研究課題/領域番号 |
22K19023
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分33:有機化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁和 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (00312538)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ラジカル / チオケトン / ミュオン / イソニトリル / ミュオン科学 / 高周期カルボニル / パイ共役系 |
研究開始時の研究の概要 |
サイクロトロンやシンクロトロンから生成される、スピン1/2のミュオンは、ほぼ完全にスピン分極しており、ミュオンから放出される陽電子を観測するmuSR分光法を用いると、高速のラジカル反応過程をモニターすることができる。本研究では、高周期カルボニル基に選択的にミュオニウムが付加することを利用して、通常の化学的手法では同定・解析が困難のためにこれまで検討例の極めて少ない、拡張パイ共役開殻分子種の創出を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究では、チオカルボニル(>C=S)をはじめとする高周期カルボニル基への選択的なミュオニウム付加を活用し、通常の化学的手法では同定・解析が困難のためにこれまで検討例の極めて少なかった、拡張パイ共役開殻分子種の創出を目的とする。 2022年度は、チオトロポンにふたつのベンゼン環を縮環した構造であるチオジベンゾスベレノンの固体状態mu-LCR(ミュオン準位交差共鳴)測定を完了した。その結果、2種類のミュオニウム付加体の存在が確定的となり、それぞれ、ミュオン超微細結合定数(hfc)が大きくて温度変化が顕著なラジカルと、ミュオンhfcが小さくて温度変化をほとんど示さないラジカルであった。ミュオンhfcが大きいラジカルは高い温度で生成量が多く、DFT計算の結果からパイ共役の度合いが大きいことが示唆された。このことは、高エネルギーのミュオンビームから生じた「軽い水素原子」に相当するミュオニウムが高エネルギー状態の常磁性分子種を容易に創り出せることを示している。一方で、ミュオンhfcの小さいラジカルは、チオジベンゾスベレノン本来のバタフライ型分子構造を反映したミュオニウム付加体である可能性が高いことがわかった。 チオジベンゾスベレノンのミュオニウム付加体に関する上記の結果を踏まえ、2022年度は7員環構造を8員環に変化させた環状チオケトンの合成に取り組んだ。Copeらの報告などを参考にして前駆体となる8員環ケトンを合成し、これを硫化することによって合成を達成した。得られたチオケトンの紫外可視スペクトルは、可視部のn-π*禁制遷移が予想よりも長波長側に現れ、また吸光係数も比較的大きいことがわかった。 チオケトンのほかに、イソニトリルについてもTF-muSR(横磁場ミュオンスピン回転)測定を試みた。その結果、ミュオニウム付加によるイミドイルラジカルの生成を明瞭に観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は、チオトロポンにふたつのベンゼン環を縮環した構造に相当するチオジベンゾスベレノンの固体状態mu-LCR(ミュオン準位交差共鳴)測定をJ-PARCにおいて実施した。データを解析した結果、35-300 Kでの温度領域で2種類のミュオニウム付加体の存在が確定的となり、それぞれ、ミュオン超微細結合定数(hfc)が大きくて温度変化が顕著なラジカルと、ミュオンhfcが小さくて温度変化をほとんど示さないラジカルであることを見出した。ミュオンhfcが大きいラジカルは高い温度で生成量が多く、DFT計算の結果からパイ共役の度合いが大きいことが示唆された。これは、高エネルギーのミュオンビームから生じた「軽い水素原子」に相当するミュオニウムが高エネルギー状態の常磁性分子種を容易に創り出せることを示している。一方で、ミュオンhfcの小さいラジカルは、チオジベンゾスベレノン本来のバタフライ型分子構造を反映したミュオニウム付加体である可能性が高いこともわかった。 チオジベンゾスベレノンのミュオニウム付加体に関する上記の結果を踏まえ、2022年度は7員環構造を8員環に変化させた環状チオケトンの合成に取り組んだ。Copeらの報告などを参考にして前駆体となる8員環ケトンを合成し、これを硫化することによって合成を達成した。得られたチオケトンの紫外可視スペクトルは、可視部のn-π*禁制遷移が予想よりも長波長側に現れ、また吸光係数も比較的大きいことがわかった。 さらに、チオケトンのほかに、イソニトリルについてもTF-muSR(横磁場ミュオンスピン回転)測定を試みた。その結果、ミュオニウム付加によるイミドイルラジカルの生成を観測することにはじめて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、新たに合成した8員環チオケトンの固体を用いたmu-LCR測定を行う予定である。これにより、チオジベンゾスベレノンのミュオニウム付加によって2種類のラジカル種が生成することについての詳細な解析が可能になる。しかしこのためには、測定実験に必要な量を合成する必要があり、合成効率の改善を図りながら実施する。また、チオジベンゾスベレノンの他のミュオニウム付加プロセスを確認するため、そして固体状態と溶液状態でのミュオニウム付加の差異を明らかにするために1テスラ程度の高磁場でのTF-muSRを実施する。 チオケトンに加えて、2023年度には非共役チオアミドのミュオニウム付加に関する検討を完了させる予定である。現在までのところ、固体状態において異常な構造をもつラジカル種が生成している可能性が高いという、これまでに報告例のない知見が得られていることから、この検討を完了させることは極めて意義が大きい。さらに、この知見を踏まえて、比較的安定性のたかいチオアミドを共役系に組み入れた分子を設計して合成し、muSR実験に備える。さらに、セレノアミドやテルロアミドの合成に着手する。
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