研究課題/領域番号 |
22K19232
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分42:獣医学、畜産学およびその関連分野
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
今内 覚 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (40396304)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
|
キーワード | 牛伝染性リンパ腫 / 牛伝染性リンパ腫ウイルス / 地方病性牛伝染性リンパ腫 / レトロウイルス / プロウイルス / クローナリティ / 挿入部位 / 早期診断 / 早期発症診断法 / がん関連遺伝子 / がん化メカニズム |
研究開始時の研究の概要 |
牛伝染性リンパ腫は、近年全国的に激増し、令和2年の届出発生数は4,197頭で農林水産省が定める牛の監視伝染病疾患では最多(1998年発生頭数の42.4倍)である。牛伝染性リンパ腫の主な原因は、レトロウイルス科に属する牛伝染性リンパ腫ウイルス(Bovine leukemia virus: BLV)であるが、感染率(全国平均35%以上)が極めて高い現状を考えると、感染診断法の開発ではなく、的確な発症リスクに基づく早期摘発淘汰が極めて有効である。しかし、本病の発症機序は解明されておらず発症を予測可能な診断法は存在しない。そこで、早期診断法の実現を目的に本病の新たな発症分子機序を検証する。
|
研究実績の概要 |
牛伝染性リンパ腫は、近年全国的に激増し、令和4年の届出発生数は4,375頭で農林水産省が定める牛の監視伝染病疾患では最多(1998年発生頭数の43.7倍)である。牛伝染性リンパ腫の主な原因は、レトロウイルス科に属する牛伝染性リンパ腫ウイルス(Bovine leukemia virus: BLV)であるが、感染率(全国平均35%以上)が極めて高い現状を考えると、感染診断法の開発ではなく、的確な発症リスクに基づく早期摘発淘汰が極めて有効である。しかし、本病の発症機序は解明されておらず発症を予測可能な診断法は存在しない。そこで、早期診断法の実現を目的に本病の新たな発症分子機序を検証した。その結果、BLVは地方病性牛伝染性リンパ腫(EBL)を発症時に細胞の均一性、すなわちクローナリティが高くなることが確認された。独自の解析ソフト(CLOVA)を用いてクローナリティ値(Cv)の程度を正確に数値化した結果、EBL発症牛は、未発症キャリアと比べてCvが有意に高く、CvはEBLの高精度な診断マーカーになることが確認された。さらにBLVを羊に実験感染させて本手法で経時的に解析した結果、Cvはリンパ腫を発症する前にプロウイルスの挙動に先んじて上昇し、発症予測マーカーになることも確認され、牛での自然感染例における診断の再現にも成功した。今年度の研究により、クローナリティ解析はEBLの診断法並びに発症予測法として有用であると示された。今後は、大規模な野外調査により本技術の有用性を臨床現場で実証し、EBLによる畜産被害の軽減や生産性の向上に役立てていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
レトロウイルスのプロウイルスの宿主ゲノム導入部位を検出することにより、クローナリティを評価するプロウイルス挿入部位の網羅的増幅法ライジング(RAISING: Rapid Amplification of the Integration Site without Interference by Genomic DNA Contaminationの略)を開発し、牛伝染性リンパ腫に応用した。国内の農場で発生したBLV感染牛(AL, PL, EBL) 287頭の血液並びに169検体の腫瘍検体を用いて、RAISINGによりプロウイルス挿入部位を増幅し、BLV感染細胞のクローナリティ値を解析した。さらに、クローナリティ値あるいはこれまでのEBL診断マーカーであったプロウイルス量を用いてEBLの鑑別診断を試み、感度と特異度を算出して、EBLの診断法としての有用性を検証した。その結果、BLVを標的としたRAISINGは高感度、高精度であることが示され、高い再現性で感染細胞のクローナリティを測定可能であった。さらにBLV感染牛のクローナリティ解析を実施したところ、クローナリティ値は未発症牛(AL、PL)よりもEBLで高くなっていた。一方、従来の診断マーカーであったプロウイルス量はEBLとPLの血液検体で同程度であり、明確な差は認められなかった。実際に、クローナリティ値をマーカーとしてEBL診断を試みたところ、感度 87.1%、特異度 93.0%と非常に高い精度でEBLを鑑別することができた。一方、プロウイルス量をEBL診断のマーカーにした場合は、感度 44.6%、特異度 67.2%となり、EBLと未発症牛を見分けることができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果より、RAISINGを用いたクローナリティ解析は、EBLの診断と発症予測に非常に有効な方法であることが示された。今後、本開発技術を用いた「牛のがん検診」の実用化を目指し、国内の大学や各検査所、臨床獣医師、農家とのネットワークを駆使して、本診断法の大規模な実証研究を進めていく予定である。将来的に、牛のリンパ腫の発症を予測するがん検診が実用化されれば、発症ハイリスク牛の診断が可能となる。ハイリスク牛の摘発と優先淘汰を進めることにより、農場におけるEBLの発生を未然に防ぎ、畜産被害の軽減並びに生産性の向上に貢献すると期待される。
|