研究課題/領域番号 |
22K19091
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分36:無機材料化学、エネルギー関連化学およびその関連分野
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
梅山 有和 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (30378806)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 非フラーレンアアクセプター / チエノアザコロネン / 共役系高分子 / 一重項励起子寿命 / ブロモ化 / 位置選択的 / 非フラーレンアクセプター / バルクヘテロ接合 |
研究開始時の研究の概要 |
有機薄膜太陽電池(OPV)は、軽量・低コスト・環境低負荷などの利点から次世代太陽電池として期待を集めているが、素子作製の低い再現性や、低い安定性などが実用化のネックとなっている。本研究では、非フラーレンアクセプター(NFA)材料において、エネルギーギャップ則から生じるジレンマを克服するという革新的アプローチにより、OPV光活性層中のナノスケール相分離構造を不要にする。それにより、高効率・高安定性・高再現性を兼ね備えたOPVを実現する。
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研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池(OPV)は、有機半導体材料を用いるがゆえに、軽量かつフレキシブルにできる、印刷プロセスが適用できる、鉛などの有害物質が不要である、などの特徴をもつ。このような利点を活かして、シリコン太陽電池では困難な用途においての実用化が可能であり、次世代のエネルギーデバイスとして期待されている。しかし、変換効率が比較的低いことに加え、素子作製の低い再現性や、低い安定性などがOPVの実用化のネックとなっている。本研究では、それらの課題を克服するため、OPVの非フラーレンアクセプター(NFA)材料において、エネルギーギャップ則から生じるジレンマを克服するというアプローチにより、OPV光活性層中のナノスケール相分離構造を不要にする材料を開発することを目的としている。 これまでに申請者らは、チオフェン連結チエノアザコロネン構造を含むNFA(S-TACIC)を報告してきた。S-TACICは、薄膜状態で小さなバンドギャップと長寿命一重項励起子を両立させることがわかっている。また最近、チエノアザコロネンに連結したチオフェンをセレノフェンに置き換えたNFA(Se-TACIC)を合成した。しかしながら、Se-TACIC薄膜では、一重項励起子が短寿命化することがわかった。一方で申請者らは、末端ユニットである1,1-ジシアノメチレン-3-インダノン(IC)のδあるいはγ位が位置選択的にブロモ化されたITICを合成し、そのOPV特性を報告している。そこで本研究では、S-TACICの末端ICが位置選択的にブロモ化されたTACICBr-δおよびTACICBr-γを合成し、その諸物性およびOPV性能評価を行った。それにより、分子間相互作用が最適化され、OPV性能が向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、TACICの末端が位置選択的にブロモ化されたTACICBr-δおよびTACICBr-γを合成し、その諸物性および有機薄膜太陽電池(OPV)性能評価を行った。TACICBr-δ、TACICBr-γあるいはTACICを電子受容体、共役系高分子PBDB-Tを電子供与体として用いてOPV素子の作製と評価を行ったところ、TACICBr-δを用いた場合には、TACICを用いた場合と比較して高い変換効率(PCE)が達成された(11.4%)。一方、TACICBr-γを用いた素子では、PCEが低下した(4.34%)。PBDB-T:TACICBr-γ薄膜表面の原子間力顕微鏡(AFM)測定を行ったところ、PBDB-T:TACICBr-δやPBDB-T:TACICでは見られないマイクロメートルサイズの凝集体が確認された。TACICBr-γの溶解性が低いために、PBDB-Tとの複合薄膜中にTACICBr-γの凝集体が形成された。TACICBr-γの比較的長い一重項励起子寿命(1.3 ns)により励起子拡散効率(90%)は比較的高かったものの、電荷の輸送が妨げられたことにより、短絡電流密度や曲線因子の低下が引き起こされたと考えられる。このように、Br導入位置によるTACICの凝集性の変化がOPV素子性能に大きな影響を与えることがわかった。 これらの成果は研究実施計画にしたがって得られたものであり、研究はおおむね順調に進展していると言える。末端基を位置選択的にブロモ化することにより、分子間相互作用が最適化され、OPV性能が向上することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、TACIC系NFAの末端基を位置選択的にクロロ化あるいはヨード化することにより、分子間相互作用が最適化されたNFAを創出する。 一方、TACICはNFAの主鎖骨格が縮環構造で繋がれた構造を有している。そのような構造は、平面性が高く、電荷輸送に優れているという利点を有するが、一般に合成が煩雑である。そこで最近では主鎖骨格が単結合で繋がれつつも高い平面性を有する非縮環NFAが注目を集めている。今後は、フェナジンやキノキサリンなどのユニットが単結合で繋がれた構造を有する非縮環型NFAを新規に合成することを目指す。 これらの新規NFAと共役系高分子ドナーとの複合薄膜に対して、各種顕微鏡観察や時間分解分光測定などにより、その相分離構造と光物性の相関を明らかにする。さらに、その複合薄膜を光活性層に用いたOPV素子を構築し、変換効率やデバイス安定性の評価を行う。また、複合薄膜作製条件がデバイス性能に与える影響を調べ、デバイス性能の再現性の取りやすさの評価を行う。
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