研究課題/領域番号 |
22K19194
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (90423029)
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研究分担者 |
先崎 理之 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (10845514)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 河床間隙域 / 河畔林利用 / 昆虫移動 / 音・光 / 生物多様性保全 / 環境音 / 無脊椎動物 / 河川 / 行動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、河川生態学とサウンドスケープ生態学の融合へ向けた実証例の発見を試みる。河川生態系は河畔との強い相互作用によりその機能や構造が駆動されている。この相互作用を担う最重要要素は水圏と陸圏の境界線を越えた生物移動である。水圏(河川)・陸圏(河畔林)両者の食物網と生物多様性に重要である流水性の水生昆虫成虫の河川・河畔間の繁殖飛翔移動に着目し、①移動距離、方向およびタイミングを定量化、さらに②河川への回帰移動に対して河川流水音が及ぼす影響を把握することで、③河川生物の生活史移動における音環境の重要性を実証的に示す。回帰移動方向決定において水生昆虫は河川流水音に依存しているとの仮説を検証する。
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研究実績の概要 |
本研究は、流水性の水生昆虫の水圏(河川)と陸圏(河畔)間の飛翔移動に着目し、回帰移動方向決定において水生昆虫は河川流水音に依存するとの仮説を検証することを目的とする.本年度は、北海道東部札内川を集中調査地とした過去のデータと現地で採取された昆虫個体生体を用いながら、以下2つの項目を明らかにした. 第一に、河畔域において羽化トラップ(受動的捕獲型のマレーゼトラップおよび粘着型の粘着トラップ)を設置し、異なる季節でのサンプル回収・分析を行うとともに、既存データの整理を通して羽化個体の科レベルでの林内分布パターンを二次元(横断方向および垂直方向)定量化した.これにより、河川地下間隙域に特に依存度の高いカワゲラ目昆虫(イシカリミドリカワゲラ)が最も河川から離れた50m-100mの範囲に分布することが定量的に示された.複数種の水生昆虫成虫の河畔林生息状況を2次元で可視化した世界で初めての事例である. 第二に、音以外の環境条件を一定にした室内防音室において約5mの長さの実験ケージを繰り返し4で作成し、野外で捕獲した水生昆虫成虫(イシカリミドリカワゲラ)の河川音(野外で録音した実河川の流水音)への応答を実験的に検証した.一定明度環境下で3日程度の観測を繰り返した結果、統計的に有意に多数の個体が河川音源側に移動することを確認した.世界で初めて河川音が水生昆虫成虫の動態に影響を与えることを示した結果である.一方で、音源に移動しない個体も見られたことから、音が行動に対して絶対的な影響を与えるわけではない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画に従って、測定が実施できている.特に、対象種として設定したイシカリミドリカワゲラが最も河川から遠い位置に分布することが明らかにされたことは重要である.このことは、本種が河川への回帰行動おいて視覚的な情報に依存することが困難であることを示しており、その他の情報を河川回帰行動において利用する生態学的意義を求める根拠になる.また、河川音に対して本種が明瞭に応答したことは予測と調和的な結果である.一方で、生体を十分な個体数、野外から輸送し、実験環境下で維持することは極めて困難であることが確認できた.また、ここまでの成果を目的に対して結論へと結びつけるには、河川音への応答が、音一般への応答なのか、河川音への特異的な応答なのかを分離することが必要である点が認識された.
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今後の研究の推進方策 |
目的を達成するように研究活動を以下のように進める、また、最終年度であるので成果の総括を行い学会発表・論文発表に努める。 イシカリミドリカワゲラ1種に注力し、北海道東部札内川において本種羽化が最盛期となる6月上旬に繰り返し生体捕獲、移送、音源を用いた室内実験を行う(5回を予定).この際、河川音源に加えて、河川音でないノイズ(自動車走行音など)を用いて、行動特性に対する影響を定量的に把握する.予測では、ノイズに対しては行動変容が生起しない.少なくとも、9月の応用生態工学大会および3月の生態学会での成果発表およびハイインパクトな国際誌に原著論文としての発表を行う.
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