研究課題/領域番号 |
22K19051
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
楊井 伸浩 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90649740)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 量子センシング / 光励起三重項 / 多孔性金属錯体 / 光物性 / 量子ビット |
研究開始時の研究の概要 |
渡り鳥であるヨーロッパコマドリは量子コヒーレンス状態を利用して地磁気をセンシングすることで方角を知ることが出来ると考えられている。この室温かつ夾雑な生態環境において機能する自然界の量子センサーに着想を得て、多様な外部環境を室温付近でセンシング可能な分子性材料の構築を目指す。量子ビットとしては室温においても光で初期化可能な励起三重項を利用する。この分子性量子ビットを外部環境に対して応答させるため、ナノ細孔を有する多孔性金属錯体を用いる。分子性量子ビットを集積化した多孔性金属錯体の外部環境への応答性を調べることで、室温で駆動する量子センサーの構築に向けた設計指針を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
渡り鳥であるヨーロッパコマドリは量子コヒーレンス状態を利用して地磁気をセンシングすることで方角を知ることが出来ると考えられている。この室温かつ夾雑な生態環境において機能する自然界の量子センサーに着想を得て、本研究では多様な外部環境を室温付近で検出可能な分子性量子センシング材料の構築を目指している。しかし、これまで量子ビットとして働く有機分子の種類は限られ、量子センシングに用いた例も限られる。そこで本年度の研究では、外部刺激に対して柔軟に構造を変化させることが可能な多孔性金属錯体に室温で初期化が可能な光励起三重項分子を量子ビットとして導入した複合型量子センサーの開発を行った。 光励起三重子の中にはアセン化合物に代表されるように高い偏極率を示すものがあり、室温における高感度なセンシングの実現に向けて有利であると考えられる。これまで励起三重項のコヒーレンス時間(T2)は室温においても比較的長いことが知られていたが、それを量子センシングに用いた例はなかった。それはこれまで量子ビットが密な結晶中やガラス中で評価され、外部からセンシングのターゲット分子がアクセスできなかったためである。 そこでこの三重項量子ビットを外部環境に対して応答させるため、外部刺激に応答して構造を変化させることが出来る多孔性金属錯体を用いた。柔軟な構造を有する多孔性金属錯体の細孔中に三重項量子ビットを導入した複合型量子センサーの構築を行った。パルス光照射直後の時間分解電子スピン共鳴(ESR)測定により、この複合型量子センサーは多様な有機分子の導入によってコヒーレンス時間が変化し、量子化学センサーとして機能することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
構造を柔軟に変化させることが出来る多孔性金属錯体MIL-53中に色素分子としてジアザテトラセン(DAT)を少量導入したサンプルのパルスESR測定を行った。DATのみがドープされた際のコヒーレンス時間(T2)は0.1マイクロ秒であったのに対し、ベンゾフェノンやピリジンといったゲスト分子を更に導入することでT2が1マイクロ秒程度まで長くなるという興味深い結果が得られた。各種ESR、分光測定より、DATの運動性が変化していることが主な原因であると示唆された。多様なゲストの導入に対してDATのコヒーレンス時間が変化したことから、有機化合物に対する新しい量子センサーの構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
より高度かつ多様な量子センシング材料の構築に向け、量子ビットを密に集積化した多孔性金属錯体の構築を行う。アセン系量子ビットにカルボン酸などの金属配位部位を修飾し、ZrイオンやZnイオンなどの反磁性金属イオンと組み合わせることで多孔性金属錯体を構築する。配位子と金属イオンの組み合わせを変化させることで量子ビットの集積構造を精密に制御する。得られた量子ビット集積型金属錯体の超高速分光や時間分解ESR測定により量子ビットの初期化過程について理解を深め、更に外部刺激への応答性を評価していく。
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