研究課題/領域番号 |
22K19081
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分36:無機材料化学、エネルギー関連化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石谷 治 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272282)
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研究分担者 |
玉置 悠祐 東京工業大学, 理学院, 助教 (10752389)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 熱活性化遅延蛍光 / レドックス光増感剤 / 光触媒反応 / CO2還元 |
研究開始時の研究の概要 |
発光材料として開発されたTADFを発する有機分子は、S1とT1のエネルギー差が小さいという性質から、酸化還元反応を駆動する光増感剤としても光エネルギーの有効利用の観点で有望である。本研究では、TADF分子をCO2還元光触媒の光増感剤として最適化することを目指す。そのためTADF分子の項間交差を加速するための分子設計指針を明らかにする。その手段の一つとして金属錯体を連結し、重原子効果を利用する。また短い励起寿命のため光増感剤としての性能が低い金属錯体に、3重項励起エネルギーのリザーバーとして有機分子を直結し、高い光増感機能を示す有機分子-金属複合体を開発する。
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研究実績の概要 |
電子ドナー部としてジフェニルアミン基またはカルバゾリル基、電子アクセプター部としてシアノベンゼンを有する5種類の熱活性化遅延蛍光 (TADF) 型有機分子 (4DPAIPN, 3DPAFIPN, 5CzBN, 4CzIPN, 3CzClIPN) を合成し、光物性・電気化学的性質を調査した。 いずれの分子も可視光吸収および数マイクロ秒~数十マイクロ秒の長いTADFの励起寿命と、レドックス光増感剤に適した性質を示した。マンガン(I)触媒と組み合わせてCO2還元光触媒反応を行ったところ、4DPAIPN, 3DPAFIPN, 5CzBNの系で反応が進行し、COとHCOOHが生成した。一方、4CzIPNと3CzClIPNを用いた場合は、CO2還元反応はほとんど進行しなかった。この原因は、これらの増感剤の1電子還元種の還元力が不足しており、マンガン(I)触媒への電子移動が進行しなかったためであることが分かった。 最も長波長までの可視光 (λabs > 520 nm) を吸収し、還元力の強い (E1/2red = -2.08 V vs. Fc+/Fc) 4DPAIPNを用いた系が、今回用いた中で最も優れた光触媒性能を示した。470 nmの可視光を照射した場合、ターンオーバー数TONCO+HCOOH > 650、量子収率ΦCO+HCOOH = 23%を示した。これは、有機分子光増感剤を用いた系のうちで最高値である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TADF型の有機分子がレドックス光増感剤として機能し、CO2還元光触媒反応を駆動することを見出した。マンガン(I)触媒と組み合わせて光触媒反応を効率良く進行させるには、強い可視光吸収と同時に、その1電子還元種が強い還元力を有することが必要であることが分かった。4DPAIPNとマンガン(I)触媒を用いることで、有機分子光増感剤を用いたCO2還元光触媒反応において世界最高性能を達成することに成功した。 今回用いたTADF型分子は、三重項励起状態へと緩和する前に一重項励起状態から失活する過程(即時蛍光)が存在しており、その励起寿命が数ナノ秒~数十ナノ秒であった。4DPAIPNの光誘起電子移動過程について詳細に解析したところ、三重項励起状態だけではなく、一重項励起状態も還元剤による還元的消光を受けることが分かった。一重項励起状態からの電子移動過程で生成する一重項イオンペアーからの逆電子移動は高速で進行している可能性が高いので、その結果として光触媒反応効率を低下させている可能性が高い。これらの実験事実と考察より、電位移動を含む励起1重項からの失活過程を抑えることで、今後さらに光触媒反応の効率を改善することができることも明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
三重項励起状態への項間交差がまだ遅いため、一重項励起状態が還元されてしまうという問題が残っている。これを解決するため、以下の方法を検討する予定である。 ・一重項励起状態からの失活過程を低速化するために還元剤を検討することで、さらなる光触媒反応効率の向上を目指す。・TADF型有機分子を光増感剤として最適化するため、項間交差過程を加速できる分子設計を探索する。・TADF型有機分子に金属錯体を連結し、中心金属の重原子効果により項間交差過程を加速する。そのための連結方法や金属の種類等の分子設計を明らかにする。金属錯体として、CO2還元触媒能を有するルテニウム(II)錯体やレニウム(I)錯体を用いることで、重原子効果と触媒機能を共に付与した超分子光触媒の開発が期待できる。・犠牲還元剤の濃度等の反応条件を最適化し、三重項励起状態は還元されるが、一重項励起状態は還元されない条件を探索する。これにより、光触媒性能の向上を狙う。 また三重項励起状態への直接遷移 (S-T吸収) を発現する金属錯体光増感剤に有機分子を連結し、三重項エネルギーリザーバーとして用いることで、可視光吸収と長い励起寿命を併せもつレドックス光増感剤の開発を目指す。
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