研究課題/領域番号 |
22K19098
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
松尾 一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40342852)
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研究分担者 |
平林 義雄 順天堂大学, 大学院医学研究科, 客員教授 (90106435)
石井 希実 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (60895275)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 糖脂質 / グリコシレーション / グルコース / リン酸エステル / PtdGlc / PtsGlc |
研究開始時の研究の概要 |
「糖-リン酸-脂質」からなる糖化リン脂質分子は、単純な構造であるが、糖-リン酸構造の構築や特異な物性により合成が困難なため、生物機能解析に必要な糖化脂質サンプルや官能基化された分子プローブの合成は限られていた。そこで水溶液中、糖とリン脂質とを1段階で結合させる新規糖-リン脂質結合反応を開発し、さらに、この反応を固相合成へと展開することで、様々な官能基を導入した糖化リン脂質分子プローブを効率的に合成する。そして、これらプローブを用いた化学生物学的研究を展開することで糖化リン脂質の機能解明を目指す。
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研究実績の概要 |
「糖-リン酸-脂質」からなる糖化リン脂質分子(PtdGlc)の簡便な合成法の開発と得られたPtdGlcをスタンダード分子として利用した質量分析解析によるPtdGlcの生合成経路の解明を検討した。水溶液中、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)によりグルコース1位を選択的に活性化、ホスファチジン酸(PA)と反応させる新規ワンステップ糖-リン脂質合成反応の反応条件を精査し、反応系中にグルコースとDMCを順次加えることで反応効率80%以上でPtdGlcが生成することをLC-MSにより確認した。反応混合物から逆相の固相カートリッジとシリカゲル精製を組み合わせることで純度の高いPtdGlcを得た。この精製法をヒントに、固相上に担持させたPAに対してDMCで活性化したグルコースを反応させた結果、固相上でも反応が進行することを見出した。種々固相担体を検討した結果、固相の種類によって反応性に大きな差があることが明らかになった。本反応条件により、アシル鎖長の異なるPtdGlcや修飾したグルコースを有するPtdGlcが簡便に合成できることを確認した。 一方、化学合成により得られた種々のPtdGlcを用いてPtdGlcの生合成経路の解析を行なった。その結果、飽和型脂肪酸を有するPA(18:0/20:0)とPtdGlc(18:0/20:0)を用いたLC-MS解析により、小胞体内のグルコース転移酵素(UGGT2)にPtdGlc合成活性が有ることを新たに見出し、PtdGlcの生合成経路を明らかにした。UGGT2は不飽和型脂肪酸(C18:1やC20:4)からなるPAに対しては糖転移活性を示さないことから、UGGT2は飽和型脂肪酸による小胞体ストレス誘導を回避する新たなストレス応答機構に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の主要部分について以下の進捗があった 1)水溶液中、DMCによりグルコース1位を選択的に活性化、PAと反応させる新規ワンステップ糖-リン脂質合成法を確立した。本法が様々な組成のPAや糖部分もグルコースに限定されず、様々な単糖や化学修飾したグルコースにも応用できることを明らかにした。2)PtdGlcの固相合成法を確立したことで、アシル鎖長の異なるPtdGlcやアジド基を導入した修飾グルコースを有するPtdGlcが簡便に合成できることを確認し、糖化リン脂質分子の分子プローブ化に目処がたった。 3)本法により、質量分析の内部標準物質として利用可能なPtdGlc誘導体を、安定同位体標識グルコースや安定同位体標識PAを利用することで、一段階の反応で容易に得ることができたため、生体分子中のPtdGlcの定量解析を可能にした。 4)化学合成PtdGlcや安定同位体PtdGlc誘導体をスタンダード分子として利用することで、PtdGlcの生合成経路に関与するグルコース転移酵素(UGGT2)の機能を明らかにすることができた。以上の結果は、本課題の構想が妥当であることを示すものである。本研究によりPtdGlcの合成が可能となったことで、これまで解析ができなかったPtdGlcの生体内分布やアシル鎖長の差異などによる物理化学的な解析の共同研究も始まっている。糖化リン脂質分子の生物機能探索研究も進行しており、強いインパクトが期待できる。 以上より、進捗は順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)PtdGlcの化学合成に関しては今年度、固相合成法によるPtdGlcの合成法を確立したが、来年度は、さらにマイクロ流路に繋げることで、糖の活性化、固相上での反応、生成までを一段階で行えるようシステム化し、PtdGlcのさらなる簡便合成を目指す。 (2)アシル鎖長の異なるPtdGlcやアジド基を有するPtdGlc(N3-PtdGlc)が簡便に合成できるようになり、現在、N3-PtdGlc(18:0/20:0)をリポソームに組み込み、リポソーム上でのクリック反応による蛍光標識に成功している。N3-PtdGlcは長鎖飽和脂肪酸であるためリポソーム上に局在していた。今後はアシル鎖と膜局在の関係を明らかにするなど、PtdGlcの応用利用に発展させる。 (3)N3-PtdGlcを足がかりに、光親和性プローブへと導き、PtdGlc分子を認識する分子を網羅的に取得するケミカルバイオロジー研究を展開する。これまでにも神経細胞軸索ガイダンスやアルツハイマーなどの生物機能が、GPCRを介して発現するなどの報告がなされているため、新規PtdGlc認識分子を同定することで、PtdGlcをめぐる生命現象を解明する。 (4)PtdGlcの生合成経路の解明について、試験管内でのUGGT2の酵素活性は極めて低く、高感度なLC-MSによる測定が必須である。しかし、現状は、10サンプル程度の測定で、LCカラムの分離能力が失われてしまう問題点が明らかとなった。来年度は、より簡便なUGGT2活性検出が可能な蛍光ラベル化基質を開発し、ERストレスとUGGT2の関係性を明確にすることで、新規ERストレス応答とUGGT2/PtdGlc生成機構として証拠を固め、論文発表につなげる。
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