研究課題/領域番号 |
22K19203
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
堀川 祥生 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90637711)
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研究分担者 |
四方 俊幸 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10178858)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | セルロース / マトリックス成分 / 階層構造 / 水 / 赤外分光分析 / 細胞壁 / リグニン / 水和 |
研究開始時の研究の概要 |
松かさはその内側に産生された種子を乾燥時に遠くへ飛ばすため、雨天時には閉じ、晴天時には開くように設計されている。この運動機構は細胞壁に堆積する配向したセルロースミクロフィブリルと水との相互作用で制御されていることが従来から知られている。しかしリグニンといった細胞壁に沈着しているマトリックス成分の寄与については未だ明らかにされていない。本研究では新たな化学成分分離技術と構造解析法を組み合わせることで松かさ鱗片の運動機構の解明に取り組む。
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研究実績の概要 |
マツ科マツ属の球果である「松かさ」は種子を遠方へと散布する生存戦略のため湿度に応じて開閉する。松かさ鱗片の基部は2層構造を形成しており、一方は湿度に応じて不変であるが、他方は湿度に応じて伸縮する。後者は独特な配向をしたセルロースが細胞壁に堆積することで特異的な機能を発現している。しかし、細胞壁成分はセルロースだけでなく、マトリックス成分もあるが、その役割については未だ解明されていない。また開閉運動へとエネルギーを伝達するセルロース―水の相互作用やその粘弾性についても不明なままである。したがって、本研究では特定の構成成分のみを除去する前処理技術を駆使し、松かさの屈曲機構の解明を目的とする。 2022年度は松かさ鱗片に対し、その階層構造を維持したまま非セルロース成分を除去する化学処理条件の最適化を図った。エチレングリコールを用いたアルコリシスについて検討したところ、効果的にマトリックス成分を除去する条件を見出した。さらに条件に応じて構成成分を制御できることも明らかとなった。加えて、亜塩素酸ソーダ処理を行うことで、形態を維持したままほぼ完全に脱色され非セルロース成分がフリーな鱗片の調製に成功した。次に組織・細胞構造から微細構造に至る階層増構造評価を行った。各種顕微鏡観察およびX線回折測定により、細胞構造からセルロースミクロフィブリルの配向および結晶構造も維持されていることを確認した。以上から、マクロからミクロにまでおよぶ各段階の構造を維持したまま非セルロース成分を選択的に除いた松かさ鱗片の調製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験試料はアカマツ(Pinus densiflora)の松かさを用いた。試料を採取し、その鱗片をナイフで切り出した。鱗片を構成するマトリックス成分の影響を理解するため、セルロースを残したまま、非セルロース成分を除去するため化学処理を施した。耐圧管に試料をセットし、アルコリシスを行った。反応溶媒は硫酸を添加したエチレングリコール、そして処理温度や反応時間について検討した。その結果、処理条件によって色彩が変化し、厳しい条件ほど黒褐色となった。検討の結果、反応温度が150 ℃のアルコリシス試料を用意し、固形残渣を回収して超純水で洗浄した。さらに亜塩素酸ソーダ処理を行ったところ、黒褐色の鱗片が形態を維持したまま徐々に脱色され、最終的には完全に白色となった。 得られた試料を赤外分光分析や構成成分分析で成分評価を実施した結果、ほぼ純粋なセルロース試料であった。鱗片の形態は維持されていたが内部構造については不明なため、X線CTに供したところ、未処理同様に配列した細胞が確認された。屈曲において非常に重要となるセルロースの配向性をX線回折測定により評価した。未処理鱗片の基部において厚壁組織の細胞壁ではセルロースミクロフィブリルが直行配向しているため、十字タイプの二次元回折パターンが得られる。アルコリシスおよび亜塩素酸ソーダ処理した鱗片でも同様のパターンが得られたため、ミクロフィブリルの配向が保持されていることが確認された。さらにセルロースの結晶構造およびミクロフィブリルの形態も大きく変化していなかった。したがって、最適化した前処理によって松かさ鱗片の階層構造を維持しながら非セルロース成分を除去に成功し、屈曲機構の解明に繋がる重要な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は湿度環境に応じた松かさ鱗片の挙動を解析する。水との相互作用について調べるため、未処理および脱マトリックス処理した鱗片について、オーブン乾燥および凍結乾燥を行い、屈曲角を定量的に評価する。また湿度を変化させた場合の屈曲特性に加え、その可逆性についても解析する。 2022年度に実施したアルコリシスに関する成果から、条件を変化させることによって構成成分量が変動する。したがって、マトリックス成分量が異なる鱗片を調製し、いずれの試料においてもマクロからミクロにまでいたる階層構造を評価する。その上で、マトリックス成分量と屈曲特性についての知見を収集する。集積したデータを体系的に解釈し、湿度に応じた松かさにおけるマトリックス成分が果たす役割の解明を目指す。
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