研究課題/領域番号 |
22K19285
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
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研究分担者 |
小林 由香利 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (40866919)
長岡 孝治 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (80649799)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | Ghost Cytometry / Ghost Motion Imaging / がん免疫 / 腫瘍特異的T細胞 / AI / イメージング / ゴーストサイトメトリー / フローサイトメトリー / キラーT細胞 / 画像情報 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、「見るだけでがんを攻撃するキラーT細胞を判別する顕微鏡・セルソーターを開発すること」である。動的ゴーストイメージング (GMI: Ghost Motion Imaging) 法によって計測された細胞画像情報を、画像に再構成せずにデータのまま活用し、機械学習によりその細胞特性を捉えて高速判別する新手法である。詳細なT細胞の機能分類を教師としてイメージング情報による識別の機械学習を行い、連続的に変化するT細胞をイメージ情報によってのみ識別可能にする技術を開発する。これにより、ヘテロな腫瘍浸潤リンパ球の中から、がんを攻撃するヒトキラーT細胞の判別を可能にする。
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研究実績の概要 |
がん免疫治療の根幹は、がん細胞を特異的に認識し傷害する腫瘍(抗原)特異的T細胞(キラーT細胞)による抗腫瘍免疫応答である。腫瘍特異的T細胞は、腫瘍に存在する遺伝子変異によって生じた変異アミノ酸を含んだネオアンチゲンを認識することが知られているが、ネオアンチゲンの多くは、パッセンジャー変異と呼ばれる個々の患者に固有の遺伝子変異産物であるため、ネオアンチゲンを同定することは容易ではない。ネオアンチゲンを同定できない大多数の患者においては、MHCテトラマーを用いた腫瘍特異的T細胞を同定、検出することが困難である。がん免疫治療開発に従事するためには、腫瘍特異的T細胞の同定と分離を可能にする新たな技術革新の導入が必要であった。 シンクサイトの研究者らは、高速に細胞の構造情報を取得するイメージング技術と、その情報をリアルタイムで処理するデータ処理技術に先端マイクロ流体細胞分取技術を融合させたGhost Cytometry (GC) 技術(Kawamura Y, et al. Science. 2018 15;360: 1246-1251)の開発に成功した。研究代表者の垣見は、このGC技術に着目し、細胞表面抗原の発現を検出するフローサイトメトリーなどの従来の技術だけでは識別できなかった腫瘍特異的T細胞(がんを攻撃するキラーT細胞)集団に対して、GC技術を用いた独自の評価を行うことで、形態を超えて機能評価を可能にするシステム開発が可能になると考えて本研究を実施した。動的ゴーストイメージング (GMI: Ghost Motion Imaging) 法によって計測された細胞画像情報を、画像に再構成せずにデータのまま活用し、機械学習によりその細胞特性を捉えて高速判別する新手法を活用して、がんを攻撃するキラーT細胞を判別する顕微鏡、セルソーターを開発することが可能になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIには、詳細で正確な学習データセットと検証のためのデータセットが必要である。まず、がん細胞表面に提示されたがん抗原を認識し、正常細胞には反応せず、がん細胞に対してのみ反応する腫瘍特異的T細胞を教師として機械学習を行った。マウスメラノーマ細胞B16F10に対する特異的CTLは、gp100を認識することが知られている。また、我々は、胃がん細胞株YTN16に対する特異的CTLがネオアンチゲンCdt1を認識することを明らかにした(Nagaoka et al. Cancers 2021 Dec 27;14(1):106)。そこで、B16F10とYTN16の2種類のがん細胞株に対するCTLを用いて学習データを作成した。B16F10に対しては、B16特異的CTLのTCRトランスジェニックマウス(pmel-1)を用いたモノクローナルなCTL細胞を用いた。YTN16に対しては、YTN16を拒絶したマウスの脾臓細胞からがん抗原Cdt1を認識するポリクローナルナCTL細胞株を樹立して実験に用いた。いずれのCTLもがん抗原を認識すると、直ちに活性化し、がん細胞を攻撃する。活性化したCTLは細胞表面にCD69及びCD137(4-1BB)を発現することから、蛍光色素を標識した抗CD69抗体あるいは抗CD137抗体を用いて、フローサイトメーターでCD69、CD137の発現を検出できる。従来型のフローサイトメトリーと同様に前方散布(FSC)、側面散布(SSC)データを取得し、GC技術によって取得したGMIデータを合わせて、B16F10特異的CTLでは、がん細胞に反応したCTLをROC-AUC値0.930で判別できた。YTN16CTLでは、ROC-AUC値0.788で判別できた。均一な細胞集団であるB16F10特異的CTLに比べると、ポリクローナルな細胞集団のYTN16では、すこし判別が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
TCRトランスジェニックマウスを用いたモノクローナルなCTLに対しては、蛍光色素標識抗体を用いることなくGMIデータだけでがん抗原を認識したT細胞の変化を判別できた。一方、マウスから樹立したポリクローナルなCdt1特異的CTLには、がん抗原に対するTCR親和性が異なる様々な細胞を含んでおり、活性化の程度が異なるため、GMIデータのみの判別では、偽陽性あるいは偽陰性の細胞集団を完全に避けることは困難であった。実際の臨床検体では、よりヘテロな細胞集団から、がん抗原反応性のCTLを判別する必要があることから、教師データとして、より複雑な細胞集団を活用することを予定している。 In vitroの教師データ作成に用いたYTN16胃がん細胞株はC57BL/6マウスの皮下に摂取すると腫瘍塊を形成する。腫瘍内にはYTN16特異的CTLが浸潤しており、それらの細胞はCdt1-テトラマーを用いて検出することが可能である。そこで、YTN16腫瘍浸潤リンパ球からセルソーターを用いてCdt1テトラマー陽性細胞と陰性細胞を分離採取して、GMIデータを取得し、学習データとして教師あり機械学習を行い、腫瘍特異的CTL判別する。 腫瘍浸潤CTLは、テトラマー標識で判定できる抗原特異性のほかに、分化、疲弊や活性化の度合いが異なるヘテロな細胞集団である。そこで、腫瘍浸潤CTLのシングルセルRNA-Seq解析を行い、一つ一つの細胞の遺伝子発現によって、細胞の活性化や疲弊状態、メモリーへの分化段階の情報を把握し、より詳細な学習データとGMIデータの紐づけを行い、教師あり学習を行う。これにより、ヘテロな細胞集団に対してもより正確な判別が可能になると期待される。
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