研究課題/領域番号 |
22K19254
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分42:獣医学、畜産学およびその関連分野
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
山下 泰尚 県立広島大学, 生物資源科学部, 准教授 (50452545)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
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キーワード | 精子形成 / ライディッヒ細胞 / 鉄 / 雄性不妊 / 鉄イオン / トランスフェリン / 脱メチル化 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は,成熟したライディッヒ細胞特異的トランスフェリン受容体欠損(Tfr1lc-/-)マウスではテストステロン(T)合成能のない幼若ライディッヒ細胞(FLC)のみ存在し,T合成能を有する成獣ライディッヒ細胞(ALC)が存在せず,精子形成不全となることを見出した。鉄は脱メチル化酵素TET2の発現と活性に重要であることから,Tfr1lc-/-マウスではALC出現に必要な遺伝子が脱メチル化されないため,T合成が生じず精子形成不全となると仮説を立てた。本研究では,Tfr1lc-/-マウスを用いてALC出現のメカニズムを解明し,ウシの遺伝資源保存へ応用展開する。
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研究実績の概要 |
哺乳動物において,鉄不足は生殖機能を低下させるが,その詳細は不明である。食事により取り込まれた鉄は肝臓に貯蔵され,トランスフェリン(TF)に結合して末梢組織のTF受容体(TFR1)を介して取り込まれる。特に精巣にはライディッヒ細胞(LC)にTFR1が局在することから,当研究室では,ライディッヒ細胞特異的TFR1KOマウス(Tfr1cKO)を作成した。その結果,テストステロンが低下し,精子形成不全を呈する結果を得た。 哺乳動物では,精子形成が開始されるためには,性成熟期以降の精巣でテストステロンが合成される必要がある。近年,幼若期のLCにはLH受容体(Lhcgr)発現が低く,このためテストステロン合成遺伝子(Cyp17a1)の発現が低い幼若ライディッヒ細胞(FLC)が存在し,成熟期にはLhcgrとCyp17a1が高発現し,テストステロンが合成可能な成獣ライディッヒ細胞(ALC)が存在することが示された。しかし,そのALCの出現メカニズムは不明である。本研究では,鉄依存的な脱メチル化酵素のTET2に着目し,ALCの出現にはTET2によりFLCが脱メチルされることが重要と仮説した。FLCマーカー(HSD11B), ALCマーカー(CYP17A1)を用いてControlとTfr1cKOの精巣間質を調べた結果,Tfr1cKOでは,FLCが多く,ALCが著しく低下し,同時に脱メチル化酵素(TET2)の発現が低下した。さらに,次世代シークエンスによるControlとTfr1cKOのLCを用いたメチル化シークエンスを行った結果,Tfr1cKOではLhcgr,Cyp17a1などのALC化への必須遺伝子の脱メチル化の割合が低下した。さらにin vitroアッセイ系により鉄を添加してFLCを培養するとLhcgrおよびCyp17a1の発現が上昇し,ALC様細胞へと分化することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度の研究計画では,ControlとTfr1cKOのLCをサンプリングし,これらを用いて次世代シークエンスにより全ゲノムをターゲットにした鉄依存的に脱メチル化される遺伝子の探索を行い,Tfr1cKOマウスではLhcgrやCyp17a1などのALC誘導に必須の因子の遺伝子のメチル化が低下していることを見出した。さらにin vitroアッセイ系を新たに立ち上げ,TF-Fe3+添加依存的にFLCにおいてLhcgrおよびCyp17a1の発現が増加し,ALCに必要な遺伝子セットの発現が増加すること,この結果FLCがALC様細胞へと変化することを明らかにした。しかし,新型コロナウイルスによる研究の制約に加え,in vitroアッセイ系の安定化に時間を要したため,in vitroアッセイ系でTet2 siRNAあるいは阻害剤によりTET2の機能を阻害することによりLhcgrやCyp17a1などの遺伝子の脱メチル化が低下し,FLCのままで存在するところまで研究を進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,in vitroアッセイ系によりTF-Fe3+添加依存的に発現増加するLhcgrおよびCyp17a1がTET2の脱メチル化によるものかをより詳細に検討し,ALC出現のためにFLCの脱メチル化が重要であることを明確にする。具体的には,in vitroアッセイ系でTF-Fe3+を添加してFLCを培養する際に,Tet2 siRNAあるいは阻害剤によりTET2の機能を阻害することによりLhcgrやCyp17a1などの遺伝子の脱メチル化が低下し,FLCのままで存在することを証明する。加えて,上記の基礎研究の知見を,ウシにおいて応用する。現在,精液性状が低下した個体の精巣および精巣上体を得ていることから,Tfr1遺伝子の発現低下やTET2の発現および活性低下の個体がどの程度存在するのかについても検討し,鉄不足に起因した牛の繁殖障害が存在することを明らかにする予定である。
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