研究課題/領域番号 |
22K19306
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川上 厚志 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (00221896)
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研究分担者 |
川口 茜 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (10749013)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 組織再生 / ゼブラフィッシュ / ヒレ / 位置情報 / エピゲノム |
研究開始時の研究の概要 |
多細胞体には位置情報が存在すると考えられるが,発生後の組織における存在は明らかでない。私達は,移植実験によって,魚類の鰭条に長さを指令する情報が内在性に存在し,安定な細胞記憶であることを明らかにした。位置情報は,再生芽細胞の増殖を介して,形状を作ると考えられる。さらに,この安定な性質は,エピジェネティックな修飾の関与を示唆している。 本研究では,鰭条毎の位置情報の性質をさらに検証し,部域的な増殖差を生み出す機構,位置情報に従って発現が異なる制御因子,さらに,制御因子発現におけるエピジェネティックな機構の関与,さらに,エピジェネティックな細胞記憶の組織形成時における正立機構について解明する。
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研究実績の概要 |
多細胞体には位置情報が存在すると考えられるが,発生後の組織における存在は明らかでない。私達は,移植実験によって,魚類の鰭条に長さを指令する情報が内在性に存在し,鰭条毎の位置情報は長期に安定で繰り返し再生を行った場合でもほぼ変化しないこと,鰭条の長さ情報は基部―先端部に沿って一様に分布していることを初年度の研究で明らかにした。また,長い鰭条と短い鰭条の位置情報に従って発現が制御される制御因子の探索を試み,いくつかの鰭条毎に発現量が異なる,再生芽の増殖を制御すると考えられる遺伝子候補を同定した。 再生組織は切断面の再生芽の増殖によって再形成されることから,長さの情報は鰭条毎に発現量が異なるような再生芽の増殖因子であろうと考えられた。そこで,長い短い鰭条間で異なって増殖を制御すると予想された候補遺伝子の強制発現によるアプローチを試みた。RNAプロファイリングによって同定した,Inhibin/Tgfb/Bmpの阻害分子であるFolistatin-like遺伝子や,Wntリガンドの阻害分子であるDkk3を増殖制御因子について,熱誘導プロモーター下に発現するコンストラクトの作製とトランスジェニックゼブラフィッシュの作製を行い,強制発現したFollistatin-like, Dkk3の再生時のヒレ形態への効果を検証した。しかしながら,組織全体での強制発現では再生した長さへの明瞭な効果はこれまでのところ認められていない。 位置情報とは組織の部域による増殖制御であること,さらにそれは長期に安定で細胞に内在のものであることが見えてきた。このような増殖のチューニングには,増殖に関わるような遺伝子の,細胞系譜や部域によるエピジェネティックな制御が関わると考えられる。そこで,さらに位置情報メカニズムを解明するアプローチとして,ヒレの部域毎のゲノムワイドなエピジェネティック解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
多細胞体における位置情報のメカニズムについて,今年度においては以下の研究の進捗があった。 1.鰭条間で異なって増殖を制御すると予想された遺伝子の強制発現によるアプローチを試みた。長い短い鰭条の発現遺伝子レベルをRNAプロファイリングによって比較し,いくつかの候補遺伝子を同定した。 2.RNAプロファイリングによって同定したFolistatin-like遺伝子およびDkk3を,熱誘導プロモーター下に発現するコンストラクトの作製とトランスジェニックゼブラフィッシュの作製を行った。いくつかのトランスジェニック系統を作製し,これらを用いて強制発現したFollistatin-like, Dkk3の再生ヒレ形態への効果を検証した。トランスジェニックの作製には最低でも3世代の交配を要したが,それらの解析はほとんど差が認められず,予想よりも多くの時間を要した。おそらく,発現効率が内在のものを遥かに超えるほど多くなく,内在の遺伝子の領域差を埋めるほどではなかった可能性が考えられる。今後,一部の領域での発現を誘導するような方法が必要であろう。 3.これまでの解析から,位置情報とは組織の部域による増殖制御であること,さらにそれは長期に安定で細胞に内在のものであることが解明できた。このような増殖のチューニングには,増殖に関わるような遺伝子の,細胞系譜や部域によるエピジェネティックな制御が関わると考えられ,ヒレの部域毎のゲノムワイドなエピジェネティック解析を進めている。このために,エピジェネティック解析の専門家,川口茜博士らと共同研究を開始し,当初の予定よりはやや遅れたが,組織のサンプリング,RNA抽出等を完了したところである。 以上,計画の見直しもあり,進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
多細胞体における位置情報のメカニズム解明のため,今後は以下の研究を推進する予定である。 1.これまでの解析から,位置情報とは組織の部域による増殖制御であること,さらにそれは長期に安定で細胞に内在のものであることが解明でき,増殖に関わるような遺伝子の,細胞系譜や部域によるエピジェネティックな制御が位置情報の実体に関わると考えられた。そこで,ヒレの部域毎のゲノムワイドなエピジェネティック解析を進め,発現が部域によって異なる遺伝子,特に増殖制御に関わるものの周囲のエピゲノムの違いを同定する。 2.明らかになったゲノムDNA上の修飾の違いが発現差に結びついているか,遺伝学的な改変を行って検証する。また,それによって,ヒレの形態そのものも改変可能か検証する。 3.ヒレ鰭条の長さの違いは再生芽の増殖の程度によっているが,細胞の増殖速度に差があるのか,最初に再生芽にリクルートされてくるプライム化された細胞数に差があるのか,それらの両方なのかは明らかでない。そこで,Cre-loxPなどの細胞標識を用いて,再生芽へとリクルートされる間葉細胞の数と,それらの増殖速度,増殖率を計測することにより,位置情報の形態への翻訳機構を明らかにする。
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