ドリブン(要求駆動)によって不斉反応場を理論的に精密設計する。
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研究実績の概要 |
近年、不斉触媒反応において「C-H…O非古典的水素結合、C-H…π、πスタッキング」といった「分散力を主とする弱い相互作用」を介して有機分子触媒あるいは不斉配位子と反応基質が相互作用し、遷移状態の安定化が図られていることが明らかになってきた。立体反発に起因する「立体歪」による遷移状態の不安定化は良く議論されるが、「分子間相互作用による遷移状態の安定化」も選択性を決定づける極めて重要な因子となっている。デマンド・ドリブン(要求駆動)に基づく方法論は、これら「立体歪の最小化」と「分子間相互作用の最大化」という最適触媒に「要求される」条件を「駆動力」として探索することを特徴とする。 この方法論の実証系として代表者が豊富な経験を有するキラルリン酸触媒を用いた反応系を検討した。デマンド・ドリブンに基づく方法論は触媒の修飾と反応基質の修飾の二通りの方法があるが、今年度は反応基質の修飾を検討した。キラルリン酸触媒のなかでもスピロ環構造を有するSPINOL誘導体の6,6’-位に導入する置換基を固定し、反応基質に導入したフェニル基を化学修飾することを想定し、代表的な候補置換基をフェニル基上に導入した。立体効果についてはA-valueを、電子効果についてはHammettのσ値などの既存のデータを活用し置換位置とともに置換基の特徴を表記する記述子とした。量子化学計算による遷移状態計算、続く「歪/相互作用解析」を行い、得られた「立体歪」と「分子間相互作用」エネルギーをそれぞれ、置換基パラメータ「立体効果(A-valueなど)」は「立体歪」と、「電子効果(Hammettのσ値など)」は「分子間相互作用」と相関する評価データとした。これらの一次評価データからガウス過程回帰法による回帰モデルの作成と探索を行い、さらに確率論的に求めるベイズ最適化法を適用して、フェニル基上に導入する最適置換基を推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デマンド・ドリブンに基づく方法論の実証系として代表者が豊富な経験を有するキラルリン酸触媒を用いた反応系を検討した。この方法論は触媒の修飾と反応基質の修飾の二通りの方法があるが、今年度は反応基質の修飾を検討した。本方法論は触媒の置換基探索が主たる研究対象になりがちであるが、キラルリン酸触媒のなかでもスピロ環構造を有するSPINOL誘導体の6,6’-位に導入する置換基を2,4,6-トリイソプロピル基に固定し、反応基質に導入したフェニル基を化学修飾することを想定した探索を行った。代表的な候補置換基をフェニル基上に導入する際、想定通り、立体効果についてはA-valueを、電子効果についてはHammettのσ値などの既存のデータを活用し置換位置とともに置換基の特徴を表記する記述子とした。量子化学計算による遷移状態計算、続く「歪/相互作用解析」を行い、得られた「立体歪」と「分子間相互作用」エネルギーをそれぞれ、置換基パラメータ「立体効果(A-valueなど)」は「立体歪」と、「電子効果(Hammettのσ値など)」は「分子間相互作用」と相関する評価データとした。これらの一次評価データからガウス過程回帰法による回帰モデルの作成と探索を行い、この探索には形の判らない関数の最大値(あるいは最小値)を逐次的かつ、確率論的に求めるベイズ最適化法を適用した。現在、これらの解析から最適置換基の候補の絞り込みを行っており、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
環境負荷の軽減を目的とする高機能触媒の設計開発に際し、研究代表者はキラルリン酸触媒の開発に世界に先駆けて成功した。以後、これらの不斉触媒としての機能開拓を推進するとともに、量子化学計算によるアプローチを含め立体選択性の発現機構の解明に努めてきた。キラルリン酸触媒などの不斉触媒を用いた反応系を開発する際の最大の課題は、高選択性を実現するための最適な触媒構造の探索が研究者の経験と直観による試行錯誤に依存していたため、その結果、最適触媒に至るまでのリソースの浪費が大きな問題となっていた。本研究はこの状況を打開し最適触媒の合理的な探索法を開発することで実験化学的な検討を最小限にし、高活性かつ高選択的な触媒を理論的に分子設計することを目的としている。その実現に向け量子化学計算による遷移状態の解析結果を主たる評価データとするデマンド・ドリブンに基づく方法論を開拓し不斉反応場を理論的に精密設計することを引き続き検討する。 量子化学計算による遷移状態計算から「歪/相互作用解析」を行い、適度に分散したパラメータを有する置換基を選択することが鍵となる。これらの置換基パラメータに基づいたベイズ最適化をすることで「最小の立体歪」と「最大の分子間相互作用」を与える構造的な特徴を触媒候補群から推定できるかにかかっている。現在、必要に応じて最適触媒構造を実験実証し、置換基パラメータの補正をしつつベイズ最適化を繰り返すことで絞り込むプロセスの確立に努めている。高い鏡像異性体比の実現には、これらを与えるそれぞれの遷移状態の比較において「立体歪」/「分子間相互作用」が、一方は「小」/「大」として遷移状態の安定化を要求条件とするのに対し、他方を「大」/「小」とすることで不安定化する要素を探索し、触媒構造の最適化における「要求(デマンド)」の理想解が求められるよう、引き続き検討する。
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