研究課題/領域番号 |
22K19218
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小川 哲司 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70386598)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 深層ニューラルネットワーク / 機械学習 / 海況シミュレーション / 漁場状態監視 / マルソウダ曳縄漁 |
研究開始時の研究の概要 |
マルソウダ曳縄漁を対象とした漁場監視・予測システムの開発を通じ,人工知能システムと漁業従事者が協調的に進化するための技術的基盤を確立することを目指す.そのために,1)漁師の経験や海洋物理学の知見を陽に組み込むことで予測の根拠を漁師にとって直感的に理解可能にする予測モデルの構成方法や監視インタフェースの設計,2)日々の操業中に得られるデータを効率的に活用して監視システムを持続的に成長させる方法論を,パターン認識,海況シミュレーション,水産業の専門家からなる分野横断チームにより確立する.
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研究実績の概要 |
【成果の具体的内容】 本研究では,マルソウダ曳縄漁を対象として,(WP-1)漁場の状態を監視・説明可能にする基本技術や監視インタフェース設計,(WP-2)日々の操業中に得られるデータを効率的に活用して監視システムを持続的に成長させる方法論について検討を行っている. 2022年度は,主に(WP-1)として,気象・海況情報から漁場の状態を高精度に推定し,漁師に効果的に提示する技術を開発した.網羅的な観測を必要としない漁場監視モデリングとして,気象情報(気温や風速等)と海況情報(海水温,塩分濃度,潮流等)から漁場の良し悪しを判断する漁場状態モデルを畳み込み自己符号化器により構成し,操業時の航跡から観測可能な漁場状態情報を用いて学習した.このとき,過去の操業情報を陽に用いた漁場状態モデルの学習および入力する気象・海況属性ごとに漁場状態判定を行う属性依存閾値処理により,実際の良漁場の検知漏れを防ぎながら,漁場の絞り込みができることを明らかにした.この成果は,日本水産学会の大会にて報告され,水産・海洋工学に関する査読付き国際会議に採択されている.また,良漁場予測結果を表示するウェブインタフェースを開発し,予測結果を日々更新のうえ,漁師や水産の専門家と共有している. 【成果の意義と重要性】 漁場状態モデルを構築する際は,実際に釣りが行われた局所的な海域(良漁場)のデータのみを用いるのが一般的である.そのため,実際の良漁場を漏れなく検知するためには,漁場の絞り込みが困難になる(過検知).これは,漁師が漁場選択に関する意思決定を行うに際し致命的な問題である.2022年度に提案した漁場の絞り込みを考慮したモデリングは,この問題を解決するために重要な技術と言える.また,過検知の問題は,漁業支援のみならず正例のみでモデルを構築する問題に共通する課題であり,本研究で得られた知見は広く意義がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は当初の計画通り,漁場の状態を監視・説明可能にする基本技術の開発(WP-1)を主として研究・開発を実施した.具体的には,気象・海況情報から漁場の状態を高精度に推定し,漁師に効果的に提示するための技術と通知インタフェースの開発を行った.過去の操業情報を陽に用いた良漁場モデルの学習と気象・海況属性依存の判定による漁場の絞り込みの有効性を明らかにし,その成果の一部は日本水産学会の大会にて発表を行い,水産・海洋に関する査読付き国際会議に採択されている.また,漁場状態の推定結果を提示するウェブインタフェースを開発し,予測結果を日次で更新のうえ,実際に漁師や水産の専門家に対して情報共有を行っている.それにより用船調査に基づくデータ収集や漁場状態監視システムの評価が可能となり,2022年度は試験的に3件の調査が実施されている. 漁場の絞り込み技術は当初の計画には含まれていなかったものであるが,漁師や水産・海洋の専門家との意見交換を通じて漁場選択に関する意思決定において必須であるという結論に至ったため,当初計画にあった漁場グラフを用いた未操業海域への情報伝播よりも優先し,漁場状態監視の基盤技術として開発したものである.このように,研究内容は当初の計画から変更があったものの漁師や水産の専門家の要望に添った形での変更であり,目的は変更なく達成されている. 以上より,研究・開発は当初の計画通りおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,操業時に取得したデータ(航跡情報)を用いて,漁場監視システムを持続的に運用する技術(WP-2)について検討を行う予定である.特に,漁場状態の解像度向上と未操業海域への漁場状態情報の伝播に,航跡情報を用いることを試みる. 漁場の状態を良し悪しの2値だけでなくより高い解像度で表現するために,航跡情報から局所海域ごとの操業時間を取得する(操業時間が長いほど良い漁場と考える).このとき,気象・海況情報から操業時間を推定する深層ニューラルネットワークを構築し,1)操業時間がごく短いと推定された局所海域を負例(良漁場でない)とみなし,実際に操業を行った箇所(正例)との2値判別を行う,2)操業時間を良漁場度とみなす,3)操業時間推定器の中間層出力を特徴量として正例との照合を行う,といった方式で良漁場を判定することを試みる.このとき,潮流などの海況シミュレーション情報を用いて,操業時間に関するラベル情報を近隣の局所海域に伝播させることで,類似した気象・海況に対して異なる漁場状態ラベルが付与されることを防ぐ.さらに,用船調査等操業時の漁場監視インタフェースの利用ログを解析することで,漁師の意思決定過程を言語化するとともに,漁師が新たな知見や示唆を得るのに適したインタフェース設計を明らかにする. 本研究で対象としている漁(マルソウダ曳縄漁)は黒潮大蛇行の発生以降漁が安定せず,用船調査が当初の計画通り実施できない可能性が生じている.そのため,操業情報が日々集まることを想定した技術開発ではなく,少ない操業情報を効果的に活用して漁場監視システムを効率的に改善するための技術開発に焦点を当てる.例えば,漁場状態の解像度向上のため,当初の計画では操業中の船上映像から漁獲尾数を計測して用いる予定であったが,用船調査の回数減少を見越し,操業情報から漁獲量(正確には漁獲時間)を推定することで対応する.
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