研究課題/領域番号 |
22K19176
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹本 大吾 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30456587)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 多犯性病原菌 / 灰色かび病菌 / ファイトアレキシン / 植物病原菌 / 抗菌物質 |
研究開始時の研究の概要 |
極めて広い宿主範囲をもつ多犯性の病原菌が知られている。代表的な多犯性植物病原菌である灰色かび病菌 (Botrytis cinerea) は、果物、野菜を含む400種以上の植物に感染することが報告されている。この様な多犯性の病原菌はどの様な感染戦略で、多様な植物の抵抗性を打破して感染を確立しているのだろうか? 本研究では、1) 灰色かび病菌の抗菌物質の解毒化や耐性化に必要な遺伝子群の機能解析、2) 灰色かび病菌が植物の抗菌物質を認識するメカニズムの解明、3) 灰色かび病菌の病原性関連遺伝子群の起源の解析、を進めることで、多犯性病原菌のもつ特異な感染機構とその進化機構を解明する。
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研究実績の概要 |
灰色かび病菌Botrytis cinereaは、1,600種以上の植物に感染することが報告されている代表的な多犯性植物病原菌である。本研究では、1) 灰色かび病菌の抗菌物質の解毒化や耐性化に必要な遺伝子群の機能解析、2) 灰色かび病菌が植物の抗菌物質を認識するメカニズムの解明、3) 灰色かび病菌の病原性関連遺伝子群の起源の解析、を進めることで、多犯性病原菌のもつ特異な感染機構とその進化機構を解明することを目指している。本年度は、カプシジオールの解毒化酵素として特定されたBcCPDH遺伝子のプロモーターの制御下でルシフェラーゼを発現するレポーター株を作出し、昨年度確立したアグロバクテリウムを用いた形質転換法を用いて、カプシジオールの応答性が低下した変異株のスクリーニングを行った。その結果、カプシジオールに応答したレポーターの活性化が低下した変異株を数株獲得した。またこれら変異株の全ゲノム配列の解析により、破壊されている遺伝子を特定した。今後、これら遺伝子の機能解析を進める予定である。また、灰色かび病菌によるリシチン(ジャガイモやトマトのファイトアレキシン)の解毒化機構について詳細に解析を行った。その結果、灰色かび病菌による6種類のリシチン代謝物の構造が特定され、灰色かび病菌は少なくとも5つのリシチン代謝経路を持っていることが明らかとなった。また、得られた代謝物はすべて抗菌活性が失われていたことから、灰色かび病菌は多様なリシチン解毒化機構をもっていることが示された。この解毒化は灰色かび病菌以外のBotrytis属菌においても検出されたが、他のBotrytis属菌での活性は比較的低かった。この結果は、リシチン耐性化については、灰色かび病菌は祖先種が持っていた解毒化機構をより増強することでリシチンを生産する植物への感染力を向上させたことを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アグロバクテリウムを用いた形質転換法によるランダム遺伝子破壊を利用したスクリーニングによって、灰色かび病菌のカプシジオール応答性が低下する複数の変異株を取得した。得られた変異株は植物に対する病原性も低下しており、カプシジオール認識が病原性に重要であることが示唆された。また、破壊されている遺伝子のリシークエンシングにより、破壊されている遺伝子を特定することが出来た。今後、さらなる検証が必要であるが、灰色かび病菌のカプシジオール認識機構を解明するための重要な進展であり、2024年度に破壊されていた遺伝子の機能解析を進める計画である。また、灰色かび病菌によるリシチンの代謝過程についてはその全貌を解明することに成功し、論文発表を行なった。今後、リシチンの解毒化酵素遺伝子の特定、他のBotrytisにおける解毒化酵素の分布や活性化機構の比較解析など、灰色かび病菌の多犯性化機構を解明するための重要なデータが得られた。これらの進行状況から、おおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き1) 灰色かび病菌の抗菌物質の解毒化や耐性化に必要な遺伝子群の機能解析、2) 灰色かび病菌が植物の抗菌物質を認識するメカニズムの解明、3) 灰色かび病菌の病原性関連遺伝子群の起源の解析の3つの目標を軸に研究を進める。 1) リシチンの解毒化過程は基本的には酸化反応であったため、リシチン処理時に発現が活性する遺伝子のリストからの解毒化酵素遺伝子の特定を目指す。これまでと同様にa. 抗菌物質耐性の無いエンドファイト菌に候補遺伝子を導入、抗菌物質の解毒・耐性化における機能の調査する、b. 候補遺伝子の破壊株を作出し、リシチン耐性およびリシチンを生産する植物への病原性における役割を評価する、という2つの実験法を併用する。 2) 昨年度に引き続き、カプシジオール応答性遺伝子のプロモーター活性をLucマーカーで検出する形質転換体を用いて、カプシジオール応答性が低下した変異株の単離を進めることで、灰色かび病菌のカプシジオール応答機構の解明を目指す。また、公開されている灰色かび病菌のRNAseqデータを解析することで、BcCPDHの活性化条件や1)で見出したリシチン解毒化酵素遺伝子が活性化される条件についての解析も進める。 3)リシチン解毒酵素遺伝子やカプシジオール応答に必要は遺伝子について、病原性因子が進化の過程でどのように獲得されたか明らかにするため、灰色かび病菌と同属の宿主範囲の狭いBotrytis菌や比較的に近縁な多犯性病原菌である菌核病菌における相同遺伝子の分布を調査する。a. 近縁種間で保存されている垂直伝播によって維持されてきた遺伝子群については、プロモータ領域の配列の比較など、遺伝子座の構造を比較する。b. 遠縁の微生物から水平伝播によって獲得された遺伝子は、その起源と移行した時代を明らかにする。これらの解析から、灰色かび病菌が多犯性菌となった進化プロセスの解明を目指す。
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