研究課題/領域番号 |
22K19143
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山下 哲 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70361186)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 天然ゴム / イソプレノイド / 無細胞翻訳系 |
研究開始時の研究の概要 |
天然ゴムは非常に高分子量のポリイソプレンであり,ゴムノキの樹液で作られ,ゴム粒子と呼ばれる膜に囲まれたナノ粒子となり,乳化している(この状態をラテックスと呼ぶ)。ゴム粒子は,その大きさによって,粒子表面に存在するゴム合成酵素の活性に強弱があることがわかってきた。また,ゴム粒子を全体的にコーティングする役割の膜タンパク質の量とも相関が見られている。これまでの研究から,この膜タンパク質によって膜が乱され,ゴム合成酵素の活性が高まることが予想された。また,ゴム粒子内部の状態も重要と考え,これらを検証することで,天然ゴムができる仕組みを理解することを目的としている。
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研究実績の概要 |
本研究は,天然ゴム生合成の未解決問題である「ゴム合成酵素の活性発現機構」と「ゴム分子量制御」を,ゴム貯蔵器官であるゴム粒子に存在する膜タンパク質・脂質およびゴム粒子内部のダイナミクスをキーとして解明することを目的としている。天然ゴムは植物が蓄積する疎水性高分子であり,平均分子量が100万に達するポリイソプレンである。天然ゴムはパラゴムノキの樹液として採取され,ゴム粒子(RP)と呼ばれる脂質小胞に格納されている。また,ゴム合成酵素はRPの膜表面にあり,モノマーを与えると,新規な重合反応により生じたゴムが膜を横切ってRP内部へ追加される。ラテックスには様々なサイズのRPが存在するが,平均粒径が小さいゴム粒子は高分子量ゴムを含み,表面酵素によるゴム重合活性が高い。それに対し,平均粒径がより大きいゴム粒子は,低分子量ゴムを含んでおり,表面酵素の重合活性が低い。このことから,ゴム合成酵素の活性は,膜に存在する因子や,膜の特性に依存して,変動している可能性が高い。RPの膜には多くの膜結合性タンパク質が存在するが,Rubber Elongation Factor(REF)が最も多量に含まれる。REFをRPやリポソームへ再構成すると,膜粒子が分裂する現象が観察されているため,生体膜の変形と出芽を誘発する因子であると考えられる。 初年度の実績として,組換え型REFの発現と精製を行った。また,界面活性剤との混合ミセルとして精製したREFは,リポソームとの混合により,REFに脂質が吸着し,ベシクルが壊れることを確認した。また,その過程を高速AFMで再現性良く観察できることがわかった。REFによるゴム合成酵素の活性化機構の解明のため,15NラベルしたREFを調製し,精製を試みている。今後,ゴム合成酵素との共存による活性化機構と,その際の相互作用をNMR等を利用して解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パラゴムノキのゴム粒子に多量に存在する膜タンパク質であるREFの組み換え体を大腸菌内でインクルージョンボディとして発現させ,界面活性剤を用いたリフォールディングにより,可溶化することができ,高純度に精製する手法を確立した。また,REFの界面活性剤との混合ミセルとしての精製品について,リポソームなどの脂質ベシクルとの混合により,ベシクルの状態をアッセイしたところ,REFに脂質が著しく吸着し,ベシクルが崩壊したことが確認された。また,以前に予備的に測定していた高速AFMによる,REFの脂質膜細分化活性についても,上記の界面活性剤混合ミセルの状態で,再現性良く観察できることを確認した。さらに,膜上でのREFの状態や,ゴム合成酵素との相互作用を解析するために,15NラベルしたREFの発現と精製を検討した。M9最小培地による発現量はやや低下したものの,1リットルあたりの培養によって,上記の手法と同様にインクルージョンボディとして発現できることがわかった。また,NMR測定に顕著に影響のないドデシルマルトシドの存在下で15NラベルREFのリフォールディングを試み,その後,二段階のカラムクロマトグラフィーにより,高度に均一化した標品を得る手法を確立した。現在,予備的にNMR測定を進めており,今後は,脂質との共存下におけるREFの状態変化を確認するために,二次元スペクトルの帰属を試みる。以上により,ゴム粒子膜のダイナミクスに関連すると思われるREFのタンパク質純品の取得と,脂質とのアッセイならびにそのリアルタイムナノ動態の観察が進んでいる。また,よりミクロな視点でREFと膜の相互作用や,REF自体の構造的な変容を調べるための準備も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究において,REFの界面活性剤ミセルの状態をNMRで確認しながら,他の界面活性剤においてはその溶液中ミセル状態の安定性がどのように変化するかについて,見極める必要がある。そのため,ドデシルマルトシド以外の基本骨格をもつ界面活性剤で,リフォールディングおよび精製が可能かどうか,確認する。それと関連して,現在はダイズ由来のフォスファチジルコリンを主とした脂質を用いてベシクル調製や,REFとの混合アッセイおよび高速AFM観察を行っているが,こちらにも他の組成の脂質による膜担体を使用し,これまでとREFの挙動や膜細分化活性が異なるかどうかについて,検討したい。さらに,安定同位体ラベルしたREFについては,ドデシルマルトシドとの複合体が15Nラベルによる二次元スペクトルをどのように示すかを早期に見極め,全体的な二次元スポットの帰属が可能かどうか判断していく予定である。その結果によっては,精製品の状態をチューニングすることによって,最適な二次元スペクトルが得られる条件を探索する必要もあると考えられる。AIを用いた構造予測手法によると,REFは分子量1万5千の小さい蛋白質であり,全体の構造のほとんどがアルファへリックスで構成されていることが予想できている。しかしながら,それらの二次構造がどのように相互作用するかどうかについては,結晶化が難しいため,情報が得られていない。結晶化についても引き続き検討していくが,REFが二次構造を特定の位置に固定しない可動性の高い膜タンパク質であるばあい,全体のアミノ酸残基の帰属が難しくなることも予想されるため,共同研究者らによるREFの重要ドメインの推定も参考にしながら,重要な部位の局所帰属を目指すことも視野に入れる。
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